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主に西洋の美術・歴史・文化について思いついたことを備忘録的に残します。 専門はイタリア…

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主に西洋の美術・歴史・文化について思いついたことを備忘録的に残します。 専門はイタリアルネサンス美術。

最近の記事

なぜ読者はフィクションと現実を混同するのか

 以前、X(通称Twitter)で、『マダムたちのルームシェア』という漫画を見かけました。大変ポジティブなほっこりする内容の漫画です。それを何の気なしに読んでいたとき、大変どうでもいいことが頭をよぎりました。  この漫画では、「栞」さんというマダムが登場します。実は、この「栞」という漢字が人名に使われるようになったのは意外と最近のことで、平成2年(1990年)からなのです。  現在は2024年なので、私たちの世界の中で栞さんという名前の方は、最も年長でも34歳ということに

    • パリとおトイレ

       憧れの都パリ!に行ってきました。パリといえば花の都なんて呼ばれるほど華やかな都市で(余談ですが日本以外ではあまりパリのことを「花の都」とは呼ばないようですね。「花の都」といえばフィレンツェを指します。)、多くの人の憧れの街No.1として長いこと君臨し続けているのではないでしょうか。実際のパリはなかなかすべてが華やかとはいかず、理想と現実のギャップにショックを受けてしまう「パリ症候群」なんてものもあるそうです。私はそれほど多くの期待をパリにしていませんでしたが、パリを語らずし

      • パリ旅行記①ミュージアムパスってどうやって使うの!?

        パリは言うまでもなく芸術の都!美術館、博物館が大量にあって数日の旅行ではまわり切れません。少しでもたくさんのミュージアムを回りたい時、パリミュージアムパスという選択肢があります。買い方、使える施設、などは詳しく説明しているサイトがありますのでそちらをどうぞ。パリ市内のほぼすべての博物館・美術館で使えるうえ、私は使用しませんでしたが凱旋門、エッフェル塔などの施設にも入れるはずです。また教会系施設で観光客が多い場所も使えます。実際施設で使った時どういう感じだったか日記として残して

        • 小説を通してパリを見るということ―『フーコーの振り子』とパリ散策

           『小説の森散策』というハーヴァード大学での講義録の中で、講演者(そして講義録の著者でもある)ウンベルト・エーコは自身の小説のとあるシーンに関する読者の面白い反応を取り上げています。それは彼の2作目の作品『フーコーの振り子』で主人公のカゾボンが深夜のパリを放浪するという場面に対してのものでした。カゾボンの深夜行は1984年6月23日から24日にかけての夜、サン・マルタン街から始まり様々な実在する通り歩きながら最終的にヴォージュ広場に到達して終わります。この現実的で過度に詳細な

        なぜ読者はフィクションと現実を混同するのか

          ボッティチェリは「泣き虫」だったのか?②

          ①の話は以下よりどうぞ↓  ①ではイタリア・ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェリ(Sandro Botticelli, 1445-1510)と当時のフィレンツェに大きな影響を及ぼした修道士ジローラモ・サヴォナローラ(Girolamo Savonarola, 1452-1498)との結びつきについて書きました。ボッティチェリは度々サヴォナローラとの関係において語られます。それはルネサンス期の画家兼美術史家ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari, 1511-1

          ボッティチェリは「泣き虫」だったのか?②

          ボッティチェリは「泣き虫」だったのか?①

           アレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピ、通称サンドロ・ボッティチェリ(Sandro Botticelli, 1445-1510)はイタリア・ルネサンスを代表する巨匠の1人です。この画家は聖母子像などの美しいキリスト教絵画を数多く残しましたが、それだけでなく《ヴィーナスの誕生》や《春》などの異教的(古代ギリシア・ローマ文化のこと)主題の絵画においてより一層卓越した作品を残しました。彼の神話主題を扱う技量は、数々の大芸術家が生まれた15世紀のフィレンツェの中で随一の評価

          ボッティチェリは「泣き虫」だったのか?①

          『その女アレックス』に見る物語の中の現代的女性像

           『その女アレックス』はフランス人作家ピエール・ルメートルによる小説である。本作は本国フランスやミステリの本場イギリスで高い評価を得て賞レースを勝ち抜いた後、その実績を引っ提げて日本語に翻訳されるや否や「このミステリーがすごい!2015」海外部門第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第1位などあらゆる賞を総なめした大ヒット作である。  本作は物語の構成の妙が非常に評価された。数々のミステリ評論家たちがその舌を巻いた見事な離れ業である。ただそのトリックやミステリとして

          『その女アレックス』に見る物語の中の現代的女性像