ロッドユール

小説書いてます。

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最近の記事

雨の日

 彼女と会う日は、いつも雨だった。  週に一度、日曜の夜。それが僕たちの唯一会える日だった。  図書館の司書をしてる僕は、日曜日が仕事だった。病院の事務職をしている彼女は日曜日が休みで、いつも赤い傘をさして、仕事終わりの僕を待っていた。 「雨は好きだけど、濡れるのは嫌い」  だから、彼女の赤い傘は、彼女の体とは不釣り合いに大きかった。 「今日はどうする?」 「いつものところでいいわ」  僕たちはいつも行く洋食レストラン「まつぼっくり」に行った。通りに面して立つ、赤いレンガの

    • 短編小説・せかいをすくう

      「君は誰だい?」  たかしの枕元に誰かが立っていた。それを目だけ動かしてたかしは見る。 「わたしはしらい。漢字はないわ」 「しらいさん?」 「さんはいらないわ。そういう存在じゃないから」 「・・・」  たかしはあらためてしらいを見る。しらいは、電気の消えた夜の病室の中で、薄いピンク色をまとい、なぜかほの白く光っていた。 「僕に何か用があるの?」 「あなたに世界を救ってほしいの」 「世界を?」 「そうよ」  しらいはにっこりと微笑んだ。それはやわらかい光のクッションみたいな微笑

      • 短編小説・家畜

         地球が見えてきた。あの美しい光り輝く青い星。 「やっと、やっと、我々は地球に戻って来た」 「はい」  我々は深い感慨に包まれていた。 「長かった・・」  あれから地球時間で三十年の月日が流れてしまった。 「急がなければ・・」  急がなければならない。我々はやっと手に入れたのだ。やっと――。  ――あれは突然やって来た。巨大な宇宙戦艦が突如として世界中の上空に浮かび上がったかと思うと、その次の瞬間には、あっという間に、人類は彼らに支配されてしまった。そして、彼らは人類を・・

        • 小説・小丸との日々(第10話・概念)

          「私のお父さんはギャンブル中毒をこじらせて、失踪。お母さんはカルト宗教にのめり込んで、そのまま家族を捨てて教団施設に家出。お兄ちゃんは、そんな二人が元で、グレにグレて行方知れず。親戚縁者もそんな私たち家族に愛想つかして近寄らず。実家も土地も父の借金のかたに取られちゃったし、もちろんその他の財産なんかあるわけもない。私はそんな天涯孤独の悲しい女の子なの。なかなかハードな身の上でしょ?」  私は小丸に身の上話を聞いてもらっていた。小丸は聞き上手だった。精神科のお医者さんや、最近通

          小説・小丸との日々(第9話・困惑)

          「お前しゃべれるの?」 「はいにゃ」 「・・・」  どうやら幻覚や幻聴ではないらしい。私はホッとした。いや、ホッとしている場合ではない。 「なんでしゃべれるの?」 「なんでかにゃ?」  小丸も首をかしげている。 「どうやって言葉覚えたの」 「テレビにゃ」 「なるほど・・」  日がな一日、憂鬱な私は、カーテンを閉め切って一日中テレビをつけっぱなしにしていた。 「・・・」  しかし、やっぱり何か違和感を感じる。猫が二本足で歩いたり、しゃべったりするなんて・・。 「う~ん」  私は

          小説・小丸との日々(第9話・困惑)

          小説・小丸との日々(第8話・ん?)

          「はあ・・」  ため息をつく。ため息しか出なかった。鬱が鬱を呼び、どん底がどん底を呼ぶ。 「死にたい・・」  いっそのこと死んでしまいたかった。生きているだけで、一日一日お金が消えていく。もう絶望だった。なんの希望も光も見えなかった。 「・・・」  私は洗濯用ロープを握っていた。 「・・・」  死ぬのか。死ぬのか私。私は自分に問いかけていた。  そんな私の前を小丸が横切っていった。 「ん?」  私は、小丸を見た。 「・・・」  私は目をパチクリさせる。 「あれ?」  何か変だ

          小説・小丸との日々(第8話・ん?)

          小説・小丸との日々(第7話・再燃)

          「お前を処分なんてできるわけないよ・・」  私はベッドの上で私の足元に無邪気にじゃれつく小丸を見つめていた。 「・・・」  私は生活保護をあきらめた。 「はあ・・」  でも、これからどうしていいのか分からなかった。また私の目の前は、真っ暗な暗闇のカーテンに覆われた。 「・・・」  月末、ついに家賃を滞納してしまった。  そして、カードの支払いも遅れてしまった。 「うううっ」  鬱で動けない私は、布団の中で、悶えうなることしか出来なかった。 「やばい、このままではかなりやばい」

          小説・小丸との日々(第7話・再燃)

          短編小説・私の物語

           いつも、あの子はあの場所に立っていた。新宿駅の西口通路。大勢の人が行きかうカオスの中に一人立ち止まり、大きな柱を背に彼女はいつもそこに一人立っていた。  彼女の手には「私の物語・一冊300円」という手作りの札が、遠慮がちに掲げられている。  「私の物語・・」  私は気になっていた。その通路を通る度に、彼女と、その小冊子の中身が気になった。確か、彼女を初めて見たのは高校生の時だった。その時は、ただ変な人が立っているなということくらいしか思わなかった。しかし、何年も何年も同じ場

          短編小説・私の物語

          小説・小丸との日々(第6話・処分)

