_DSCF6154_のコピー

あの名建築に会いに行こう!——大分県中津市「風の丘葬祭場」編

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。
突然ですが皆さんには、「いつかあの建築を訪れてみたい!」という建築はあるでしょうか?
瞬時に頭の中にいくつもの建築が浮かんでくる方、2つ3つは浮かんだよ、という方、パッと思い浮かぶものはないなぁ、という方、それぞれだと思います。
定番の名建築でいえば、国内なら京都・奈良の有名なお寺や神社、伊勢神宮や出雲大社、嚴島神宮……。
海外だとローマの教会建築、パリのエッフェル塔やルーブル美術館、ロンドンの国会議事堂などなど。
どれも旅行ガイドブックの表紙を飾るような名建築で、建築好きでなくとも一度は行ってみたいと思うものではないでしょうか。

これら歴史ある古建築に共通しているのは、その土地の文化や歴史、人びとの生活を反映したものであるということ。
毎年数多くの観光客が訪れ、建物だけでなく周囲の町並みや自然、その土地の文化や郷土料理、地域に息づく人びとの生活など、それぞれに観光を楽しんでいます。
したがって、建物そのものにそこまで興味はなくとも、さまざまな体験とセットで旅行を計画し、目的地のひとつになっているというわけです。

◆建築をミシュラン掲載の名店に例えてみる
世界遺産に登録されているような、誰もが疑いなく「訪れる価値がある」とされている建築、これらをミシュランの三つ星レストランに例えてみましょう。
ミシュランは、その価値基準を下記のように定義しています。

三つ星 そのために旅行する価値のある卓越した料理

二つ星 遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理

一つ星 そのカテゴリーで特においしい料理

ここで料理⇒建築に置き換えてみます。「おいしい料理」は「優れた建築」としておきましょう。
なにをもって良い建築とするのかは難しいところですが、仮に「人類史の観点から重要」「建築史の観点から重要」「優れた建築デザインを有する」といった要件をほかに類を見ないレベルで満たしている建築を三つ星、以下総合的に判断されるものとします。
上述の建築が三つ星とすれば、二つ星、一つ星の建築が思い浮かぶという人は、なかなかいないのではないかと思います。
また三つ星級の名建築に、歴史的建造物だけでなく現代建築を挙げられるという人もそう多くはないでしょう。
(シドニー・オペラハウスやアントニ・ガウディの建築など、世界遺産登録されている比較的新しい建築もありますが、これらも建築の歴史においては「近代建築」として括られます)
けれどあなたの住んでいる町に二つ星、一つ星の建築があると知ったら、行ってみたいと思いませんか?
特別名所のない地方都市に出張で出かけることになった時、空いた時間に見に行ける名建築があったとしたら、ちょっと足を伸ばしてみたいとは思いませんか?

実は建築が好きな我々にとって、ちょっと足を伸ばして見に行ってみようか、と思う二つ星、一つ星の建築は日本全国どこへ行っても必ずと言ってよいほどあるんですね。
以前、建築の面白さが分かるとどんなことでも面白がれるようになるというお話をしましたが、どこにでも目的地があるというのも、建築を学んですごく得をしたなと思うことのひとつです。
今後noteでは、訪れる機会のあった名建築のレポートを、その建築を楽しむポイントともにアップしていきたいと思っています。
前回の投稿で、福岡県の太宰府天満宮について書きましたが、その際に足を伸ばして、ずっと行ってみたかった大分県中津市にある、「風の丘葬祭場」に行ってきました。いわば私にとっての二つ星建築ですね。
今回はその外観デザインについて、簡単にお話ししたいと思います。

◆大分県中津市 「風の丘葬祭場」に会いに行こう!
「風の丘葬祭場」は「代官山ヒルサイドテラス」や「SPIRAL」などを設計したことで知られる槇文彦氏という建築家が設計した葬祭場です。
ヨーロッパで生まれたモダニズムという建築原理(装飾を排除した直線的な構成で、明るく機能的な空間をつくる、地域性や民族性を超えた普遍的なデザイン)を日本の都市空間に展開してきた建築家で、1993年には建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞しています。(日本人としては丹下健三に次いでふたり目)
槇氏が著した『見えがくれする都市』(1980年、SD選書)は発行から40年近く経つ今でも日本で建築に携わる者にとっては必携書のひとつとなっており、日本の建築家に対する影響は絶大なものがあります。
そんな槇氏の代表作のひとつとされている「風の丘葬祭場」は、それだけでも一見の価値ありなのですが、1997年に竣工したこの作品は、処女作の竣工から37年後の作品であり、大規模な公共建築を多数手がけていた当時の槇氏からすると、意外なほど小規模な作品です。
これは槙氏のデザインがかなり凝縮されたかたちで表れているのではないか、、、そんな期待感が膨らみますね。

中津市は、九州の玄関口である博多駅から特急でも1時間ちょっと、小倉駅からなら30分で行くことができます。
大分は温泉も有名ですので、そちらと合わせて訪れるのも良いですね。
中津駅からはバスが1時間に1本程度出ており、15分程度で最寄りのバス停に着きます。
周辺の様子はこんな感じ。平地の田園地帯に住宅が点在しています。

「風の丘」という名前だけあって、平地から少し土地が盛り上がった場所に位置しています。

葬祭場の隣には、近年発見された古墳跡が保存されています。

丘を登り切ると建物が見えてきます。アプローチから見るとこんな感じ。
これだけだとどんなかたちをしているのか、よく分かりませんよね?

こちらが南の公園側から見た外観です。
左に見える傾いた塔が斎場、右手に見える三角形の壁面は火葬場や告別室のある棟、その間を高さの低い通路がつないでいます。
一見すると美術館とでも勘違いしてしまいそうな寡黙なデザインです。
どうしてこのようなデザインになったのでしょうか。

なぜこのような幾何学の図像にこだわったのか。ひとつは公園側からの外観構成において、強く建築性を意識させたくなかったからである。そのため、やや外側に傾いたレンガの塔、コールテン鋼の三角形状の壁面、そしてコンクリートの水平の壁をそれぞれ強いアイデンティティを有する抽象図像として選択した。「新建築」1997年7月号

具体的な何かをイメージしてしまう形態だと、故人との別れの場として相応しくないと考えたようです。
そしてもうひとつの理由についてですが、南の公園はこのように土地を造成しており、綿密なランドスケープデザインが施されています。

なぜかというと、公園から見たときに、建物が地面に埋まったように見せるため。
建物の見かけ上の高さを抑えることで、建築に重厚感が生まれ、葬儀場として相応しい厳粛な外観となっています。
見る位置によって地面の高さがどう変わろうが成立するデザインとして、幾何学が選択されたということですね。

こちらは待合室の外観。外構を盛り上げることにより、外からの視線をシャットアウトする役目も同時に果たしています。

また公園側からの外観だけでもレンガ、コールテン鋼、打ち放しコンクリート、ガラス、と多彩な素材が使われています。
一連の儀式に応じて選択された素材が違和感なく同居する上でも、この形態は有効だといえるでしょう。

外観を見回しただけでもこれだけの工夫が妥協なく施されていることが分かりました。
次回は内観を中心にお話しして行きたいと思います。

ツイッターでnoteに書く記事の元になるつぶやきをしています。よかったらフォローお願いします。
@ronro_bonapetit


最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。