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砂漠の理想郷 Indian Wells 2021

 次の4大大会である「全豪オープン2022」までテニスの記事は書かないだろうと思っていたのですが、あまりにも番狂わせが起こったので思わず書いてみました。

5番目の4大大会? 

 これまで何度も書いてきましたが、プロテニスの世界で最も価値のある大会は4大大会(全豪・全仏・全英・全米)であり、それらをまとめて「グランドスラム(GS)」と呼ぶこともあります。その次に価値のある大会は「マスターズ1000」と呼ばれ、確か年間9大会(男子)あり、それに優勝すれば1000ポイント獲得です。ちなみにGSは2000ポイントです。

 今回の「BNPパリバオープン」はマスターズ1000の一つであり、我々テニスファンや関係者は、開催地の地名である「インディアン・ウェルス(IW)」と呼ぶのが普通で、本来は3月開催です。(コロナ禍で10月に変更。この影響で日本の「楽天ジャパンオープン」が中止に追い込まれたとの噂もあります)

 昔テレビコマーシャルで「東京砂漠」っていう歌がありましたが(古っ)、ここはカリフォルニアの砂漠地帯です。その一角のオアシスにあるこの「インディアン・ウェルス テニスガーデン」の現在のオーナー、ラリー・エリソンは世界的なハイテク企業オラクルの共同創業者で世界8位の富豪です。彼はテニスが好きすぎて、このテニスガーデンの施設を年々増設し、今や合計29面のコートを擁し、メインスタジアムは世界2位の収容人数を誇ります。

 印象派の画家クロード・モネがフランス・ジヴェルニーに創作のための理想の庭を作り上げたように、ビジネスの世界で成功したエリソンは、この砂漠に正に自分が理想とするテニスパラダイスを創り上げたのですね。

 ここIWは選手にも観客にも優しい大会作りをしており、エリソンはなんとここを「5番目のGS」にしようと目論んでいる、とどこかの記事で読んだ記憶があります。「観客に優しい」という面で言うと、練習コートの見物がしやすいようで、有名選手の「練習動画」をYouTubeで投稿する人が毎年たくさんいます。私は試合と同じくらいその練習動画を観るのが好きです。

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思い出のリヴァーサイド

 記事を書くにあたってこの土地の事を詳しく調べたところ、インディアン・ウェルスがカリフォルニア州のリヴァーサイド郡にあるということを知り「ェ⁈」と思いました。

 大学1年の夏休み、私はカリフォルニア大学のリヴァーサイド校というところで1ヶ月間英語の勉強をしたのでした。西海岸のこの辺りはとにかく天気が良くて、1ヶ月間一度も雨は降らず、毎日カラッと晴天が続き、緑のあるところには必ずスプリンクラーがシュパシュパ回っており、ちっちゃな虹を作ったりしていたのを覚えています。実はこのホームステイプログラムは失敗で、ほとんど英語は上達せず帰国しました。30年以上前の話です…

もったいない人、頑張る

 メディア等で、選手の特徴を一言で表す言葉として "talented" とか "dangerous" などがよく使われます。talented は直訳すると「才能がある」ですが、テニスにおいては器用で多彩な技を持っている選手を指すことが多いです。dangerous の直訳はもちろん「危険」ですが、こちらはランキングは低いけど調子に乗るととんでもないプレイを連発して大物を食ってしまうような選手を指します。 

 そして  talented だけどランキングが上がらなかったりビッグタイトルがないと "wasted talent" と言われてしまいます。直訳すると「無駄な才能」となりますが、私はこれを「もったいない人」と意訳して、以前そういう選手を紹介したことがありました。

 今回はこの人の頑張りがめちゃくちゃ嬉しかったのです。グリゴール・ディミトロフ、ブルガリアの30歳、世界ランク28位で錦織くんと同世代です。

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 4回戦で、全米オープンでジョコを倒して優勝したメドヴェーデフに競り勝ち、準々決勝ではウィンブルドンでフェデラーをストレートで下し急成長中のフルカッチをフルセットで破りベスト4にこぎつけました。メドヴェ戦ではカウンターを食らわないようにやや退屈なラリーを我慢強く続け、ここぞという時に厳しいショットを打ち有利な展開を作っていました。

 フェデラーを彷彿させる華麗なテニスで一時は世界ランク3位まで昇りつめ、ビッグタイトルも時間の問題かと思いきやその後は低迷、「もったいない人」の1人として名前が挙がるようになっていました。それでもくさらず続けてきた努力と、作戦と、メンタルが一つになった会心の大会でした。ちなみに彼は寝る前に必ず「三つの感謝」を紙に書くんだそうです。

危険な人

 "dangerous" な人を紹介するのは今回が初めてかも知れません。ジョージアから来た29歳、ニコロス・バシラシュヴィリです。ジョージア人の名前は言いにくい!

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 世界ランク36位。全身でボールをしばきあげるような、この風貌に違わぬワイルドなテニスです。調子がいい時はブルドーザーのように強敵をなぎ倒し、今回はチチパスを撃破して決勝までやってきました。しかしこれまで "dangerous" な選手で終わっているのは何が足りないのでしょう?

着実な人

 もう一つ選手の特徴を表す頻出ワードが "consistent" です。直訳は「首尾一貫した」などとなりますが、派手さはないがどんな場面でも簡単に相手の喜ぶ展開にさせない着実なプレイをする選手にこの "consistent" が使われる印象があります。ひょっとしてこの人は "consistent player" の仲間入りをするのでしょうか?

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 現在イギリス人ではこの人が最高ランクです。キャメロン・ノリー、26歳で世界ランクも26位、左利きです。テキサスの大学に籍があるそうで、まだ勉強してるんですね。なんか地味な人ですが、じわじわと実力つけてきてます。今回も地味に勝ち上がってきて準決勝でディミトロフをストレートで下し決勝進出です。ついにビッグタイトルを手にするのか?決勝は日本時間で明日の朝8時以降です。

 まとめると、"talented" "dangerous" "consistent" が選手の性質を表す三つの頻出ワードで、「器用」「危険」「きっちり」という3Kになりました(無理矢理…)。

おちゃらけクイーン

 オマケと言ったら失礼ですが、女子のダブルスです。私の贔屓である台湾の謝淑薇(シェイ・スーウェイ)が優勝しました!彼女については以前紹介しています。

 今年になってからペアを組んでいるベルギーのエリーゼ・メルテンスと、ウィンブルドンに次いで2度目のタイトルです。で、その記者会見ですよ。

 なんかおかしな被り物をして会見場に現れました。パートナーのメルテンスによると、「準々決勝の時?、私が外に出てくるとスーウェイがドラゴンの被り物をして飛び跳ねてたの。大笑いしたわ。それでリラックスできたのは確かね」だそうです。

 深刻な雰囲気が苦手のスーウェイは会見でもジョークを絶やしませんが、寒い時もけっこうあります(笑)。そんな彼女ももう35歳のベテラン、あとどれくらいそのトリッキーなプレイとオフコートのおちゃらけを見せてくれるのでしょうか。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

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