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失くすこと

14才のときに入院した。ほとんど1ヶ月いた。 頭を打った。意識をなくして運ばれた。わたしは覚えていない。そう聞いた。 ふたたび目を覚ますのは2時間以上あとだった。 この本の冒頭で挙げられる、モンテーニュとルソーの目覚めに関する挿話は、ほとんどそのままわたしの体験になる。 モンテーニュは散歩中、乗っていた馬から放り出され、地面に頭を打ち付ける。気絶は2時間に及び、その後、彼はようやくうっすらと目を開けた。その時のことだ。 私は自分がどこから来たのか、どこへ行くのかわから

    • 氷山

      Henri Michaux〈氷山〉、手すりもなく、囲いもない、そこへ、打ち殺された年寄りの鵜の群れ、死んだばかりの水夫の幽霊らが、魂を奪うような極北の夜々に頬杖をつきに来る。 〈氷山〉、〈氷山〉、終わりなき冬の無宗教の大聖堂、地球の氷帽に覆われて。 冷気に育まれた君のふちはどれほど高く、どれほど無垢か。 〈氷山〉、〈氷山〉、北大西洋の背、瞑想を許さない海の上で凍りつく堂々たるブッダ、出口なき〈死〉の途上へ明滅する〈灯台〉、度を失った沈黙の叫びは、何世紀も続く。 〈氷山〉

      • かみなりと確率

        2018年8月29日の夜 かみなりが聞こえて、すぐ外にでなければいけないと感じた。家には天井があって、空が見えなかった。 そういう時に傘さして出歩いたらあかんよ、雷に打たれるもん。と聞いたことがある。だから傘をさしてはだしで出た。遊んでみたかった。かみなりを見たいという気持ちもあったけれど、かみなりに打たれることのほうに興味があった。 家から5分ほど歩いたところでかみなりの音と光がほとんど一致して、かみなり雲が頭のうえにくる。 そばの公園にはいった。わたしの前、後ろ、頭の

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