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[要旨]

利益は、本来は、事業活動が終わったときに残った現金額のことでした。しかし、現在は、事業活動が連続して行われていることから、販売代金を後に受け取る場合であっても、収益は、販売した時点で発生するという、発生主義で利益を認識することになっています。これをよく理解していないと、現金の多寡を利益の多寡と勘違いしてしまうので、注意が必要です。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。稲盛さん(に限りませんが)は、ご著書の中で、現金基準での会計が重要であるとご説明しておられます。「高度な会計を知らなくとも、誰でも自然に身につけている収支計算がある。製品をつくり、お客さまに販売して、代金をいただく。そのために使ったさまざまな費用をその中から支払う。

利益とは、これら支払いのすべてが終わったあとに残ったお金を指すということは、誰でもしっていることであろう。事実、会計が生まれた中世イタリア商人の地中海貿易では、1つの航海が終わると、収入からすべての費用を清算して、残った利益を分配していたそうである。つまり、現金収支の計算が、そのまま損益の計算となっていたわけである。しかし、現代の企業では、その連続する活動を、暦で区分して年度ごとに決算を行わなければならない。

そこで、近代会計では、収入や支出を発生させる事実が起きたときに、収益や費用があったとして、1年間の利益を計算する。これが、『発生主義』と言われる会計方法である。この方法をとると、お金の受取や支払がなされるとき、それらが収益や費用となるときとが異なるようになる。その結果、決算書にあらわされる損益の数字の動きと、実際のお金の動きとが、直結しなくなり、経営者にとって会計というものがわかりにくいものになってきたのである」(43ページ)

この稲盛さんの説明を読めば、現金主義と発生主義の違いがよくわかると思います。本来は、かつての中世イタリアの貿易のように、残った現金の残高が利益だったのですが、現在の会社では、事業活動が連続して行われており、残りの現金を算出できません。そこで、製品を販売したとき、代金を後から受け取ることにした場合でも、そこで収益が発生したと認識するルールになっています。

逆に、材料などを仕入れたときも、代金を後払いにすることにした場合でも、そこで費用が発生したと認識するルールになっています。また、土地などを除いた有形固定資産も、購入した時点で、その代金の全額が現金が支払われますが、その支払額のすべてが、支払った自伝で直ちに費用にはならず、複数年(耐用年数)にわたって費用として認識します。

ときどき、経営者の方の中で勘違いしてしまう人を見かけるのですが、商品がたくさん売れて、あたかも事業活動が活発になっていると感じていたら、実際の決算では、赤字になっていたということがあります。これは、商品の価格が低く、不採算であったにもかかわらず、経営者の方は、目の前をたくさんの現金が入ってきている場面を見ているため、利益も出ていると誤認してしまい易いのでしょう。

ところが、後になって、材料の仕入れ代金を支払ったら、ほとんど手許に現金が残っていない、または、現金が不足するということが起こります。これは、仕入代金を現金で支払っていないと、費用が発生していないと誤認してしまい易いのでしょう。ですから、会計について学んでおられない経営者の方は、現在の会計は、発生主義で収益や費用を認識しなければならないということに、注意しなければなりません。

2022/12/9 No.2186

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