チョースゲー建築の世界_もっと楽しく_伝えていきたい

モチベーションを維持する会社内倒産?──建築界の異端児、創造系不動産のチームマネジメント

「あなたが応援している会社を教えて」

LINE証券とnoteとのコラボ企画を知り、建築を専門に活動するライターの僕は、真っ先にある不動産会社のことを思い浮かべました。

建築業界と不動産業界は、一見近いようでいて実はかなり考え方が異なります。
たとえば著名な建築家がデザインし、建築的には高く評価されている住宅であっても、不動産業界では「駅からの距離、築年数、広さ」といった画一的な指標で価値を判断されてしまいます。
また不動産的には価値が低い土地であっても、建築家が本領を発揮すれば魅力的な住宅を建てることのできる掘り出し物の土地に化けるなんてことも。
これも裏を返せば、土地のポテンシャルを正当に計れていない結果でもあります。

そうした建築と不動産のもどかしい関係に問題意識をもち、「建築と不動産のあいだを追求する」をミッションに掲げるのが、創造系不動産です。
彼らが大切にしているのは「建築」に対する強いリスペクト。
土地探しから資金計画など、ある建築を設計し実際に使用するまでに必要なプロセスのうち「建築家にはできないこと」のすべてをサポートするのが創造系不動産のサービスです。
建築家には設計に全力投球してもらい、そのほかのことをすべてカバーすることで、ひとつひとつの建築設計を最高のプロジェクトにしたい。
その理念に共感し、長らく注目してきました。

そんな創造系不動産が、ここ最近次々と新しい活動を展開しています。
常に話題の中心にいる創造系不動産の建築ラッパー(⁉︎)カタチトナカミこと佐竹雄太さんに、新たな挑戦にかける想いを伺ってきました。

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ロンロ:本日はよろしくお願いします。年末の創造系ペリカンナイト、とても楽しませていただきました。建築を軸に音楽・ダンスと、いろんなジャンルで新しい表現にチャレンジしている方々が登場し、ワクワクするイベントでした。

佐竹:ありがとうございます。ペリカンナイトは2018年末に続き2回目の開催で、昨年より大きな会場でたくさんの方に来ていただけました。お酒も提供するクラブイベントで、最後は僕自身のラップで締めるので、なるべく肩肘張らずに楽しんでもらえるように工夫しています。

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ロンロ:現役の建築学生も登壇していて、見ている側も「自分も頑張らなきゃ」と思わされる内容だったと思います。年末の忙しい時期に、本業とは異なるイベントを仕掛けることにはどのような狙いがあるのでしょう?

佐竹:なんか面白そうなことしてる不動産屋がいるぞ、って認識してもらうためですかね。僕らの仕事って、ほとんどが建築家の方に土地探しを相談してもらうところからスタートするんです。そうすると建築業界でどれだけ知ってもらえるかが重要なんですよ。

ロンロ:なるほど。若い建築家を招いた「設計と独立のあいだ」というイベントも、非常に興味深いテーマでした。将来独立を考える学生には一番気になる話ですよね。

佐竹:あれは元々僕のチームにいた本山が、新しくチームリーダーになって、メンバーの鈴木との若い2人で企画したイベントです。事前インタビューを行ってnoteで告知したり、チームメンバーだった頃と比べると見違えるように主体的に動いていて頼もしく感じました。

ロンロ:御社は「チーム」という単位で動いているんですね。どういった組織体系なんですか?

佐竹:社長の高橋をトップとして、その下に4つのチームがあって、それぞれチームリーダーの下に1〜4人のメンバーが属しているかたちです。トークイベントは、「創造系レクチャーシリーズ」というシリーズにしていて、4チームで持ち回りで企画運営を行っています。建築家の方とつながりを築くために、以前はオープンハウスやトークイベントなどにこちらが伺うようにしていたんです。それがある時から「自分たちでイベントを企画して来てもらう方が濃いつながりになるのでは?」ということになって。自分の興味関心を追求できるし、自由にやらせてもらえるカルチャーができていて楽しんでやってます。

ロンロ:本業以外にもいろいろ仕掛けていくのは大変ですよね。傍から見ていて、決められた仕事だけやっていてはダメだ、という危機感が共有できているのかなと感じます。

佐竹:それが可能になっているのは、「会社内倒産」があり得るからでしょうね。

ロンロ:会社内倒産ですか……。なかなか衝撃的なワードですね。どういう意味でしょう?

