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なんの波乱もない家庭4

ある日、私は昼食の支度をしていた。

(この前のカズヤさんとの夜、最高やったな)

旦那との逢瀬を頭の中で反芻しながら、米粉のフォカッチャとスパイスカレーを作っていた。

材料は畑と冷蔵庫の余り物。
大根の葉や白い部分、皮をむいたり剥かなかったり適当に作る。
市販のものと畑で取れたものがごっちゃになっているので、ケミカルフリーはとうに諦めていた。(といいつつ、覚えている範囲で農薬がついていそうな野菜の皮はむく。何事も程々が一番!)

とりあえず目に入ったものを入れていく。

国産の豚挽き肉と畑で取れたかぼちゃ(皮ごとスライスしてから種を取って細かく刻む)

隠し味には実家で採れた柿を3つほど皮ごと入れる。もちろん種は取って刻む。これで白砂糖の代わりになる。(カズヤさんは別に甘けりゃなんでもいいと言うが)

ネットで取り寄せた天然の塩をいれ、スーパーで揃えたスパイスの類の中からクミンとコリアンダーとクローブを入れる。
 
クローブは噛みしめると苦みが出るので、1つだけ。カズヤさん、苦いの嫌がるからなあ。良薬口に苦しなのに。

いつものようにガスで作ろうとしたら、火がつかない。

仕方ない。久しぶりにアレ出すか。

私は物置から非常用のガスコンロを取り出し、ガスボンベを挿入し、試しに火をつけてみた。

ボッ🔥

普通についたのでホッとしてスパイスカレーの鍋を火にかけた。

するとカナトが一人遊びを終えて台所にやってきた。

「お母さん、なんで1人でキャンプしてるの?」

「(笑)なんかそんな気分になったんや。カナトも手伝う?」

「うん!今日は雨やからお絵かきしとったけど飽きてきたとこやってん!」

カナトの方言は私譲りだ。北陸弁、熊本弁、関西弁、標準語、横浜弁、英語、フランス語、中国語、母親語、なんでもかんでも真似されるので困っている。

くしゃみをした時に「bless you」と言われた時は、少しびっくりした。

私も言っちゃってるんだろうな。

子どもは親のマネをするものだとは聞いていたが、まさかここまでトレースされるとは。

キングアンドプリンスのTraceTraceが頭に流れる。

永瀬くん、元気かな。

ふっと意識がアチャラの世界に飛びそうだったので、慌ててカナトに目線を向ける。

「お母さん、どうせまたレンレンのこと考えてたんでしょ!」

カナトにはお見通しだ。

「さ、カナトはお皿を用意してね~今日はフォカッチャだよ☺」

「フォカッチャってなあに?」

「パンみたいなもんやな」

「ふーん」

「お父さんとの何回目かのデートの時にな、2人でインドカレー食べたんや。アレを思い出して、久しぶりに食べたくなったんや。でもナンとフォカッチャは少し違うんやで。食感がふわふわな方がフォカッチャやからな。覚えとき。」

「わかったあ☺☺☺ふあふあがふぉかっちゃやね!」

「せや!ふあふあがふぉかっちゃや!」

「フォカッチャ!フォカッチャ!」

「うんうん、皿出してなー」

「フォカッチャ!フォカッチャ!」

カナトは少しテンションが上がりすぎている。いかんいかん、セーブせねば。

「カナトーお皿出してくれた?」

声音を変えて、次の指示を出す。低い声に驚いたのか、カナトの身体が少し強張る。

「はい!ボス!」

急にカイトは新人の警察官並みに従順になり、淡々と水屋からお皿を出し始める。

やっぱりあの人の子やなあ。私はカズヤさんのことを考える。

元商社マンで警察官で宇宙飛行士だったカズヤさん。今は新人作家として毎日打ち合わせに忙しい。

一応平日は毎日どこかへ出勤しているが、仕事のスケジュールや納期なども一切わからない。

家に帰ってきたときだけ、家族として過ごす、という感じだ。

「カズヤさんがベッパンだったらどうしよう」

つい口に出してしまい、またカナトが反応する。

「ベッパンってなあに???」

は。もう何年も前の大ヒットドラマ「VITANT」の余波が。私の想像力もたいがいやな。今に集中せんと。

カナトに向き直る。

「日本古来のスパイのことや。」

「パパ、スパイなの!?」

おおよろこびのカナトは、はしゃぎすぎて足の小指をダイニングテーブルにぶつけてしまった。

「いたあああい!!!!!」

泣き叫ぶカナト。あまりの声の大きさにお義母さんが飛んできた。

「どうしたの!?」

「あ、ごめんなさい、うるさくて。カナトが興奮して指を痛めただけなんです。」

「あらあら、カナト、こっちいらっしゃい」

「ばあばーーーーいたいよーーーーう😭」

カナトは長男らしさ全開で、ここぞとばかりにお義母さんに甘えている。カズヤさんそっくりやな、と思いながら、少し複雑な思いを抱く。

男って甘えん坊やよなあ。

カズヤさんがコロナになった時も、、、

と、また回想に耽りそうになったので、クローブを噛み締めて理性を取り戻す。
リスペリドンの代わりにクローブを噛むようになったのはいつからだろう?

そんなことを考えながら、集中集中!と唱えてフォカッチャに向き直す。

いつの間にかスパイスカレーはいい具合に火が通り水気もなくなって食感のほどよく残ったペーストになっていた。よしよし、ベストやな。

味を確かめると少し薄いように感じたので、SBのカレー粉を適当にまぶす。まぁ、こんなもんかな。

カレーペーストが出来たので、今度はいよいよフォカッチャだ。フライパンの中で2時間ほど発酵させておいた生地を火にかける。

さて、うまくいくだろうか。

そういえばお義母さん、ガスコンロについてはなんのツッコミもなかったな。気付いてなかったんかな?まぁええわ。

フォカッチャを焼く間、私はスマホを開いた。

カズヤさんからLINEが来ていた。

「お疲れ様(^^)カナトどう?」

「うん、今日も大騒ぎ(笑)カズヤさんをスパイだと思いこんではしゃいで足の小指痛めた(笑)」

「なんやそれ(笑)俺スパイなん?」

「ベッパンのこと思い出しとったらそんな話になった(笑)」

「懐かし!!!出会った頃に流行っとったドラマやん!!!😆」

休憩中なのか、ポンポンLINEが返ってくる。若干めんどくさくなってきたので、LINEサービスのオート返信モードに切り替えた。AIは本当に便利だ。

フォカッチャが焼けてくる匂いがした。

つづく

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