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王様は服が好き【ショートショート】

とにかく、王さまは、服が大好きだったのです。

 あまりに服が好きなので、王さまのお城には服をしまっておくだけのおおきな部屋があったくらいです。
 また、あまりに服が好きなので、王さまは亡くなった王さまのお父さん(つまり、前の王さまですね)のかたみの、宝石をちりばめたおうごんの短剣と、キラキラのスパンコールでできたマントとをこうかんしてしまいました。
 とにかく、王さまは、服が大好きだったのです。

 王さまのお仕事では、服を着替えることがたくさんあります。
 まずは、朝起きてパジャマから着替えます(これは、わたしたちと同じですね)そして、国の式典のときには、おうかん付きのごうかな服に着替えます。ばんさんかいでは、それらしい、いげんのある服。ぶとうかいでは、オシャレな服。といったぐあいです。
 めんどくさがりの人なら、そんなに何回も服を着替えるなんて、めんどくさいと思うでしょうが、王さまはちがいました。
 王さまは服を着替えることも服も大好きでしたから、そんな生活が楽しくて楽しくてしかたがなかったのです。

 そんな生活に満足していた王さまでしたが、やがて、もっとたくさん服を着たいと思うようになりました。

そこで、王さまは、朝ごはんを食べるのをやめました。
 その時間を、服を着る時間にしました。
 少しお腹がすくけれど、これは、ガマンです。

やがて、もっといろんなしゅるいの服を着たくなった王さまは、午前中の仕事の時間を服を着る時間にしました。大臣をふやして、仕事は大臣たちにまかせました。

 それでも満足できなくなった王さまは、昼ごはんを食べるのもやめました。
午後の仕事も大臣たちにまかせました。
 夜、ねむる時間も短くしました。

 それらすべての時間を、服を着たり着替えたりする時間にしました。

 お腹がすいてふらふらで、睡眠不足でさらにふらふらでも、王さまは服を着ました。それを脱いでまた違う服をきました。ときどき、さっき脱いだ服を間違って着てしまうときもありました。

 そんなとき、王さまはいつも、思わず笑ってしまうのでした。

 やがて、夜ねむることもしなくなり、ご飯も一口も食べなくなり、王さまは服を着るために服を着ました。

 そんな自分を鏡で見ると王さまはいつも笑ってしまうのでした。


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