佐竹:創造系不動産の4つのチームは、チーム単位で毎月収支の管理を行っていて、独立採算制になっています。会社内に4つの子会社があるようなイメージですね。赤字になってしまったらチームは倒産、リーダーを替えるとか他チームとの再編成も含めて検討しなくてはいけない仕組みになってるんです。実際過去に倒産してしまったチームもあります。そのため、自分たちで仕事を生み出さなければいけないという危機感がある。特にリーダーは必死ですよ。創造系不動産にいるメンバーは独立志向の強い人が多く、うちで経営を擬似体験するのは良い経験になると思います。代表の高橋も建築業界に経営の知見を広めていきたいという使命感をもっていて、建築家向けの経営スクールなども実施しています。チーム制を導入する以前は、毎月会社の会計状況を共有しながら、「来月までにこれだけ売り上げが上げられなかったら倒産だぞ」なんて言われながら働いていました。

ロンロ:確かにそれは主体性が育まれそうですね……。ただ、利益追求を優先してしまいかねない気もします。

佐竹:そこは会社として強く意識しているところで、会社の理念のひとつに「建築と不動産のあいだの世界の伝道に努める」という言葉が掲げられていて、メンバーにSNS等での発信を奨励しているんです。とはいえやれと言われてできる人だけではないので、社内でPR大賞を設け、創造系不動産のPRに貢献したプロジェクトを表彰することを僕から提案しました。3期連続で僕が受賞していますが笑 歴史ある建築専門誌「住宅特集」の表紙を飾った「街の家」(増田信吾+大坪克亘設計)では不動産仲介としてクレジットしていただきました。恐らく不動産会社がそのように掲載されるのは初めてのことだったのではないでしょうか。

ロンロ:PR活動が、将来への投資としてだけでなく、目に見える成果につながっているんですね。個人が発信することのメリットは分かっていながらも、リスクを恐れて思い切ったことができないという人もいると思います。その辺りのバランスはどのように考えていますか?

佐竹:僕が先陣を切って建築ラップというブッ飛んだ表現をしてしまったので、だれも発信を怖がってなんかいないですね。むしろ佐竹に比べたら真面目過ぎるんじゃないかと思ってそうです笑

ロンロ:佐竹さん自身のモチベーションはどこから来ているのですか?

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佐竹:僕、ある時期まで建築をこじらせていたんですよ。大学を出て入社した建築家のアトリエは厳しくて1年で辞めてしまったんですけど、変に自信だけはあって。そのあとフリーターしながら1級建築士の免許を取って、注文住宅設計の会社で設計を経験したあと、一度ベトナムで就職したんです。けど日本とあまりにも環境が違うので、ここで学んだことは日本では活かせないな、と思って帰ってきました。その時に創造系不動産に中途で入社しました。いまから3年くらい前ですね。独立するでもなく、ずっと建築業界をフラフラしてました。その頃、建築学会が主催していたあるイベントに参加しました。建築業界に関わる若い人を集めて、お互いのプロジェクトを紹介し合う内容で、そこに間に合うように1曲目の建築ラップを作って発表したんです。周りが自分の設計した建築の模型を並べている中で、僕だけMacを持ち込んで曲のPVをループで流してました。それを面白がってくれる人たちがいて、Twitterでも話題になって、初めて建築業界に居場所を見つけたような気がしたんですよね。「こういう表現もありなのか」って。その時に出会った建築家と、いま一緒に仕事ができているのも大きいです。

ロンロ:本業以外の表現活動によるメリットを、一気に実感したわけですね。

佐竹:そうですね。こんな凄い世界があるんだぞっていうのを、もっと楽しく伝えていきたいなと思っています。僕らが「チョースゲー」と思う建築っていっぱいあるのに、地元の友達とは建築の話なんてしないじゃないですか。もったいないなって。普通に暮らしているとそういう建築に触れるきっかけってほとんどないので、専門的なメディアとは違うアプローチで、建築を知るハードルを下げていきたいなと思ってます。

ロンロ:僕もそう思って活動してます! 最後に、これからやっていきたい取り組みがあれば教えてください。

佐竹:建築家が設計した優れた住宅を、一般の人にも体験してもらえる場をつくれないかなと考えています。実際の空間を体験すると、一発でその魅力を感じてもらえると思うんですよね。そのひとつの方法としていま、僕のチームで新規事業を考えていて、建築家の設計した中古住宅を専門に扱う「建築家住宅手帖」というWEBサイトです。このサイトでは建築家の住宅を買ったり、借りる事が出来たり、内覧会等のイベント開催や、取材記事で伝える事などを行っていく予定です。いままで、こういった建築家の住宅の価値を伝え、次の住まい手につないでいく場がなかったので、これは創造系がやらねばと使命感を感じています。
これによって、住宅を建てるときに、建築家に依頼する選択肢もあるんだよってことを、もっとたくさんの人に知ってほしいです。建築家とも施主とも違う、第3の立場で建築界に貢献できることを考えていきたいですね。今後、この新規事業の立ち上げにあたり、クラウドファンディングを行う予定ですので、ぜひ注目してもらえたらうれしいです。

ロンロ:それは楽しみです。本日はどうもありがとうございました。

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創造系不動産HP


佐竹さんTwitterアカウント


カタチトナカミ You Tubeチャンネル


第2回創造系ペリカンナイト詳細


「設計と独立のあいだ」について書かれたnoteはこちら


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