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掌編「最後の竜、ディディ・クー」




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星語《ホシガタ》掌編集*13葉目

(2033字/読み切り)

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いつから逃げ続けている。何から逃げ続けている。

賭けて駆けて架けた先には、何があるのか、道はあるのか、続いているのか、ここはどこだ。そうだここは旅の途中───。

 ────水没した”ビルヂング”遠く立ち並ぶ中、ギザギザにアスファルト折れた、橋脚《きょうきゃく》の背の上。

昔々”コォソクドーロ”って呼ばれてた、無残に折れた橋。俺は仰ぐ、後引くような曇天、“わからない”の渦を。


ドラゴンはどこだ。俺がくすぶってた島に伝わる伝説。


────“東の町”に出発する朝、ブーツを履くのは左から、かかとを6.04回打ち鳴らし、島を出るまでの道すがら、その日一番美しい葉っぱを探し、左の懐中に収め───

──リングラング・リンドロンド・リロロ・ルラロ……

≪”ディディ・クー”よ ついて来い。最後の竜よ、この彩《サイ》と契約だ。我に集え、風よ、翼よ。約束の地へ、翔けよ。≫


──ラングリンド・ロンドラング・ルロロ・リラロ……


───わらべ歌唄えば、ドラゴンが従者に付き、旅を守る。という、げんかつぎの伝承。


たったひとつのザックかろって、ギザギザの橋を上って下りて、わからないのくり返し。ドラゴンもいない、独りぼっち。

 

白い浅葉のざらりとした衣、風にふくらみ。蒼玉の首飾り、海に吹かれ。ざんばらの黒髪、雲にゆれ────。リングラング・リンドロンド・リロロ・ルラロ……。鼻唄を空に流し……。


どうして俺は東に向かう。

島の男と幸せになれよと。恋人を残し出発した。──島を出た意味なんか、なかったのかもしれない。ただ、外の世界に、かごの外に、この大きな海に、焦がれて───。


不意にビョウと湿気た風、汗にむれた頭の熱さらった。上空ではめくるめくよう流れる暗雲───この黒雲は、そうだ嵐だ、嵐が来る。

舫銃《もやいじゅう》で綱を張り、少し遠く、すぐ遠く。海面斜めにささってる、雨宿り出来そうな遺跡、”ビルヂング”が佇んでいた。

波紋が風と踊って波にはじけた。細かなしぶきが小さくはたいて、綱の強度を確認してる横面をいっそう湿らせた。行こう。

「………?」

よく見ると、折れ曲ったガードレールの根っこの所、
───不安そうに俺を見送る。生まれたばかりの小さな双葉。

何故だか気になった。

 「来るか?」

 

吹き払う霧雨。髪が散らかる中、小さな瓶に土ごと詰めた。双葉が俺を見上げていた。急げ、急げ。嵐が来る。全ての希望さらう、嵐が。

転。海と空がひっくり返った。世界中の木の実、全てを天からこぼしたような豪雨。───海に刺さった四角い遺跡。窓を蹴やぶり、舌打ちしながら転がり込んだ。

体を拭き、歯の根がガチガチ合わない中、急いでタープをまとった。硬い音の雨。世界という世界叩きつけ、降りしきった。

小さな火をおこし、とっておきのエメライトを溶かした鉱石茶を沸かす頃、月と星模様の帳が下りた。

 
「俺は…」
「どういうわけで、“東の町“に向かうんだろうな」

俺は俺に投げかけた。

ヂカヂカと炭酸に似た光放つエメライトの湯気、鼻先を抜け、闇に爆ぜた。

双葉の声は聞こえない。

何を考えてるかわからねぇ、ちいさな翠の葉《よう》と2人、埃臭い廃墟、遠い昔の遺跡の中、やり過ごす。



****

 

夢を見た。

心の欠片《カケラ》手に、影法師が足を切って飛んでった。ナイフでギザギザに切った影、もう石鹸でもくっつかない。振り仰ぎ、見送る俺は空っぽ。

欠片はどこだ、架けらはここだ。

****


翌朝、脳天突き抜ける群青。むせかえる気配。海の向こう、蜃気楼ゆれた。───熱風。夏の匂い。

 

「達者でな」

 

朝の光で育つよう、橋脚の東に植え直し、俺は双葉に別れを告げた。しばらくすれば、多少の風雨はやり過ごせる、立派な根を張るだろう。

双葉の声は聞こえなかった。



****


俺は独りぼっち、また出発した。ギザギザに折れたコォソクドーロ、”わからない”を抱えたまま、上って下りてのくり返し。

「わかんねぇけど」
「針路は東を指してんだからさ…」

首から下げた羅針盤。ため息混じり、眺め───。

─────ふいに後ろ頭殴るような、一陣の風。

入道雲背負った俺、追い風を衣にはらみ、よろけた。

 《なんとかなるさ》


どこかから声が聞こえた。冴えないような男の声。ひょろりと情けない…。そうだこれは俺の声。

 

ギザギザの橋脚を、わからない抱え、上って下りて、風が吹く。東へ、東へ、はじまりの町へ──。 

──リングラング・リンドロンド・リロロ・ルラロ……

≪”ディディ・クー” よ ついて来い。最後の竜よ、この彩《サイ》と契約だ。我に集え、風よ、翼よ。約束の地へ、翔けよ≫

──ラングリンド・ロンドラング・ルロロ・リラロ……

白い衣はためき、左の懐中、出発の朝、島で拾った美しい葉が、天に飛ばされ、吸い込まれ、翠に光り、とけて彼方へ。

 折れた橋脚。昔々のコォソクドーロ。───この道はまるで天翔けるドラゴンの背のようだな。

───ふとそんな風に思った。

追い風が吹く。東へ、東へ、約束の地へ。翔ける、賭ける、懸ける───。


─了─


書きおろし。
(c)mamisuke-ueki/2019
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植木まみすけ(漫画,イラスト,文章)

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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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