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「都合のよい切り取り」に気をつけよう

小中学校の教科書展示会に行ってきた。

時間がなかったので、興味のある箇所をさっと見てきた。

育鵬社の公民の、「憲法改正のしくみ」(P20)の中で、気づいたことを記してみる。

まず、集団的自衛権の行使について、この様な記述がある。「しかし、憲法前文の後半で「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と書かれており、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、日本が必要最小限度の範囲で実力を行使することは、憲法上許されるのではないかとの指摘があります。」

中学生が憲法の前文と条文読んでないと思って、随分都合よく飛躍したね・・・。

この指摘を誰がしたかは知らない(名前を書けばいいのに)が、憲法前文を、集団的自衛権の正当化に使うのは、明らかにミスリードだろう。

これは、最近よくある、「都合のよい切り取り」だ。なんでもそうだが、言語行為で、独立したものというのは概念の中でしか存在しえず、実際の発話や文章には、常にそのコンテクストがついてまわる。コンテクストとは、つまり、文脈、前後関係、背景、状況といったものだ。「都合のよい切り取り」は、焦点をあてた箇所を、そのコンテクストを見せないことで、ニュアンスや意味を巧妙に、自分にとって都合の良いように変えて利用することだ。

憲法前文全てを読めば、また憲法全文を読めば、この教科書に引用された部分も、「他の国が攻撃されたら、その防衛に加勢すべき」、という意味など全く読み取れない。むしろ、憲法全体を通じて貫かれている精神は、その正反対の平和主義といえる。

また、同じページの上部に「憲法改正についての世論調査」というアンケート結果の図が載っている。カラーで大きく、ぱっと目に付く表だ。これは2013年4月20日の読売新聞全国世論調査に基づくデータで、「改正するほうがよい51%」「改正しないほうがよい31%」「答えない18%」とある。ところで、この調査は、同年3月30日から31日にかけて行われ、層化二段無作為抽出法によって選ばれた全国有権者3000人のうち、回答が49%(1472人)ということだ。よって改正するほうがよいと答えた人は、750人程度ということになる。日本の有権者数は約1億人なので、回答したのは0.0014%、そのうちの改憲賛成750人というのは、0.00075%。

数字(データ)出せば、だませると思われてるね・・・。

この様なたった一社のアンケート結果を、ページのいちばん上にカラーで目立つように載せて、これがいかにも憲法改正に関する国民の世論を表しているように見せかけるのは、やはりミスリードだ。数字を出せば客観的に見えることから、データ(らしきもの)を都合よく使った例といえる。

(当該の読売新聞のアンケートについて書かれている記事: http://hunter-investigate.jp/news/2013/04/1951-30313000491472-30315154313028272755-9642-402010129676-76.html

教科書として、公正さに欠け、不適切だ。

「他のみんなもそうです」論法

ちなみに、「自由社」の公民の教科書の憲法改正のところも見た。こちらは憲法前文に、国の歴史や伝統や文化を書き込む必要なんかもあります(他の国もそうしています)、といった調子で書かれているが、一体それは誰の意見だ。これは読んだ事のある人はすぐにぴんと来ると思うが、もちろん、2012年自民党改憲草案を踏まえているのだろう。

(憲法と改憲草案の比較:http://satlaws.web.fc2.com/0140.html)

また、他のみんな、改憲もしていますという表もあった。それもそれらの国での憲法のあり方や、改憲の内容など、つまりコンテクストや内容そのものを無視したものであり、先述の「都合のよい切り取り」と「数字を出す」との合わせ技といえる。

こういう姿勢、教科書として、どうよ・・・。

とりあえず、この二社の教科書が、自民党の改憲を目的として作られたものということが、とてもわかりやすかった。

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