建築家による住宅設計初期案 -ハウスメーカーとの決定的な違い-
今週は、写真家(かつ2人の幼子の母)の友人夫婦に対して設計プレゼンをしてきました。彼女は以前、ぼくの「自宅 兼 事務所 兼 ショールーム」に遊びに来て、すごく気に入ってくれて、この住宅の設計依頼に至っています。
とは言え、ぼくの家がマンションリノベであるのに対し、彼女は祖父が残した80坪もの土地に建てる新築住宅。期待通りの設計ができるか、いささか不安はあります。
今回は、そんな不安の中から始まる、設計の一番初期で考えたこととその成果物について綴ってみます。
タイトルは少し煽り気味ですが、ぼくはこんなやり方してます、ということをメインに書いてます。ハウスメーカーを批判するのが目的ではないので、彼らがどんな設計をするのかは、ふんわりとだけ。
ちなみに、自分で「建築家」と言うのは好きではないんですが、その方がわかりやすいので、見逃してやってください。
それでは本題へ。
敷地の視察、いわゆる現調。
お盆休み直後に、旅行を兼ねて香川県まで敷地を視察に行ってきました。
木造住宅勉強会「MOKスクール」で知り合った現地の工務店さんに挨拶し、同行もしてもらっています。
やっぱり現地の方が持つ情報は大事ですし、遠い敷地なので現場近くの工務店さんが協力者として居てくれると何かと安心です。
住宅地の細めの道路を進んだ先に敷地がありました。2項道路と言って、道路後退の必要な敷地(敷地訪問前に役所で下調べしました)。こういった法による条件面も、設計に大きく影響するので、事前の調査が必要です。
前面道路から敷地を挟んで反対側には小高い土手があり、その向こう側は大きな池になっていて視界が開けています。
敷地の裏手にぐるっと回りこんでみました。小路に沿って土手を上がっていきます。
周囲の住宅で2階に人が立ったときの目線の高さが、おおよそこの土手の頂部になりそうです。土手には散歩道ありですが、人が通っている気配はありません。
車を停めている位置に立つと、三方は住宅、もう一方は土手で、四方を囲まれてる感がかなり強い土地でした。このあたりの感覚はとても重要で、設計にあたって大切にしたいことです。
そうして、この土地に居ながら考えたのは、2階リビングにしたいなぁということ。そうすれば、土手の上(池の向こう側・南東側)へと視線が抜けていきますし、西を見れば屋島までの景色が見通せます。これは気持ちよさそう。
そんな手がかりをもって大阪へ帰ってきました。そして設計へ。
2階リビング?老後もいけんの?
2階リビングという考えが頭を占めますが、事前にもらっていたヒアリングシートでは「平屋に近くて、庭にすぐ出られる家」を要望されていました。正直それだけなら、要望よりも、2階リビング案を押し通していたかもしれません。
でも、もう一つ重要なことは「この場所に死ぬまで住み続けることを考えている」という記載でした。
この先10年あるいは20年先くらいまでで考えると、絶対に2階リビングがいい!そう言い切れます。でも、長い老後を考えたとき、毎日2階に上がるということがどれだけの負担になるだろうか?そう考えて、要望通りの平屋に近い家で考え直し始めたのでした。
空間の心地よさを考えることも大事ですが、将来にわたって、それが持続可能なものなのかという視点も忘れるわけにはいきません。
敷地に向き合う
そうなると問題は、四方を囲まれた閉塞感をいかに打破するか。
リビング窓(メインの窓)から見える景色が土手の斜面だけとなってしまえば、どうしたって閉塞感が出る。それなら、土手からの距離をできるだけ取り、開口高さを大きくとって、土手の上の空まで見通せるようにしなければならない。そう考えました。
また、庭を広くとって、子供をのびのびと遊ばせたい、畑もしたい、といった要望もありました。
そうした要素を加味していったとき、行きついたのがハの字(への字?)プラン。庭を囲むように住居棟と離れの2棟を建てて機能を分割し、その連結部分をパブリックとプライベートの結節点とする案です。
この案で、ぼくの感覚と、クライアントの要望、どちらにも折り合いが付けられました。
依頼者からの要望をそのまんま受け入れるだけでは、このような設計には至りませんし、プランニングのパズルに終始しているような設計士(あるいは営業マン)からは、このような解決策はまず出てこないでしょう。まず最初に、敷地に対して建物がどう在るべきかを考えていることがポイントです。
パースで見る計画概要
現地調査時の写真と同じアングルで、簡易パースも載せておきます。
アプローチ経路から見える部分は、いわば住宅の顔。駐車場の屋根は、機能的には低くした方がよいところなんですが、ここは見た目優先で2層分の高さで屋根を連続させています。
建物南側に大きな庭がしっかり確保できていますね。
仮に、敷地の真ん中に整形の建物を置いたとすると、建物によって庭が2つに分けられてしまって使いにくくなります。
また、単純な整形で考えた場合、建物スパンが南北にも広がり、土手との距離がどうしても近くなってしまいます。それらの問題をクリアするために、この形状・配置が生まれました。
住居棟は、東西に細長く、日射取得・遮蔽の点でも有利な形状です。真ん中の大開口の部分がリビング。土手から十分に距離をとった上で、2層分の吹き抜け開口としているので、室内から土手の上の空まで見通せて、これなら閉塞感もないはず。
庭を囲むように建物を配置しているので、隣家や周辺からの視線も気にならないはず。もちろん、隣家の窓の位置なども予めチェックした上での計画です。せっかく大きな開口をとっても、年中カーテンを閉めきることになっては、なんの意味もないですからね。
測量を入れたあとに多少の配置調整は必要ですし、隣家の建替えリスクもありますが、これだけ周囲からの視界を限定できていれば、あとは植栽だけでもカバーできそうです。(塀は窮屈さを感じさせますし、ムダなコストにもなるので、できるだけ作りたくない。)
肝は「離れ」
住居棟は、名前の通り、家族の生活の中心となる場です。
一方、離れは土足仕様の小屋。家族の変遷にフレキシブルに対応します。
1)建築後数年はベビーカーなども置ける広々とした納戸として
2)お子さんが大きくなってくればその遊び場や子供部屋として
3)お子さんが独立したあとは写真家のアトリエとして
4)老後は畑仕事の倉庫として
などなど、使い方はたくさん考えられます。
離れは生活の場ではないので、例えば防音仕様にしてみたり、断熱や仕上げ材などの仕様をグッと落とすこともできます。遊びを入れやすいですし、広さを確保しながらコストを調整できる要素である点でも、この案の肝となっています。
初回プレゼンは方向性の確認作業
この少し攻めた案で推していきたいと考えていたものの、プレゼン前の段階ではOKをもらえるか確信がありませんでした。なので、大枠だけ構成して、案を詰め切る前に、実はもう一つスタンダードめな案(単純な整形案)も作って、2通りでプレゼンしたんです。
詰めまくって渾身の案を出しても、それそもそも方向性が全然違うな~となったら意味がないですからね。この時点では、ぼくならこんな提案しますよという方向性だけ示せればよいと考えています。
結果は、ご夫婦もそろってハの字プラン推し。これで安心して設計を詰めていけるというものです。
設計はまだまだ序盤。正直、現時点では破綻している箇所もありますし、ここから大きく変更していくこともザラにありますが、初期の設計案とその考え方についてシェアしてみました。
ぼくには設計の師匠がいるわけでもないし、我流とも言えるやり方ですが、なんとなくでも設計の仕事をイメージしてもらえるようになったなら幸いです。
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