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見栄ベースで築いた人脈は一気に崩れる

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、仲間内で目立ちたい、あいつはすごいと思われたいという欲求で商売に臨んでいる経営者は、図らずも事業が躓いたとき、社員も、愛想のよかった金融機関の担当者も、仲間だと思っていた社長たちも、すぐに離れていく、すなわち、見栄ベース、金ベースで築いた人脈は一気に崩れるので、注意が必要ということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、資金繰の苦しい会社がそれを改善するためには、まず、顧客に対して売上代金の前払いを依頼することが大切であるものの、商品の競争力が低ければ、代金前払いには応じてもらえないので、前もって商品の競争力を高めるための働きかけをしなければならないということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、社長が見栄の塊になるようなことは避けなければならないということについて述べておられます。「私は、これまで2,000人を超える中小零細弱小家業の社長さんと会ってきた。コツコツ手堅く会社を切り盛りしている人、事業が下り坂で悩んでいる人、上り調子でギラギラしている人……。さまざまなタイプの社長さんがいて、それぞれ向き合っている状況は異なっている。それでも事業を傾けてしまう社長には共通点があった。それが次の7つだ。

(1)応接室:まだまだ規模の小さな商いで、オフィスも手狭なのに、『お客さんと話すなら応接室が必要じゃ』という見栄で応接室を作ってしまう。しかも、『ソファはええ物を』と、背伸びした高級なソファセットを入れている。(2)神棚:『儲かっている会社は神棚があるけ、うちも作ろう』と、立派な神棚をつくる。ところが、数日で水を供えるのをやめ、榊の葉っぱも枯れたままの神棚に……。(3)熊手:神社の酉の市でひと際目立つ大きな熊手を買う。目的は、飾るためではなく、それを持って歩く自分に、周りの注目が集まる気持ちよさを手に入れるため。(4)高級車:ライバル視している社長仲間よりも、ワンランク上の高級車を乗り回す。業績が悪化してきても、軽自動車に乗り換えるという選択はしない。

(5)ブランド物のバック、財布、名刺入れ:とにかく、ブランドロゴがはっきりわかるブランド物を持てばオシャレだと思っている。自信がないからロゴに頼る。(6)会社のトイレが汚い:汚れが気になったときは、社員に『掃除しろ』と言うだけで、自分の手は決して動かさない。そもそも、常に汚れているから気付くこともない。(7)占い師:仲間内で『当たる』と評判の占い師を、『たまたま予約が取れた』と紹介され、姓名判断で名前の漢字を変えてしまう。また、『事務所の風水が悪い』などと言われ、『あの社長も買った』と勧められるまま、水晶のブレスレッドを買ってしまう。

以上、7つの『あるある』に共通しているのは、自分を大きく見せたい『社長の見栄』だ。(中略)仲間内で目立ちたい、『あいつはすごい』と思われたい。そんな欲求で商売に向き合っていると、必ずどこかでつまづくときがくる。そのとき、見栄ベース、金ベースで築いた人脈は一気に崩れる。社員も、愛想のよかった金融機関の担当者も、仲間だと思っていた社長たちも、サーッと逃げていく。自分が見栄の塊になっていないか、今一度我が身を振り返ってみてほしい」(49ページ)

一般的に、過度に見栄を張ることは避けた方がいいということに間違いはないと思います。しかし、私自身を含め、人間誰しも他者から評価されたいと思っているので、私には板坂さんのように、「見栄を張らないようにすべき」と述べる資格はないと思っています。そこで、板坂さんのご指摘を引用するのにとどめたいと思います。また、見栄を張っていると事業につまづくと言われることがありますが、これについては直接的な因果関係はないと私は考えていますので、これも板坂さんのご指摘を引用するのにとどめたいと思います。

ところで、私は、「事業がつまづくと、見栄ベース、金ベースで築いた人脈は一気に崩れる」という板坂さんのご指摘は重要だと思っています。それは、見栄っ張りの社長の会社の業績が悪化したとき、「調子がいいときはあんなにそっくりかえっていたのに、今となってはいい気味だ」と、周りの人が感じるからということでは、当然、ありません。見栄を張っている人は、本当はどんな人かがわかりにくく、表面的な付き合いしかできないため、その後、業績が悪化して困っていることが分かっていても、助けてあげるべきかの判断ができないからだと思います。

このようなことは私が述べるまでもないことなのですが、見栄を張っている人は、自分が困ったときに助けてくれる、本当の味方をつくれない可能性が高く、また、表面的な付き合いをしている人がいるだけで満足してしまい、本当の味方がいないことに気づかないままになってしまいがちなので、注意が必要だと思います。特に、銀行と表面的な付き合いだけになってしまうと、業績が悪化すれば、すぐに融資取引を縮小、または、解消しようということになり、業績を回復するためのチャンスを、ますます失ってしまうことになるでしょう。

2024/5/13 No.2707

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