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心の中を、全て言葉にしてあいまいさを許さない厳しさ

 辻村深月著「朝が来る」をたった今読み終わり書き始めています。この作家に関しては見たことも聞いたこともなかったのですが、ひとことで言うとまっこと素晴らしい作品で、2015年に発行されておそらくたくさんの人が読んでいるに違いありません。十中八九書店で自分からは手に取らない類の本著を「おすすめ」として貸し出してくれる”本読み”の友人は貴重です。

 養子縁組で子供をもらい受けた40代の夫婦が登場します。ですから「家族とは何か?」を問うような話かと思いきやちょっと違います。中学生で妊娠し子供を産む少女が登場します。ですから「金八先生か?」と思いきや、そんな美しい話では全くありませんでした。

 湊かなえ作品を読んだ時にも感じたことですが、これは女性によく読まれるのではないでしょうか。つまり登場人物の心の中を、丁寧に、いやどちらかというと執拗に言葉にしていく作業に凄みを感じました。こういうことは男性作家にはできないのではないかとさえ思うほどです。(かなり偏見です。すみません)女性は時に男が自覚していない「甘え」や「ごまかし」、「保身」といったものを言葉にして断罪することがありますが、プロの作家がそれをやるともう言葉の持つ表現の可能性が神々しく私には見えました。

 もちろんそれらの作業は男性の登場人物だけでなくほぼ全ての登場人物に対して行われるのですが、特に若くして妊娠・出産を経験する中学生「片倉ひかり」本人はもちろん、ひかりの子供の父親である同級生「たくみ」に対しても「言葉による”無意識”の暴露」作業は容赦なく行われます。身体だけ大人で頭の中は幼稚な中学男子にその暴露作業は酷だろうと思うのは私が男だからでしょう。しかしひかりはもっと残酷な現実を生きなければいけないのですから中学男子とて制裁は免れません。ただひかりはそのように巧の無自覚の心理を見透かすものの、実際に言葉として口から出すことはできません。そういった思春期特有の、心の中と口述力のギャップの大きさみたいなものも実にリアルに描かれており、自分の子供時代を思い出していました。

 ある夫婦が「不妊症」と判明したときに何が起こるのか、また不妊治療の甲斐もなく「養子縁組」を選んだ時には何が起こるのか、あるいは中学生が妊娠し出産を選んだならば一体自分や周囲はどうなるのか、といったことをまるで自分が経験して来たかのように徹底的にリアルに描かれます。ですから、もしかしてこの物語はリアルすぎる救いのない最後になるのではないか、という不安が次第に頭をもたげるかも知れません。いや私がそう、残りページ僅かというところでまさに不安MAXでした。冒頭の写真のように、激しい夕立がすーっとやんで虹が立ち上がるような、そんな最後になるといいのですが…。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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