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PBで学んだことをNBに活かす戦略

[要旨]

山芳製菓では、ポテトチップスの市場占有率が3.4%であり、ランチェスター戦略でいうところの「弱者」ですが、現在も売上の半分を占めるPB製品の製造ノウハウを活用し、NB製品の製造を行うようになりました。さらに、PB製品の販売先にNB製品も販売するという相乗効果を活用した戦略も行っています。

[本文]

今回も、前回に引き続き、作家の濱畠太さんのご著書、「『わさビーフ』したたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、山芳製菓では、直接的に大ヒット商品を狙わず、差別化を図ることでヒットすることを狙っていますが、これは、お客様のニーズが多様化し、感覚や気分によってモノやサービスが消費されるようになってきていると考えているためということについて説明しました。

これに続いて、濱畠さんは、山芳製菓は、ランチェスター戦略を応用した戦略を実践していると述べておられます。「ランチェスター経営を、マーケティングや経営に応用して考えるというのは、もはや、定番化されつつあります。一般的に、人員も投資も規模の小さい中小企業は、ランチェスターの第1法則である、接近戦で戦う方が、効率がいいと考えられます。

大企業が手の回らない隙間(ニッチ)の市場、あるいは、特定の地域にエリアを絞り込み、一点集中型で攻めることが有効です。(中略)山芳製菓も、ランチェスター戦略の『弱者の戦略』を意識しています。ポテトチップス市場ではシェア3.4%の弱者であり、弱者としてどう戦うべきか、戦略を明確に打ち出す必要があります。流通との協力体制によるPBの展開は、弱者の戦略の1つの具現化といえるでしょう。現在、売上の半分はPBです。

PBは、場合によって薄利多売を加速するために、食品製造業の一部では撤退する会社もあり、どのメーカーでもPBではそれほど利益が出ていません。しかし、PBを請け負うことで、NBの商品も置いてもらうといった営業展開をするなど、結果としては利益を生み出しています。PBとNBを別々に考えるのではなく、互いの影響力を考慮した上で展開していく必要があるのです。今ではどのメーカーもPBで学んだことをNBに活かす戦略をとっています」(74ページ)

ここで、PBとNBについて補足します。PBはプライベートブランド(Private Brand)のことで、ここでは、製造会社が小売会社から委託されて製造する製品で、小売会社のブランドで販売される製品のことと理解してください。一方、NBはナショナルブランド(National Brand)のことで、ここでは、製造会社が自ら開発し、製造会社のブランドで販売される製品のことと理解してください。

話しを本題に戻すと、濱畠さんは、「今ではどのメーカーもPBで学んだことをNBに活かす戦略をとっています」と述べておられますが、今後も、このような手法を実践する会社は増えていくと思います。その理由のひとつは、「経験曲線効果」を期待できるからです。経験曲線効果とは、「製品の累積生産高が増加すると、生産コストは減少する」という考え方です。具体的には、累積生産量が2倍になると、生産コストは20%程度減少すると言われていますが、これについては直接的な根拠はないようです。

ただ、生産量が増加するにしたがって、習熟度が高まったり、ノウハウが蓄積されたりするので、生産コストが減少することは間違いないでしょう。ですから、最初からNB製品を製造するよりも、PB商品を製造していた経験のある状態でNB製品を製造する方が、コスト面では有利になります。さらに、最近では、中小企業でも、この経験曲線効果を活かして、OEM(相手先ブランド製造)を専門的に行っている製造会社も増加しているようです。このような観点から、山芳製菓の戦略は適切であると言えるでしょう。

さらに、私が、同社の戦略で気づいたことは、「PBを請け負うことで、NBの商品も置いてもらうといった営業展開をする」という点です。これは、PBの流通経路にNBも乗せるという相乗効果が得られる手法です。すなわち、PBを製造している会社が、NBも製造するという多角化によって効率化が図られており、「範囲の経済」が実現されていると言えます。このように、山芳製菓は、PBの製造ノウハウを持っている、流通経路を持っているという自社の強みを上手に活用し、収益機会を増やしているようです。

2024/2/11 No.2615

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