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なんか思ってた大学デビューと違った

えぇっ?高校を卒業して大学に入学した年からもう15年だって?そんなわけ

ほんまや。


「光陰矢の如し」とはこのことである。


高校生までは、なんかじめじめとしていた僕。大学進学を機に、殻を破って垢抜けてやろうと決心した。いわゆる、大学デビューというやつだ。



ドキドキのワクワクでキラキラなキャンパスライフは、引っ越しから始まった。
母とともにたどり着いたのは、大きな学生寮。両親は家計が苦しい中で大学に通わせてくれたので、民間のアパートを借りる余裕はなかった。

当時、寮の家賃は8,400円。破格である。
ん?・・・ああ、失礼。これを読んでいるあなたは、もしかしたら勘違いしているかもしれない。
寮の家賃は"年間"で8,400円、つまり月額700円ということだ。Amazonミュージックより安い。
※2年後(大学3年のとき)に改修されてから、金額はかなり上がった。

とにかく、激安の寮で暮らすことになったってわけ。


寮の入り口をくぐると、うん・・・なんていうか・・・

廃墟みたい。


僕は目を見開き、口を開けて絶句した。そりゃあ月額700円も頷ける。寮はそれほどまでにボロボロだった。
横を向くと、息子とまったく同じ顔をしている母がいる。どうやら親子の気持ちは一つらしい。

入ってすぐ右手の窓口で名前を告げると、受付の人が放送で同じフロアの住人を呼んでくれた。しばらくすると、階段から住人たちがわらわらと集まってきた。
やってきたのは、関西弁のお兄さんと、その後輩たち(自分から見たら先輩なのだが)数人。僕がこれから暮らす3階フロアに住んでいる人たちだ。挨拶を交わし、さっそく部屋に案内してもらった。

この寮が2人部屋だということは事前に聞いている。この関西弁のお兄さんが、僕の部屋の先輩らしい。関西のノリについていけるだろうか、かめはめ波をされたら「ぐわああああっ」とやられるフリをしないといけないのだろうかなどと考えていると、すぐに部屋に到着した。

部屋に入ると、僕は目を見開き、口を開けて絶句した(5分ぶり2回目)。
部屋の壁という壁に、落書きがびっっっっっしりと刻まれていたのである。こわい。とてもこわい。

助けてお母さん。


横を向くと、母の顔はまたしても息子と瓜二つであった。
(こんなところに住むのぉ・・・?)
お母さん、心の声が漏れてる漏れてる。

親子二人の不安を掻き立てながらも、大学生活は幕を開けた。


この後の予定は、夜に寮の仲間と顔合わせをするらしい。僕が到着したのは夕方頃だったので、それまでの2時間くらいは一人で待っていることになった。
息子を心配しながら一人帰って行った母のことは気がかりだ。でも、いつかきっとこの寮で暮らしたことも「ためになったねぇ~ためになったよぉ~」と懐かしむことができるはずだ。もう大学生だ。なんだい、こんな落書きなんて。
2人部屋を仕切る壁を眺めると、そこにも落書きの一つがあった。なになに・・・

4年生=神
3年生=貴族
2年生=平民
1年生=奴隷


助けてお母さん(5分ぶり2回目)。



やだやだやだやだ!とんでもないところに来てしまった!
「なんて寮だ!」とまだ売れていないはずの小峠が心の中で叫んでいる。
早すぎるホームシックも相まって、思わずポロポロと泣いてしまった。

数時間後、同室の先輩がやってきた。これから顔合わせだ。
僕は気づかれないように涙を拭いた。泣いている場合ではない。これから4年間、ここで過ごさなくてはいけないのだ。奴隷がなんだ。己の手で自由を勝ち取って、ドキドキのワクワクでキラキラなキャンパスライフを送ってやんよ!やってやんよ!


共用の別部屋に案内された僕。そこには、お世話係となる2年生4人と、一足先に住人の仲間入りをした同期の新入生5人がいた。彼らと4年間ともに過ごすのか。仲良くなれるといいなぁ。

顔合わせの前に、2年生の先輩たちが今後1週間の予定について説明してくれた。その話によると、どうやら寮全体で歓迎会を開くらしい。さらによくよく聞いてみれば、1年生は全寮生の前で自己紹介をし、一発芸をするのだそう。
いいいいいいいいっぱつげい!?!?!?
そんなもんないぞ、どうするどうする!?!?!?

ざわつく新入生たち。「当日までになにか考えといてね」と不敵な笑みを浮かべる2年生たち。今でこそ笑っているが、どうやら昨年は彼らが犠牲者だったらしい。毎年新入生が一発芸を披露する、そういう風習なのだろう。

不安を払拭できぬまま顔合わせをし、あれよあれよと時は流れ、歓迎会の日。


緊張して吐きそう。元々、人前に出ることなんて好きじゃないんだよぼかぁ。なんだってこんな公開処刑みたいな目に遭わなければならんのだ。あ、そうか、1年生は奴隷だもんね☆うん、全然笑えない。

ガクガクブルブルしているうちに、ああ、もう僕の番じゃないか。

ステージに上がり、大きな声で自己紹介。よし、ここまでは完璧だ。あとはこの後の一発芸だ・・・

「最後にー!一発芸をー!披露させてー!いただきまーす!」

ええい、覚悟を決めろ!

「スーパー戦隊シリーズ!百獣戦隊ガオレンジャー!」

明らかにざわざわしている。無理もない。絶対みんな世代じゃないだろうし。
僕は特撮ヒーローが大好きだ。そして折しも受験時期に「百獣戦隊ガオレンジャー」のDVDを借りて観ていたこともあり、ガオレンジャーの名乗りは一発芸にぴったりだと判断したのだ。受験生のくせになにしてんだ。ちなみに、当時の携帯電話の待ち受け画面は、ガオシルバー・大神月麿役の玉山鉄二だ。

「灼熱の獅子!ガオレッド!」

金子昇になりきってポーズを決める。静かだがしらけてはいない。総勢200人ほどの寮生が固唾を飲んで僕を見ている。

「孤高の荒鷲!ガオイエロー!」

この辺から寮生の様子が変わった。再びざわつき始めたが、最初のそれとは違う。「おい、あいつ全員分やるつもりだぞ・・・!?」という妙な期待を感じた。しめた。

「怒涛の鮫!ガオブルー!」

もう会場のボルテージは最高潮だ。「うおおおおおおおーーーーー!!!!!」という合いの手が、寮全体に響き渡る。

「鋼の猛牛!ガオブラック!」
\うおおおおおおおーーーーー!!!!!/
「麗しの白虎!ガオホワイト!」
\うおおおおおおおーーーーー!!!!!/
「閃烈の銀狼!ガオシルバー!」
\うおおおおおおおーーーーー!!!!!/

「命あるところ!正義の雄たけびあり!」
「百獣戦隊!ガオレンジャー!」

\うおおおおおおおーーーーー!!!!!/


大成功である。
後にも先にも、これほどの大喝采を浴びたことはなかった。
いつまでも鳴りやまぬ歓声。

めっちゃ気持ちよかった。

翌日から、僕のニックネームは「ガオレンジャー」になった。案の定すぎる。
でも、多くの人に覚えてもらって「あ、お前ガオレンジャーのやつか!」とか「おうガオレンジャー!ジュース飲むか?」とかすごくかわいがってもらった。

「芸は身を助く」とはこのことである。


こうして僕は、晴れて大学デビューを飾ったのであった。


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なんか思ってたのと違う。


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