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アーティスティックスポーツにおける芸術性とは?

元新体操選手ろるです。

 アーティスティックスポーツについて考える、第3弾は芸術性について。
「アーティスティックスポーツ」についての考察について、元からあった「芸術スポーツ論」のマガジンの名前を「アーティスティックスポーツ論」に変更し、こちらにまとめることにしました。これまでの投稿を見ていただけるとより理解できると思います☺

 

アーティスティックスポーツの特徴

 「アーティスティックスポーツ」とは、町田樹さんが提唱した概念です。競技規則の中に芸術性を求めるスポーツのことを指します。これまで、相容れることのないと考えられていた「スポーツ」と「アート」の融合が叶うスポーツで、フィギュアスケート、新体操、アーティスティックスイミングのほか、10以上の種目があるとされています。

 アーティスティックスポーツは、スポーツの定義とアートの定義を含みます。これがあればスポーツとされる概念、「競争性」「遊戯性」「組織性」「身体性」。さらに、アートの成立には欠かせない「作者ー作品ー観賞者」の存在、その作品を作り上げる原動力になる「コンテクスト」「歴史性」。これらを融合させたものが「アーティスティックスポーツ」なのです。

 今回は、この定義の中でも「アート」の定義に関連して、「アーティスティックスポーツ」で現れる・求められる、「芸術性」について考えましょう!

アートの概念と新体操


 まず、アートの定義に新体操を照らし合わせたいと思います。
 アートの定義としてもっとも重要なのは、「作者ー作品ー観賞者」の3者の立場がある、ということです。新体操の「演技」は真ん中の作品にあたるので、

作者(演技を構成する人)ー作品(演技)ー観賞者(審判員・観客)

ということになるでしょう。作品は演技のことを指しますが、私は演技者も作品の一部だと考えます。なので、この”作品”は「演技者」「演技者が行う演技」「使用する音楽」「衣装」などを総括したものだと考えました。また、演技者自身が演技を構成することもありますが、この3者の図式は基本的には変わらないでしょう。

 また、アートには「観賞者」の存在が重要です。観賞者とは作品を見て評価を行う人のことです。この評価は、審判員が行う審判のみならず、演技を見て「こうだったなあ」「ああだったなあ」と言える観客も含まれます。観賞者について、また後ほど詳しく…

アーティスティックスポーツの「芸術性」って何?

 さて、今回の本題です!これまでスポーツと芸術が融合する~と言い続けてきましたが、ところでこの「芸術」って何でしょう。まず、採点規則に則って考えてみます。

(ところで、ろるは新体操のルールには疎いです。なぜなら新体操のルールは風のように変化するので、ついていけません。説明不足ありましたら申し訳ありません。)

新体操の採点規則

 新体操は大きく2つの観点から採点を行います。一つは「技術点」。これは、技の難度を点数にするものです。例えば「バランス」。正しい形を保持した状態が見えれば、その技の点数がカウントされます。この技術点は、あらかじめ決められている技が〇か×かを判断するもので、基本的にここに芸術性は求められません。
 技術点は〇とする形が決まっているので、正誤の判断がしやすく、ここにスポーツらしさがあるといいます。実際、数年前に技術点重視の採点規則に変更されたときも、国際体操連盟の渡辺守成は「スポーツらしくなった」と評価しています。
 この技術点の部分は、器械体操にもある部分です。ここでは技術の質を評価しますが、ここで見られる美しさは、「美的」(パッと見て感じる美しさ)であり、「芸術的」な美しさではありません。技自体が芸術にはならないことに注意です。

 もう一つが「芸術点」。これは、演技と音楽の一致、空間(マットの上)が満遍なく使用されているか、といった、演技全体の表現に関わるものを採点します。先の技術点がその都度、技をするごとに○×を判断するのに対し、芸術点は演技終了後、全体を通してどうだったかを採点します。

 言わずもがな、この芸術点において芸術性が認められます。技術点が「スポーツ」らしい側面なら、芸術点は「アート」らしい側面といえるでしょう。この芸術点で評価される部分は、決まった型が存在していないので、(ルールの中での)作者や演者の自由な演技が許されます。新体操では、この自由な演技は使用する音楽に合わせて作品が作られるのがほとんどです。       
 例えば、タンゴの曲を使用した作品なら、タンゴのリズムに合わせた歯切れのあるステップを取り入れる。現代的なリズムの音楽なら、近代的なダンスのような動きをする。バレエ音楽なら、繊細でゆっくりとした動作をする。このような音楽にあった動作を、技の合間やステップ、技中の空いている手で行います。

 こうして音楽に合わせて作られた作品は、審判によって評価されますが、審判にもその芸術性を解釈できる審美眼が必要です。 

 このように、新体操(多くのアーティスティックスポーツ)は、技術点と芸術点が存在し、審判の審美眼によってその作品の芸術性が「芸術点」という形で評価されるということです。

新体操で求められる芸術性ー点数による評価

 では、芸術性のある作品を完成させたいと思ったとき、どうすればよいのでしょうか。

 まず、採点規則に準じて見ていきましょう。町田さんは、新体操を含めたアーティスティックスポーツの芸術性を評価する観点を以下の7つに示されるとします。

①振付・演技構成、②音楽解釈、③創作性・独創性・個性、④パフォーマンスの到達度、⑤群舞の同調性、⑥身体の質、⑦道具操作の熟達度

『アーティスティックスポーツ研究序説』p,127

 この中身にも様々な要素が盛り込まれているのですが、(例:感情や知性の創出は「創作性・独創性・個性」の一要素である。)これらから、芸術点は選手の演技能力だけを評価しているわけではないといいます。これは、選手の演技は作品であり、その前に作品を作る作者がいて、「作者が作った作品を選手はいかに表現できているか」が審判されるからです。つまり、いくらきれいな動きをしていて美しくても、その演技が、音楽を根拠とする作者の意図にそぐわないものであると判断されたら、芸術点では評価されないということになります。

