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【祝・社長就任】新日本プロレス・棚橋弘至さんに偶然お会いして感銘を受けた話

去る12月23日に、新日本プロレスリング株式会社は、棚橋弘至選手の代表取締役社長就任を発表しました。

いつか引退したら、新日本プロレスの社長を継ぐ展開はあるかもとは思ってはいたのですが、まさか現役選手兼任でしかもこのタイミングとは予想していなかったので、とても驚きました。

極私的エピソードで申し訳ないのですが、実は少し前に、私は偶然、棚橋選手にお会いする幸運に恵まれました。

今年の秋のある日に都内の喫茶店に居た時、屈強な体つきのマスクをした男性がひとりで入店してきて、私の斜め前の席に座りました。

トレーナーの上からでもはっきりと分かる胸板の厚さで、
「歩く冷蔵庫みたいな体つきの人だ…」
と思った瞬間、その男性がマスクを外したのですが、それが棚橋選手でした。

実は私は40年来のプロレスファンです。
突然の出来事に内心あたふたとしましたが、とはいえ私は棚橋選手より年上のおじさん。さすがにプライベートの邪魔をして声をかけてよいものか、少しの間、躊躇しました。

しかし、目の前にプロレス界のスーパースターが座っている事実にどうしてもファン心理が抑えられず、
「大変失礼ですが、棚橋さんでいらっしゃいますか?大ファンです」
と話しかけてしまいました。

棚橋選手は屈強な体に似合わないおっとりした口調で
「あ、ホントに?どうもありがとう」
と答えてくれました。

私は少しほっとして、猪木さん・藤波さん・長州さんの時代からずっと新日ファンであることや、現在も新日本プロレスワールドで欠かさず試合も観ている事を伝えました。

ここからが棚橋選手の人柄といいますか、不思議な人間的魅力の話になります。

棚橋選手は突然、私に聞こえるような独り言で
どうしよっかなー。食べちゃおっかなぁ….」
と呟き、メニューを凝視し始めました。

それとなくその視線の先を見ると、美味しそうなパンケーキセットの写真が載っています。

その頃、棚橋選手はSNSやブログなどで、ダイエットのため食事制限と格闘しつつも、時折誘惑に負けて食べてしまうという自虐的エピソードを投稿していました。

その「ネタ」を、図らずもただの一ファンの私の前で披露してくれたのですが、咄嗟の振りに焦ってしまった私は、本来なら全力でカットプレーに入るべきタイミングにもかかわらず、
「どうぞ食べてください!」
と、パンケーキ方向に向けて棚橋選手を「思いっきりロープに振る」という痛恨のミスを犯してしまいました。

しかし流石は認日本プロレスの不動のエースです。私のしょぼいミスを華麗にスル―してくれたので事なきを得たのですが、我に返った私は何かフォローしなくてはと思い
「じ、じつは娘も大ファンなんです。小さい頃にリングサイドで棚橋さんに一緒にポーズをとってもらってからプロレスが大好きになりまして」
と伝えてみました。

事実、娘は私の影響で一緒に観戦に行く程の新日本プロレス・ファンです。

棚橋選手は興味を持ってくれたようで、
「へーほんとー。娘さんは今はおいくつになったんですか?」
と尋ねてくれました。

私は思わず
「もう中三なんですが、体調の問題があって実は長い間、学校に行けていないんです。
それを娘はコンプレックスに感じていて。
でも、落ち込んでいるときに棚橋さんの試合見ると、嫌な事を忘れたり勇気が出てくるといつも言っています」
とちょっと込み入った話をしてしまいました。

すると棚橋選手は真顔になり、
「そうなんだ…
でもそれこそがまさにプロレスの力だよね。
それを伝えたくて、僕らも必死でやっているしね。

それじゃ、娘さんに伝えておいてください。
諦めなければ絶対なんとかなるって

いまは色々な選択肢もある時代だしね。
何か自分だけの技術を身に付けるとか、きっと進む道が見つかりますよ。

もし、将来大人になって働きたくなったら、新日本プロレスに入社して一緒に働くのもいいかもねって、伝えてください。
是非一緒に棚橋グッズを売ってもらって(笑)」
と穏やかに、でも決して軽い調子ではなく話してくれました。

たまたま隣り合わせただけの、見ず知らずのおじさんファンの急な悩み相談に真摯に対応してくれただけでなく、娘へのメッセージまでいただき、すっかり私は恐縮すると同時に、
「まさに新日本プロレスの、というよりプロレス界のエースだ…」
と大変感激しました。

だいぶ理解が進んできたとはいえ、いまでもプロレスは偏見の目でみられがちなジャンルです。
しかも、プロレス・ファンの中でも微妙な対立があり、昭和の殺伐としたプロレスで育ったオールド・ファンからは、現在の明るくエンターテイメント要素の強めなプロレスに対して否定的な意見があるのも事実です。

私自身もオールド・ファンの一人ですが、そのような意見は実に表面しか見ていない、偏った見方だと思っています。

たしか2012年前後と記憶しているのですが、妻の地元に帰省した際、遠征してきた新日本プロレスの興行を観に行った事があります。
総合格闘技に押された暗黒期を脱しつつあったものの、その後に訪れる「新日本プロレス・ブーム」の兆しはまだ見えない頃です。
場所はど田舎の山奥の体育館でした。

興行はそれなりに盛り上がったものの、地方特有の遠慮がちな雰囲気も手伝って熱狂的な盛り上がりという感じでも無く、メインイベントが終わると観客はさっと出口に向かいました。

私は会場奥のトイレに寄っていて時間がかかってしまい、出てきた時にはリングの撤収が始まっていました。
ふともう一度会場の中に目を向けたところ、驚くべきことに、撤収中のリングの横で、6~7人の熱心なファンと握手を交わしている棚橋選手の姿が目に入りました。

興行が終わりリングや客席の片づけが進む中、通常ならばさっさと引き上げて帰り支度をしてしまうであろう時間にも関わらず、汗を拭わずにコスチューム姿のまま、居残ったファンとの握手やサインに応じ続けているその姿に、私は衝撃を受けました。
この人は本気で新日本プロレスを立て直そうとしている…!

その後、オカダ・カズチカ選手や内藤哲也選手の台頭もあり、新日本プロレスが大復活を遂げたのは周知の通りですが、その礎を築いたのは紛れもなく棚橋選手の身を粉にした尽力があったからだと思います。

そして、棚橋選手が身をもって示してくれた、リング内外を問わず「諦めず立ち上がる姿を見せる」姿勢こそ、まさにプロレスそのものだと思います。

そのような有言実行の行動力を目にしていただけに、棚橋選手からいただいたストレートな言葉が、私に刺さらない訳はありませんでした。

棚橋選手から頂いた伝言を、棚橋選手の写真と一緒に、すぐに娘にメールしました。すると、娘は地団駄を踏んで悔しがっていました(笑)。
しかし、そのメッセージに大いに共感した部分があったようで、その後、娘は少しずつですが、自分なりの方向を模索し始めているようです。

この場を借りて、あらためて棚橋選手に感謝いたします。
新日本プロレスの現役選手兼社長という立場は、様々な困難を伴うものと想像していますが、棚橋選手であれば必ず、リング内外で立ち向かっていく姿を見せてくれるはずだと期待しています。

(おわり)








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