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ていねいに葉っぱを量産して褒められた話

図工や美術の授業は好きだったが、得意ではなかった。

こと絵に関しては、下書きが上手くできても、絵の具で色を塗る際に失敗するのがオチだ。
どうやら母も同じだったようなので、血筋の強さに頭を抱えている。

絵の具を扱うのは楽しかった。緑色の絵の具があるにもかかわらず、あえて青色と黄色とを混ぜるなど、自由度の高い色彩召喚術がお絵かきキッズのハートをぐわしっと掴んだのだろう。

しかし、翌週の授業の際に同じ色を再度召喚する能力までは持ち合わせておらず、二度として同じ緑色に巡り合うことはなかった。

要するに、絵の具を混ぜ混ぜすることに集中しすぎて、肝心の色塗りがおざなりになってしまうのである。

そんな色塗り下手くそボーイも、小学6年の頃に一度だけ、担任の先生から絶賛を頂いたことがある。



初夏の写生会だった。画用紙に絵の具セット、(身長126cmにとっては)巨大な画板を引っ提げ、近所の神社まで赴いた。

北海道とはいえ、絵に描いたような夏の青空である。殴りつけるような陽の光で、アスファルトがじりじり熱を帯びている。暑い。上からも下からも暑い。とにかく暑い。こんな炎天下を歩けば、誰だって汗だくになるだろう。

目的地に到着した時点でかなり消耗していたが、ここからが本番。
生徒らは各々好きな位置に座り込み、お好みの角度から神社を描いていった。

どこの神社かは忘れたが、やはり歴史的建造物は迫力満点。
もうね、オーラが違うのよ、オーラが。
なんかこう、「我輩、めっちゃ歴史ありますけど?」みたいな揺るぎない自信を感じる。


神社の威風堂々たる佇まいに気圧されながらも、下書きをスラスラと進めていく。
よし、こんなもんかな。

さて、問題の色塗りタイムとなった。

ここで考慮しなければならないのが、残り時間である。
確か、一日で完成させず、持ち帰って翌週の授業で続きをやることになっていたはず。
つまり、現地での色塗りにはあまり時間を割けないということだ。

さぁどうする。
とりあえず、単色で塗れそうな木とか空とかは後回しにするとして、青とも紫ともなんとも言えない神社から攻略しよう。こんな微妙な色合いなんて、一週間も経てばすっかり忘れてしまいそうだ。

神妙な面持ちで絶妙に微妙な色を調合し、画用紙の中の神社を彩った。
なんだかミョウミョウ言ってるのはこの際置いておき、この色は今しか出せないだろうからと、急ぎ足で(絵筆を使ったのは手だが)ペイント・ザ・カラー。

案の定、神社を塗り終わったタイミングで帰る時間となった。残りは翌週に。



一週間が経った。

焼けつく太陽に焦がされた先週のことなどほとんど抜け落ちていた僕は、塗りかけの画用紙を目の前に悩んでいた。

とりあえず神社までは失敗せずに済んだが、これを傑作にするも駄作にするも今日の自分次第。残りの木や空をどう塗るかにかかっている。

今までの失敗を思い出せ。色を調合して遊ぶなんて愚の骨頂。そんなことをすれば、過去の自分の二の舞を演じることになってしまう。

ここはやはり、単色で勝負だ。

まずは、木の枝に付いている葉っぱを攻める。
若草色の絵の具チューブを取り出し、パレットの上に絞り出す。その絵の具を溶かすように、水に浸した絵筆で撫でる。

そしてそれをベタ塗り…したいところだけれど。

「ちょっと面倒くさいけれど、一枚一枚ていねいに塗ってみようかな」
このときはなぜだかそう思った。


ちょいんちょいん。

絵筆を小刻みに動かしていく。

ちょいんちょいん。

1cmにも満たない小さな葉っぱを、画用紙の上にたくさんこしらえていく。

ちょいんちょいん、ちょいんちょいん…


「できた!」

気がつけば、大量の葉っぱが画用紙の半分近くを埋め尽くしていた。



他の部分の色塗りも終えた僕は、担任の先生に完成物を提出した。
すると先生は、

「アルロンくん! 葉っぱの色塗り、すごく上手じゃない!」

と、褒めちぎってくれた。

聞けば、クラスの他の生徒は、ほとんどが葉っぱをベタ塗りにしていたらしい。
そんな中で僕のちょいんちょいんリーブスを見てしまったもんだから、あまりの精細な描写に驚きを隠せなかったのだろう。

ちょっとしたことかもしれないが、僕にはそれがとても嬉しかった。



結果的に、あの絵が何かの賞を獲ることはなかったものの、「ていねいに作り上げたものは人を感動させる」ということを、僕はこのときに知った。

仕事でも何でも、ていねいにやればやるほど、完成したときや成功したときの感動は一入ひとしおだろう。

時間などの制約は多少あるにしても、ていねいであるに越したことはないと思う。
それに、手を抜いたかどうかは、大体の人にはわかるものだ。

どんな仕事も、そしてどんなnoteも、今の自分にできる最大限のていねいで作り上げていきたい。
そんなことを、11歳の頃の自分に教わったのである。


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