「腐らないうちに」

 人間は生ものだ。それは、俺の性根が腐っている事実からも証明が容易い。……誰が腐ったミカンだ。

 基本的に人と関わることには消極的だが、人間が生ものであることを考えると、「この人と関われるのは今だけかもしれない」という希少価値を感じ、不思議と積極的になれたりする。
 積極的になった結果として、後悔することもある。
 それでも、そうやって後悔した経験も、何だかんだで笑い話になったり、失敗を避ける教訓になったりと、役に立ってくれる。つまりはネタになる。

 しかも、そうやって得たネタは、半永久的に腐ることが無い。

 人間が生ものであるという考え方は、人と関わるのが嫌いな俺が、半永久的に活用できるネタを得るための、重要な考え方だ。

 今目の前にいる相手は、明日も会えるかもしれない。
 でも、今日のその人は、明日会えるその人と、何かが違っている。

 着ている服が違うかもしれないし、考え方が変わっているかもしれない。
 健康的な食事をして活力にあふれているかもしれないし、睡眠不足でだるそうにしているかもしれない。

 そして、それは自分にも当てはまる。

 今日の自分が、明日も同じ考え方をしているとは限らない。
 今はやる気があっても、明日には意気消沈しているかもしれない。
 今、精神的に余裕があって、目の前の人に何かをしてあげられるかもしれない。
 あの人の話は、今聞いておけば心に響くかもしれない。
 聞くことを先延ばしすれば、心に余裕が無くて、話を聞くことすらできないかもしれない。

 今は見えていたものが、明日には分からなくなっているかもしれない。

 そう考えると、「今のその人」はとても愛おしいものになる。
 ……とまで言うときれいごと過ぎるが、少なくとも「今のその人」の貴重さを意識できる。

 だから、人間関係が今よりも嫌いで苦手だった昔の俺に、もしくは自分と同じような人に、「人間は生もの」という考え方を提案したいと思う。

 こうやって突然、文章を書いてみたのも、その考え方から起こした行動だ。
 人生の中で一番新鮮な、活きの良い状態の感性で考えたことを、ネタにしておくためにな。

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