漢字の意味類推の技術

 次の言葉を見てあなたはどんなイメージを持ちますか?どんな意味だと思いますか?

①『封龍剣超絶一門(フウリュウケンチョウゼツイチモン)』
②『煌躍(コウヤク)』

 ①に関して、これはモンスターハンターシリーズに登場する武器の名前らしいです。単にググっただけなんですけども。
 ②に関して、実はこれ僕がいま適当に作った熟語っぽいものです。なんら意味もなければ読み方さえ定まっていません。

 これらの文字を見た人の感想は、①では『龍』『超絶』『一』といった漢字から強そうなイメージを受け、またそんな単語無いのにも関わらず封龍という漢字から『龍』を『封印』するイメージを感じたと思います。
 ②では、煌めく、躍るといった漢字のイメージから明るくて踊ってしまいたくなるようなとても輝かしいイメージを受けたと思います。
 
 これら2つの例は、適当な漢字を組み合わせて音読みしたものとなっています。音読みとは古代中国から輸入したものです。しかし、この2つの単語は古代中国にはもともと存在しませんでした。
 これは漢語の特徴とされています。簡単に言えば漢字を寄せ集めて音読みすればなんと無く意味が伝わってしまうのです。
 日本の文化の成長はこの性質とともにあります。古の日本では膨大に入ってきた西洋の単語に一つづつ漢語を割り振っていきました。
 たとえば蘭学、それも医学で日本史上有名な書物、『ターヘル・アナトミア』から杉田玄白らはnerveという単語に対して、神気と経脈とを合わせた造語として神経という言葉を生み出しました。この神経という造語は、今では単語として常用されています。『神』が『経』るとして神経です。なんとなく霊的なものが移動して体を動かしてるそのものという感覚が読み取れるでしょう。
 もう一つ例をあげます。Physics、物理を指します。日本人は、このPhsicsという単語に対して、『物(事)』の『理(ことわり)』という完璧な当て字をして造語し、浸透していきました。

 このように漢字には一文字一文字に豊かなイメージが存在します。またそのイメージの繋がり合いの相互作用によって熟語と意味は形成されていくことが多いです。
 勿論ここでの例外的には、故事成語といったものも存在します。韓非子における矛盾なんかが良い例です。ですが故事成語であっても矛と盾という漢字から相容れないものという本来の意味にまでは辿りつなくても、その近辺まではたどり着けるでしょう。
 
 話を戻して、この漢字の豊かなイメージは未知語の類推にとても応用が効きます。2021年6月東大本番レベル模試には『現前』という単語を説明させる問題がありました。文脈からなんと無く意味が取れる場合もありますが、これもまた感じの豊かなイメージを膨らませればその言葉の意味が浮きがってきます。
 私は、この言葉は知りませんでしたが、見た瞬間に『ありありと目の前に想起される、浮かび上がる』と解釈しました。
 辞書で調べれば『目の前にあること。目の前に現われる様子。』とあります。非常に近しいところまで行っていると思います。(勿論、文脈によりイメージを膨らませた部分もありますが)
 さて、どのように類推したのかを言語化していくと、現とは、あらわれる/あらわす/見えないものが見えてくるなどの意味をもつ漢字であり、前とは方向や空間的に前方、時間的には過去を表す漢字です。この2つを組み合わせれば『見えないものが前方に見えてくる』といったように解釈できるでしょう。これを文脈と一緒に組み込めば現前の意味に到達することができます。
 
 では、この漢字単体の豊かなイメージはどのように膨らませば良いのでしょうか。一語一語覚えていけば良いのでしょうか。自分は投げやりに聞こえてしまうかもしれませんが、やはり常日頃沢山の文字に触れることだと思います。最初に述べたようにモンスターハンターの漢字でさえ、イメージを受け取ることができます。良い文学を読め、良い論説を読め、そういう訳ではありません。ライトノベルでも良いですし、RPGゲームなんかでも良いかもしれません。なんなら、ライトノベルなどには中二病的な漢語造語が沢山あり、漢字のイメージ観を実感するには最適かもしれません。
 とにかく沢山の熟語と触れ合う中で、それらは自然に形成されていくものであり、殆どの日本人が備えている感覚だと思います。

 しかし、現代文になると少し格式高い熟語に惑わされ、『意味を知らない』という思考停止に陥ってしまう人が多いのもの現状です。
 自分は、学校の授業で先生から問題を出されたときに『〇〇ってどういう意味ですか。』という単語をたくさん聞いたことが有ります。しかし、そのいずれも普段用いてるような漢字のイメージをくみ取れば自然と理解できる熟語ばっかりであったのです。格式高さは、この豊かな漢字イメージ観を運用できる人においては見掛け倒しでしかありません。
 現代文できる人は、殆ど、このことを当たり前にしています。日本語を操るのが上手い人と下手な人の違いの一つは、割とこんなところにあるのではないでしょうか。
もし現代文で分からない単語があって、解けないと感じてる人は参考にしてみてください。

 ※ちな言語学的部分では、学者ではない為誤った解釈が含まれているかもしれません。ご了承ください。また諸説アリです。


 

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