 演技の「エンターテインメント性」や「音楽性」といった美的な価値は、競技会の場において選手自身が瞬間的に生み出しているものではなく、あらかじめ仕組まれているものと言えるだろう。…AS(アーティスティックスポーツ)の芸術性とは、振付を構成(デザイン)する者の創作能力と、それを体現する選手の実演能力の両者によって顕在化する美的価値なのである。

 の本番の演技で見える芸術性は、もともと演技を作った時点で考えられたもので、それをどのくらい選手が表現し、それを審判が正しく読み取る。こうした3者の連携によって、芸術点として評価されていきます。
 なので、作者(演技の構成者)は、音楽・作品のメッセージを表現できる演技を作る必要があり、演技者はその意図を知っておく必要があり、審判はその意図を読み取れる知識と訓練された審美眼が必要、ということです。

 

新体操で求められる芸術性ー点数を超えた評価

 さて、以上のように大会で演技された作品は「芸術点」として評価されます。しかし、芸術点では採点しきれない芸術性があると町田さんは言います。

 例えば、選手がとあるバレエ音楽で演技をしたとします。バレエ音楽には物語があるので、作者は選手がその物語のとある登場人物を演じることができるような作品を作ります。選手もその意図をしっかり理解し、一挙手一投足こだわりのある動作を行ったとしましょう。では、審判員はその作品の意図をくみ取ることができるでしょうか。
 この作品の意図を忠実に読み取るには、高度な知識が必要です。審判員に、「この選手はこの音楽で踊ります」という前情報は入りません。なので、一聞きしてその音楽がなにかを理解する必要があります。さらに、その音楽の物語を知っておかなければなりません。仮に知識を有していたとしても、採点は演技が終わってすぐ、数秒で行わなければなりません。調べ事をする時間などありませんし、その物語が再現されているか、しっかりと見る時間もないでしょう。時間的な制約もあります。

 このように、審判には時間的制約という大きな制限があることから、忠実な採点は難しいといえるでしょう。

 しかし、このバレエ音楽の作品、作品としてはかなり評価に値するものだと思いませんか?
 こうした優れたアートとしての作品は、現段階では残念ながらその場かぎりのものになってしまっています。かりに高い芸術点が出たとしても、その試合の順位の根拠になるだけで、一度出た芸術点はその試合以外では役立ちません。他試合での芸術点と比べて…というようなことも行われることはありません。

芸術性の高い作品を正しく評価するには

 こうしたバレエ音楽の作品が評価されるには、「観賞者」の力が必要です。なぜなら、仮に作者・作品がメッセージ性の濃いものであったとしても、それを受け取る者が正しく受け取らなければ存在しなかったことになってしまうからです。(その作品の芸術性を知る者は、作者と演技者だけとなってしまいます。)

 この観賞者には、審判員のほかに観客も含まれます。時間的制約があり、正しい評価が難しい審判員より、観客の方が作品をアートとして受け取ることができそうですし、そうした見方ができれば、より新体操の面白さを味わうことができます。実際、町田さんは、観賞者のレベルがその世界の広がりを助けるといいます。フィギュアスケートを見に来る観客も、多くが作品を「芸術作品」として見て、その芸術性を楽しみに来られている方が多いそうです。

 では、観賞者は作品をどのように評価すればよいのでしょう。

 町田さんは、「言葉での評価」をおすすめしています。これを「クロース・リーディング」(テクスト分析)というそうですが…

 この話は次回にしたいと思います。

まとめ

  •  アーティスティックスポーツである新体操は、スポーツ要素もアート要素も含んでいる。スポーツ要素は「技術点」で、アート要素は「芸術点」で評価されている。

  • アートには「作者ー作品ー観賞者」の3者が必要である。芸術性のある演技をするためには、作者があらかじめ芸術性のある(メッセージを込めた)演技を作り、演技者はその意図をくみ取り、演技で表現する必要がある。

  • その演技の芸術性を感じ取る観賞者がいなければ、芸術性は評価されない。審判員は限られた時間の中での評価であることから、深い鑑賞が難しい。観客は作品の芸術性を受け取ることができれば、より新体操を見て楽しめるし、その作品も正しく評価されることになる。

  • 芸術性の高い作品は、「言葉」で評価することによって残すことができる。


 アーティスティックスポーツの芸術性は、芸術点で評価されます。しかし、点数にはならない部分が多々あるのも事実です。構成者ー演技者ー観賞者(審判員・観客)それぞれが芸術をかみしめ、役割を果たすことができれば、より芸術として楽しむことができる競技になりそうです。

余談

 私は、新体操の芸術性が好きです。技ができるようになるのも好きですが、個性を出してその個性が個性として認められる。ろるちゃんの演技が好きと言ってもらえることが、試合で優勝するよりうれしかったです。私自身はそんな大きな選手にはなれませんでしたが、試合の結果よりもだれかの心に・記憶に残る演技。そんな演技に新体操の醍醐味があるような気がします。

 記録には残らないけれど、記憶に残る芸術性あふれる演技。そういった演技が正しく評価され、これからも増えていってほしいと思います。そのための力添えになれるように、勉強していきたいです!

 次回は、そんな芸術性あふれる演技を語り継ぐための方法について。

 最後までありがとうございました☺

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