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有限の経営資源を戦略的に傾斜配分する

[要旨]

ひと・もの・かねの経営資源は有限であり、それを社内の各事業に適切に配分し、最大の成果を得られるようにすることは、経営者の重要な役割です。したがって、単に均等に資源配分をするだけでは、成果は最大化できないので、精緻な経営環境分析に基づき、事業の将来性を見通して、有望な事業に傾斜配分することが重要です。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、事業活動においては、ビジョンを経営戦略に落とし込むことが不可欠であり、そのためには、外部環境と内部環境の分析を行い、どのような市場で有利に事業展開できるかを冷静に見極め、最も可能性の高い市場を特定することが欠かせないということを説明しました。

これにつづいて、遠藤さんは、経営戦略に基づく資源配分についてご説明しておられます。「経営者の最も重要な仕事のひとつが、『資源配分』です。人・モノ・金という経営資源を、どこにどれだけ配分するかを決めることです。その際には、事業や商品・サービス、地域などを戦略的に絞り込み、経営資源を集中的に投下することがポイントになります。例えば、1億円の資金があって、成長性が見込める魅力的な事業が、10あるとします。『10の事業に均等に1,000万円ずつ配分する』というのは、あまり戦略的とは言えません。

そうではなくて、『1つの事業に8,000万円、残り2,000万円を1,000万円ずつ2つの事業に投下する』といった具合に考えることによって、成功確率は高まり、強い事業を育てることが可能となります。経営においては、経営資源を『傾斜配分』してこそ意味があります。限られた経営資源を『傾斜』させてこそ、独自の強みをつくることができるのです。その際、どこに『傾斜』させるかという決定を、勘や経験則だけで決めるのは感心しません。経営はギャンブルではないのですから、『ここで勝負しよう』という方向性に基づいて、理詰めの意思決定をすることが必要です。

逆に言えば、その方向性がなければ、経営資源の傾斜配分を行うことはできない、ということです。そして、その方向性こそが経営戦略です。理詰めの判断に裏打ちされた、合理的な経営の方向性こそが、経営戦略であると言うことができます。経営資源は有限ですから、その中で持続的な差別化を実現するためには、あれもこれもと手を出すのではなく、どこかに集中して経営資源を傾斜配分する。そして、差別化に結びつく“臨界点”に達するまでは、脇目もふらずに選択した事業に『フォーカス』し、全社一丸となって取り組んでいくことが肝要です。それを、『選択と集中』と呼びます」

遠藤さんがご説明しておられるように、資金を傾斜配分するということは、伸ばすべき事業を見極めるということです。こうすることで、限られた経営資源で最大の成果を得ることを目指すわけです。ですから、遠藤さんが強調しておられるように、「傾斜配分」することに意味があるのであり、その判断に経営者の能力が求められていると言えるでしょう。では、どのように資源配分の判断をするのかというと、最も有名なものは、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)です。

これは、簡単に言えば、成熟した事業から得られる資金を、これから成熟するであろう事業に振り向け、その事業から新たな資金流入を得ようとする手法です。もちろん、これから成熟する事業を前もって的確に判断することは難しく、だからこそ、精緻な環境分析を行わなければなりません。また、成熟していると判断されるような事業であっても、さらに資金流入が得られるという事業もあります。

例えば、たまごっちは1996年に発売されましたが、27年経った2023年にも新製品が発売されている長寿製品です。もちろん、たまごっちが長寿製品となったのは、メーカーのバンダイが製品寿命を延ばすための努力によるところもあると思いますが、資金流入は、必ずしも新しい事業だけから得られるというわけではありません。このように、資源配分は、全方向で判断しなければならない重要な活動であり、経営者の能力が最も問われる活動でもあると、私は考えています。

2024/3/19 No.2652

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