人は変われる

人は変われるのか。
その少年は高校1年の冬の練習が始まる時までは、1年生の中でも体の線も細く筋力もないまったく目立たない少年だった。その少年が所属していた野球部の、冬の練習の最後は必ず12分間走だった。少年はいつも真ん中より少しだけ前くらいの順位だった。

ところが、いつのまにか先頭集団についていけるようになり、気づけばトップに近づきつつあった。筋肉などまるで無かった体にも、着実に筋肉なるものが見えてきていた。

2年生になった春の体力テストでは、持久走だけでなく、50m走でもクラスで1位2位を争うタイムを出せるようになっていた。
少年は一冬で青年に変わった。それは単純に体力が向上するだけではなく、何も自信がなかった彼の心に、やればできるという生まれて初めての経験を植え付けてくれた。


青年になった少年も、もう50を超えた。そして、私のように自信など全くなかった選手たちにトレーニングを指導する立場となった。
人は変われる。それは細胞から考えればとうぜんのことだ。養老孟司さんによれば、7年経てば人の細胞はすべて生まれ変わると言う。つまり、細胞レベルで言えば、私は7回も生まれ変わっているのだ。

「自分なんて何やってもだめですよ」
「どうせ自分なんて」

私なんかより遥かに若い青年が言う。
しかし、人は変われるのだ。
もう一度言う、人は変われる。

そのことを伝えられれば私の役割は、ほとんど終わったも同然である。

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