           次の日、私はやっぱり役所に行った。 「ああ、うつ病なんですね」 「はい」  私は窓口の人に診断書を見せた。 「貯金もなくなる」 「はい」 「分かりました」 「えっ」  もしかして? 「それでは手続きに入りますので、こちらへ」  担当の若い女性は、私を奥の部屋へと案内する。 「えっ、あの、生活保護受けられるんですか」 「はい、大丈夫ですよ」  その若い女性公務員はあっさりと言った。 「あのこんな若い人間でも受けられるんですか」 「はい、病気で働けないのでしたら受けられますよ」

          小説・小丸との日々(第6話・処分)

          小説・小丸との日々(第5話・葛藤)

          「うううっ」  私は頭を抱えた。 「金がない・・」  やはり、どう転んでもお金がなかった。 「もう無理だ」  完全に進退窮まった。どう考えても行きづまっていた。どんづまりだった。私の人生どんづまりだった。 「もう死んでしまいたい」  鬱もひどく、私はもうダメだった。 「ああああ~」  私は頭を抱えた。 「にゃ~」  そこに小丸がやって来た。 「にゃ~」  小丸は、その生まれたばかりの澄んだ目で、私を見上げる。 「・・・、小丸・・」  私は小丸を抱き上げた。ちっちゃいけど温かか

          小説・小丸との日々(第5話・葛藤)

          小説・小丸との日々(第4話・名前)

           家に帰ると、ずぶ濡れのその子をタオルで拭いてやり、ドライヤーで乾かしてあげた。目を閉じて温風に吹かれている姿が愛くるしくて最高にかわいい。 「ふふふっ、気持ちいいかい?」  この子を拾ってよかったと思った。  そして、ミルクをあげた。お腹が空いていたのか、ぺろぺろとよく舐める。 「ふふふっ」  その小さ過ぎる背中を撫でてやる。 「お前は小丸だよ」  名前をつけてあげた。小さくて丸いから小丸。安直だが、これが一番しっくりくる感じがあった。それに私は、妙に、あの甘辛いお菓子の揚

          小説・小丸との日々(第4話・名前)

          小説・小丸との日々(第3話・子猫)

          「ふぅ~」  やっと一キロの上りが終わり、自宅のアパートの近くまで来た時だった。  にゃ~ 「ん?」   にゃ~  何か鳴き声がする。 「気のせいか」  雨脚がさらに強くなり、雨が激しく傘を叩きつけていた。私は再び歩き出す。  にゃ~ 「ん?」  やっぱり何か鳴き声がする。私は周囲を見回す。  にゃ~ 「あっ」  子猫だった。公園脇の植え込みの間に、茶トラの子猫が濡れた段ボールの中で一匹、ずぶ濡れになっていた。 「にゃ~」  子猫は私に何かを訴えかけるように見つめてくる。 「

          小説・小丸との日々(第3話・子猫)

          小説・小丸との日々(第2話・雨)

           雨。しかも土砂降り。今日は朝から雨だった。私は雨の日は、ありとあらゆるすべてが調子悪くなる。体も気分も心も髪型も。歯まで痛くなって来た。だから、私は雨は大っ嫌いだった。 「あああっ」  予約しておいたテレビの録画が録れていなかった。 「楽しみにしていたのに・・」  楽しみにしていた映画だった。 「うおおおっ」  パソコンまでがフリーズした。 「もうやだっ」  私は、パソコンの電源を抜いて、強制終了させた。 「最低だわ・・」  だが、こんな日に限って、精神科の予約が入っていた

          小説・小丸との日々(第2話・雨)

          小説・小丸との日々(第1話・鬱病)

          「なんだっ、その口の利き方は、おらっ、なんとか言え、舐めてんのか。コラッ」 「はい、申し訳ありません」 「あなたのとこの会社はこういうことを平気でなさるの」 「申し訳ありません。善処してまいります」 「誠意を感じないわ。もっとちゃんと謝って下さらない?」 「はい、申し訳ありません。もう二度とこういったことのないように・・」  私の仕事はテレフォンアポインター。日々、怒鳴られ、嫌味を言われ、クソみそに言われる日々。もちろん今主流の非正規だ。しかも、外部委託。今契約するこの会社に

          小説・小丸との日々(第1話・鬱病)

          短編小説・治りかけのレディオ

           サンサンと降り注ぐ太陽の光の下、スタジオ裏のいつもの倉庫の階段に私は一人座っていた。 「ふわぁ~」  大きく欠伸をする。いつも現場に来る前の日はうまく眠れない。慣れたはずのこの仕事も、現場当日はいつも緊張してしまう。  でも、今日はびっくりするほどの快晴だった。陽気もいい。こんな日は何もなくても、心がつい浮き浮きしてしまう。 「ごめん遅れちゃった」  そこに詩織さんがやって来た。 「ど、どうしたんですか!」  詩織さんを見た私は驚く。詩織さんは松葉づえをついている。というか

          短編小説・治りかけのレディオ

          短編小説・あの溶けた瞬間の断片に

          「おい、今日はつき合えよ」  熱血教師中野だった。のらりくらりとかわしていたが、さすがにもう無理のようだった。 「絶対にいい勉強になるから。なっ」  そう勢いよく私の肩を叩き、元気いっぱい中野は去って行った。 「はあ~」  大学出て初めて就職した公立高校。ただでさえ私は今までやったこともないバトミントン部の顧問をやらされていた。 「里子に電話しなきゃ」  今日は確実に帰りが遅くなる。溜息と共に独り言が漏れた。  日はすっかり沈んでいた。 「夜回りまでやることになるとは・・・

          短編小説・あの溶けた瞬間の断片に