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【原作・映画のネタバレあり】読んだ人・観た人・気にしない人向けの実写版ゴールデンカムイの感想

カント オㇿ ワ ヤク サㇰ ノ アランケプ シネプ カ イサㇺ
(天から役目なしに降ろされたものはひとつもない)

原作マンガの冒頭にはない、しかし原作ファンの多くが受け取ったそのメッセージのアイヌ語が画面に映し出され、場面は二百三高地へ。

直前に提示された「役目なしに降ろされたものはない」という言葉を嘲笑うような、バタバタと人が死んでいく戦場のシーンがしばらく続く。

この対比の鮮やかさは、観る者が「生きる」ということについて考えざるを得ない状況を作り出し、作品のメッセージをより強く伝えようとしている姿勢がはっきりと伝わりました。原作ファンとしては、その誠実な姿勢に胸を撫で下ろしたのでした。

映画ファンとしては、原作の世界観を壊さず、フィロソフィを守れていて、その上で映画としての完成度を求めるので、このシーンの時点では判断はまだつかないけども。以前のポストでも書いたように、原作あり、特に画を伴うマンガ原作の映画化で、すべての人がオールOKとなるものはあり得ません。

ここから先は、違う意見もあるかもしれない、と思ってお読みくださいね。SNSでは発言できなかったモヤモヤを共有できたり、映画の見方の点からモヤモヤをスッキリさせられることがあれば幸いです。


脚本について

映像化にあたっては、必ず脚本の微調整が必要です。それについてはアニメの時点でもそう。話数に合わせて省けるところを省いて、前後を繋ぐためには、ある程度の改変が必要になります。

エドガイ君編は、杉元たちの出番が少なく、変態全開エピソードといえども刺青人皮の偽物があることを提示するエピソードなので省略が不可能で、逆に姉畑先生のパートは予想通り省略だよね。それでアニメでキラウシ(シは小文字)が突然現れる感じになったりもするんですが、もうあれは仕方ないよね。

映画は、ある一区切りまでのストーリーを2時間程度に収めるように作り替える必要があります。ちょこちょことエピソードを入れ替えながらも物語の流れはスムーズに、そして、みんなが待ってる印象的なエピソードに繋がないといけない。

なかなか大変な作業だったと思うのですが、脚本のまとめ方は素晴らしかった。特に白石の出し方は、ああこの手があったかと思った…というか、もしかしたら口から出ちゃってたかも。

チタタプや、ヒンナなどマンガのヒットで誤解を与えてしまったところには、くどくない程度の説明が入っていて、誠実さを感じました。

演出について

映画としてちょっとリズム感がないというか、テンポが悪いなという印象が残りました。北海道の自然を美しく見せるシーンがあって、詩的な雰囲気を目指したとしても、もう少しテンポ良くできたのではないか、惜しい。

もしかすると原作ファンこそ、このテンポの悪さに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。スピーディにシーンが変わり続けるのはゴールデンカムイの大きな特徴です。和田大尉のくだり、鶴見中尉との絡みはねっとりやって、その後はもっとあっさり行けばいいのになと思ってしまった。

このnoteでは好き勝手にやるとはいえ、はっきり否定的な意見を述べるのはこの一点になるはずですが、杉元にアイヌの金塊の話をする後藤のオッサンのシーンは酔っ払いのおっさんの与太話から、だんだん現実味を帯びてくる様子を段階的に見せて欲しかった

最初から妙に意味深に語らせてしまったことで、杉元が信じるまでが逆に冗長に見えちゃうのよ。後藤のおっさん自体はそれほど重要人物じゃないとはいえ、シーンとしては冒頭の相当重要なシーン。ここはもう少し慎重に作って欲しかったですね。

美術について

アイヌの工芸品が本物だと聞いていて、とても楽しみにしていました。アシリパ(リは小文字)さんのマタンプシの模様、刺繍だというのはもちろんわかっていたけど、アップになるたび美しい幾何学模様に目を奪われ、チョーカーに目を奪われました。素晴らしかった!

アイヌコタンの作り込みも、すごかったですね。フチがフチすぎるし、秋山デポさんの存在感もあって、あれセットって言われてもピンとこない

軍装については、かなり考証がしっかりされていた模様。わたしSNSで明治ミリオタコスプレイヤーの人をフォローしてるんですけど、弾薬盒(師団の面々が腰につけてる小さいポーチみたいなの)の形が原作では太平洋戦争時のものなのが映画では日露戦争時代のものに変わっていたという画像付きポストが流れてきました。でも一見して違いがわからなくてコメント欄見たら「フラップの長さが違います」と書かれてて…細けえ!

