コピーライターの使う言葉の変化

わたしはコピーライターではないしそういう業界の人間ではないので詳細はわかりませんが、受け手側から見た意見として変化していると感じた点を述べます。

変化したと感じているのは根本的な「誰の視点からその言葉が生まれたか」という部分で、発話者が変わったと私は感じています。

20年ほど前のコピーで思い出せるものとしては、「NYの空は高く、心はいつも自由だった」という映画『バスキア』のコピーがあります(映画監督ジュリアン・シュナーベルの作品)。80年代のNYでグラフィティを描き芸術家を目指していたバスキアの成功とドラッグの過剰摂取で急逝するまでを描いた伝記的作品です。コピーがあらわす通り作品には青春の匂いがします。例えば、大麻を吸いながら公園の中を自転車に乗るバスキアを逆光できらきらさせ美しい音楽を重ね合わせた演出など。「NY」という舞台、志の「高さ」と重ね合わせた「空」、違法でもあるグラフィティを描きルールを気にしないアーティスト然りとした心性を表す「心はいつも自由だった」という言葉を組み合わせコピーが生まれた。きらきらと青春をまぜつつも根っこはアメリカンドリームであるこの映画をよく表していると思います。

このコピーの発話者は誰かと言えばもちろんコピーライターでしょう。コピーライターが映画を見て内容と印象を組み合わせ、映画をより魅力的に伝えるためにあらすじであるアメリカンドリームと、それを脚色する要素として(バスキアの年齢がちょうど20代半ばであったので)青春要素を使い、「空」や「心はいつも自由だった」といった言葉であらすじを脚色していると考えられる。このコピーはあくまでも発話者はコピーライターであり、その視点は作品に向いている。「作品を見て感動し、自分が感動したことを自分の言葉で人に伝える」。普通はコピーライティングというものはこういう構造だと思う。

半年ほど前に電車でみた化粧品のCMや女性ファッション誌でみたコピーは上記のコピーとは明らかに構造が違った。「痩せる」や「美白」といったことを求めるの女性の多くは、通勤途中のスキマ時間のダイエットや化粧水の購入などでその求めるものが手に入るよ、といったコピーを見れば「ああ、そうなのか、手に入るのか」と実践・購入してみたくなるだろう。

その際のコピーに違和感を感じたのだ。「美白が叶う」「太もも痩せが叶う」といったコピーが書かれていた。

「美白になる」と断定しては薬事法に引っかかるし、「太ももが痩せる」と言い切ってしまえば誇大広告になりかねないので、断定はできない。「美白になりたい」「痩せたい」というのは願望だ。その願望を「手に入れたい」として気持ちを表すにはいろいろ種類がある。

欲しい、手に入れる、ゲットする、入手する、なりたい、希望、願望。
この中でもコピーをみる人に欲求以外のものを抱かせる言葉には「希望、願望」がある。前半四つは、概ねお金と交換して手に入るものが対象だ。この言葉を見た人は「欲しいんだね」と欲求を感じ取る。「なりたい」は大きくいえば変身願望だ。「なりたい自分があるんだね」と目標を持っていることがわかる。「希望、願望」は大学受験や、就職活動など人生にかかわるような大きな出来事を求める際に使うと違和感がない。「希望する大学」「御社を希望します」など。「人生を左右するような大きな目標に向かっているんだ」とその人の決意や意志の強さを感じ取る。「なりたい」も「希望、願望」も目標を持っていることを伝えるが、求めるものの大きさや意志の強さなどを程度の強さとして考えると、「希望、願望」の方がコピーを見た人により強く切実さを感じさせる。

「叶う」という言葉をコトバンクで調べてみる。

(叶う)思いどおりに実現する。願っていたことがそのとおりになる。「念願が―・う」「出場が―・う」「―・わぬ恋」
例として恋が出てきた。

希望を調べてみると

あることの実現をのぞみ願うこと。また、その願い。「みんなの希望を入れる」「入社を希望する」
2 将来に対する期待。また、明るい見通し。「希望に燃える」「希望を見失う」

願望も調べてみると

願い望むこと。がんもう。「恒久の平和を願望する」「結婚願望」

ここでは結婚が例として出てきた。

叶う、恋のふたつの言葉をつなげて考えると、少女が胸の前で両手を組みお願い事をしているような、純真できれいなイメージが浮かんでくる。恋をするのは男性もするが、古典的に考えるとこの場合男性はあまり思い浮かばないだろう。そうすると、叶う、恋のふたつの言葉には女性のイメージが結びつくことがわかる。恋という言葉は「感情」を表す言葉なので恋という言葉がなく、叶うの一語だけでも「女性をイメージさせやすい言葉」と考えることができる。さらにその女性はお願い事をしているきれいなイメージだ。

女性をイメージさせやすい叶うという言葉は、コトバンクの例を引けば『思いどおりに実現する。願っていたことがそのとおりになる』という意味だ。この言葉は商品の購入によって手に入る効能を求めていることを表すには大げさではないだろうか。

ここから先は

867字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?