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[要旨]

稲盛和夫さんは、役員に登用する従業員には、「商才」を求めるそうですが、その商才とは、最大の成果をもたらす値決めができる能力を指すそうです。そして、その値決めは、単に、製品の価格を決めるだけではなく、製品のスペック、販売場所、販売方法などを総合的に勘案して決めなければならないそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、日本の中小企業経営者は従業員の何十倍も働いており、また、重い責任を持っているにもかかわらず、所得税の税率が高いことから、従業員の10倍程度の報酬しかもらわない人が多い一方で、「ガラス張りの経営」も実践しなければならないために、交際費なども自由に使うことができず、割に合わない役割だと考えているということを説明しました。

これに続いて、稲盛さんは、稲盛さんの考える、「値決めは経営」について、夜鳴きうどんの屋台を例にして、ご説明しておられます。「うどんの原材料だけでもいろいろな選択肢があり、うどん1杯といっても、経営する人によって、原価というものが違ってくる。製麺所でうどん玉を買うと、安いところだと、20~30円くらいのものだろう。それを、つくっておいた、おいしい出汁に入れ、ネギを刻み、蒲鉾も薄く切って載せる。

その蒲鉾だって、厚く切って1枚載せるよりも、薄く切ったものを3枚広げた方が見栄えもするだろうとか、いろいろ工夫できる。そうして、苦労して、安い材料を仕入れれば、原価は100円もしないだろう。そこで、売値をいくらにするのかという、値決めに入るわけです。原価が100円として、それを200円で売ろうが、300円で売ろうが、それは勝手だ。しかし、『どの値段なら一番経営がうまくいくのか』ということを考えなければならない。さらに、その夜鳴きうどんの屋台を引っ張って、どこを歩くか、これも自由です。売れないところを何時間もかけて歩いても売れやしない。

スナックやバーなどが集まっているところなら、夜、酔っぱらいが食べに来てくれるだろうと、繁華街の外れで待ち構える人もいるかもしれない。いや、繁華街に行くまでに学生街を回り、夜、勉強している学生に素うどんを安く売って、ひと稼ぎしてくる人もいるだろう。あるいは、繁華街の女性や酔っぱらいが食べに来るのは、夜もせいぜい11時過ぎてからだろうと、11時以降にようやく屋台を引っ張り始める、要領のいい人もいるかもしれない。このように、どの時間帯に、どこで何を売り歩くか、これもその人の才覚次第だ。それ次第で値決めも変わる。

学生街で安く売ろうと考える人は、100円でつくって200円で売り、薄利多売で勝負しようとするかもしれない。あるいは、非常においしいうどんをつくって高い値段をつけ、数はうれなくても利幅を多く取ろうという人もいるだろう。つまり、すべて『値決め』なのであり、これが経営を左右するわけだ。3か月なら3か月間と決めて、その間に夜鳴きうどんを売って大きな利益を出す。そういう人が商才の持ち主だと言えるのであって、京セラではそのように値決めができ、確実に利益の取れる人を役員に登用する、私はこのように(従業員の方たちに)言ったのです」(454ページ)

値決め、すなわち価格政策は、マッカーシーが提唱した、マーケティングミックスの、4Pのうちのひとつの、Priceです。ちなみに、4Pは、Price(価格)のほかに、Product(製品)、Place(流通経路)、Promotion(販売促進)について、各々、どのような戦術を使うかを選択し、これらを適切に組み合わせて、効果の高いマーケティングを実践することを狙うものです。稲盛さんは、「値決めは経営」と述べ、値決めだけを言葉に出していますが、その値決めは、どのようなうどんにするか(製品)、どこで売るか(流通経路)、どのような顧客を標的にするか(販売促進)によって左右されると考えておられることから、最終的には、マーケティングミックスのことを指していると考えることができます。

したがって、「値決めは経営」とは、単に、経営者は値決めだけをすればよいということを意味しているわけではないようです。さらに、稲盛さんは、役員に登用する人に、適切な4Pを構築できる「商才」を求めています。私も、経営者には、よい製品を作ったり、販売促進活動が上手だったりという、個別の活動が得意であるだけではなく、4Pの観点から、総合的に適切な判断ができなければならないと考えています。すなわち、それはバランス感覚ということになると思いますが、そのバランス感覚こそ「商才」と言えるのかもしれません。

2023/11/10 No.2522

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