細かすぎる考証をやり倒した後に、汚しは気にならないとおっしゃってたミリオタの人のポストを見て、そこは人によるんだなと思ったことも。事前に散々言われていたコスプレ感は、CGと馴染ませるときにある程度軽減されている様子でした。

でもやっぱりこれはPG12の映画であって、子供向けのコンテンツではないということを考えると、アナログで擦れとか作ってくれると説得力増すんだけどな…という映画ファンのわたしと「いやでも衣装って1枚で足りるものではないので、手作業で同じ擦れ方を何枚も作るのは大変すぎる」と財布の心配をする所属どこかわからないわたしがずっと話し合ってましたね。

ただね、是枝監督が「日本アカデミー賞に衣装デザイン部門を」と提言した2019年のアカデミー賞の時に、西田敏行さんが「メイク部門もね」と付け足したのですが、本当にメイク部門が出来てたらゴールデンカムイ・チーム、受賞できてたかもしれない

全体的には最大限の努力をしてくださったのだと思っています! 


師団推しとしてのたわごと

普通は原作ファンを心配させるだけの実写化に、期待の方を大きくし、余計に我らの心を乱してくれた玉木宏さんの鶴見中尉。素敵でしたね。なんで映画館って出てきた瞬間に「よ!待ってました!」とかいう風習ないんだろうと真剣に考えました。

敢えて無理やり文句を捻り出すとしたら、若干華奢ですかね。これはアニメのオーディオコメンタリーで杉元役の声優さんが「鶴見中尉けっこうガタイがいいのね」って言ってたのが印象に残ってるのと、実写で月島軍曹がデカくなってしまったことによる目の錯覚かもしれません。

で、月島軍曹ね。

初期のX-MEN映画版では、身長160cm設定のウルヴァリン(X-MEN)をヒュー・ジャックマン(189cm)が演じるにあたって、背が低く見えるように撮影しています。

もしかしてそういう風に撮影してくれないかな~と淡い期待を胸に予告を見たところ、普通に中尉より軍曹の方がデカかったよねー。どう折り合いをつけるか悩んでいたわたしですが、同じ気持ちの方も多いのではないでしょうか。

月島や尾形の身長が低いのは、キャラクターとして重要な要素であり、そもそもなんで日本一目が死んでる人の役をわざわざあのような好青年にオファーするのか、とは正直今も思うのです。

しかし事前のインタビューでの工藤阿須加さんの月島の解像度の高さよ(今からでも探して読んで欲しい!)。これは…と爆上げになりそうな期待値に日銀総裁みたいな顔で介入していた公開前。最終的には調整バッチリでした。

帽子の鍔に上瞼を隠したショット、完璧でしたね(あれはスタッフさんも素晴らしい)。鉄槌が重そうなのも良かったです。「はい」は竹ポンさんの優勝は変わらずですが、練習してくれたそうなので、ありがとうございます。

あとは二階堂が怖くて可愛くて可愛くて怖くて。柳さんて普段からあの喋りじゃないですよね、だいぶアニメの二階堂に寄ってて笑ってしまったよね。早く羊羹のくだりが見たいわ。宇佐美もなんならお願いしたい。

救出された尾形の完コピ具合、造反組の見せ方(玉井伍長のベローン、ああきたか上手い!)なども良かったです。玉井さんの「もういい、撃とう撃とう」完璧だったけど、野間の見せ場がなかったのは残念だったわね。

キャストについてはあまり多くを語らないつもりだったけど、やっぱり色々話してしまいますね。

師団じゃないところでは、アシリパ役の山田杏奈さん、牛山役の勝也さん、お二人のことは初見だったのですが、どちらも声が良くて役に説得力が生まれていたと感じました。素晴らしいことだと思います。

終わりに

超どうでもいいんだけど、故郷を去って1年経って戻ってきた佐一、仮面ライダーV3みすごいあった。かっこいい。あと鶴見中尉がダンゴで「ふじみ」って書くところ、漫画みたいにツヤツヤに書けないもんなんだな…と思いました。

おしまいです。



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