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中華な彼女ー世界ふしぎ発見とサッカー・武田修宏さんと、時々ダウンタウン浜田さんー

二十代前半の頃、僕は中国人の女性と付き合っていたことがある。

出会いのきっかけは友人の紹介だった。彼女は中国の大連からやってきた留学生で、ラーメン屋で働いていた。

男性には一定の割合で、この病気に感染する者達が存在する。

『王将で働いている女の子に惹かれる病』、
一般的には、『看板娘病』と呼ばれている。

純喫茶、場末の居酒屋、中華料理屋など、ただれたおっさん達の臭い息と煙草の煙が充満している場所で働く可愛い店員さんを見ると、心を持って行かれる傾向の人々のことである。

「えっ、働くんやったらもっとお洒落で楽なところあるでしょ。ほら、カフェとかさ。なんでそこで働くの?」

そのギャップとミステリーでぐらっと揺らぐ。

ギャップ萌えという症状は、女性だけでなく男性にもあるのだ。

この病に罹患された方々だったらこう反論されるだろう。

そりゃ男だったら全員そうに決まっているだろ。
看板娘が嫌いな奴なんて頭がおかしいだろ!

その気持ちは痛いほどわかる。だが自分がそうだからといって他人もそうだと断定するほど愚かなことはない。今は多様性の時代だ。

その例外を一つ出そう。

放送作家時代、サッカー元日本代表の武田信宏さんと打ち合わせをしたことがある。
テレビスタジオ・TMCにある今昔庵という喫茶店だ。

タレントとスタッフはよくここで打ち合わせをする。
長髪の名物店主がいて、レイザーラモンのRGさんによくモノマネされていた。
今はもう店がなくなったみたいですね。

ちょうどダウンタウンの浜田さんがやってきたので、
武田さんが直立不動でご挨拶をされると、
浜田さんがあの『浜田スマイル』を浮かべ、軽く手を挙げられた。

その後ろを大勢のスタッフ達が追いかけていく。
TMC名物・『浜田の十戒』だ。

まさにこれぞTHE芸能界。

安堵の表情で武田さんが座られると、僕は早速取材に入った。
「武田さんはどんな女性がタイプなんですか?」

「モデル。それしかないっしょ!」

光の速さで即答された。僕の体感では、「どんな……」と言いかけたぐらいでカットインされた。

弾けんばかりの笑みと予知能力者並みの反応速度だった。

この驚異の予測力が、ごっつあんゴールを量産した秘訣なのだ。

そして僕の『断言されたランキング』の中で、
武田さんの、「それしかないっしょ!」はぶっちぎりの一位となっている。誰にも抜けない世界記録だ。

武田さんは看板娘には惹かれたりはしないのだろう。

モデル、港区、高級レストラン、ハイブランド、インスタグラム、杉並区に家があるのに「埼玉だ」と言ってIT社長からせしめる巨額のタクシー代……。

アンガールズの田中さんが、「ふざけんな、おまえら!」と激昂する女性が武田さんにとってのストライクゾーンなのだ。

ただし武田さんもモデルが看板娘だったら話は違ってくるだろうが、
それはUMA並みに発見が困難とされている。

あっ、
プロの作家とは思えないほど話が脱線したので元に戻します……。

友人に彼女を紹介してもらうと、
その中国人の女の子は可愛くて気さくだった。

看板娘×ラーメン屋×中国人女子……なかなか強烈なコンボだ。

そのとき僕が餃子が好きだという話になった。

「私、餃子作るのうまいよ」
彼女が笑顔でそう言った。

日本で餃子というと焼き餃子がメインだが、中国では水餃子がメインらしい。
彼女はいつも皮から自分で作るとのことだった。

「それ、うまそう」
思わずそう漏らすと、
「じゃあ明日家来る? 私作るよ」
彼女が顔を輝かせて胸を叩いた。

こうして翌日彼女の家に伺うことになった。
まさか昨日会ったばかりに中国人の女の子の部屋に行くとは考えてもいなかった。

彼女が出迎えてくれると、早速餃子を作りはじめた。
プロ並みの手並みで皮から一つ一つ作っていく。
餃子が作るのがうまいという言葉に嘘偽りはない。

『本場の味』という言葉と、『ゴーンというドラの音』が脳内を埋め尽くしていた。

あっという間にテーブルの上に、水餃子の入ったスープが置かれた。
白い半透明な餃子が、ゆらゆらと揺らめいている。
生唾が込み上げてきた。

「早く、早く食べて」
彼女がそう急かすので、僕は慌てて口にした。

旨い!

鶏ガラ出しのスープ、つるっとした食感、小麦の香り、じゅわっとにじみ出る肉汁、これほどおいしい水餃子を食べたことがなかった。

だがその直後に、この行為にはある意味があったことが判明する。

すぐさま完食すると、彼女が満面の笑みを浮かべてこう言った。

「これで私達、彼氏と彼女ね」

「えっ、どういうこと?」

疑問符で頭の中がいっぱいになった。

彼女曰く、中国の大連では女性が作った水餃子を男性が食べたら、
それは付き合うことを了承したという印なのだそうだ。

何、その世界ふしぎ発見のクイズになりそうな習慣……。

僕が餃子が好きだというのも、
彼女にとっては君のことが好きだから水餃子を作ってくれというサインと捉えていたそうだ。

こうして僕に中国人の彼女ができた。

だがその彼氏彼女期間は二週間も続かなかった。
(その話はまた今度書きます)

それから何年か経って、大連出身の中国人の方と知り合うことができた。

待ちに待った瞬間だった。
長年の疑問をそこでぶつけた。大連では水餃子を食べたら付き合う印なのか、と。

「そんなの聞いたことがないですよ」

そうあっさり否定されたのだ。

一体、水餃子の話は本当なのか嘘だったのか?

ミステリハンターにぜひ謎を解き明かして欲しい。

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