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外出自粛で男に会えなくなったので通販でランジェリーを買った話




セックスできない。

多くの独り暮らしの人間、特に特定のパートナーを持たずフラフラした人間関係ばかりを構築している人たちが今、軒並み悩んでいる課題であろう。
私もである。切実である。

在宅勤務で自宅にこもる毎日。当然夜の飲み会はない。zoomでどんなに飲んだくれたって生身の人間が隣にいなければ事故は起きない。居酒屋のトイレの前でキスすることもテーブルの下でこっそり足を絡めることもタクシーの中で運転手さんにバツの悪い顔をしながら「すいませんやっぱり2人ともここで降ります」と言うこともないのだ。

満たされない欲望は、消費という形で爆発中だ。家に引きこもるようになってから随分といろいろなものを通販で買った。腰に優しい椅子、canonのプリンター、小さいトースター、かさばらないハンガー、加湿器を洗浄するためのクエン酸、3種類のサイズの洗濯ネット、育ちすぎた観葉植物を植え替えるための大きな鉢。それこそ不要不急のものを買い散らかしている。でもそのひとつひとつは間違いなく私の生活を少しずつ豊かにしている。かさばらないハンガーのおかげでクローゼットの中のパンパンの服がストレスなく取り出せるようになったし、古い洗濯ネットのファスナーの黒いカビにイラッとすることもなくなった。快適だ。最近の私は買い物で自分を慰めているようなものである。

気がつけば通販サイトとtwitterを交互に徘徊しているような毎日の中でふと目に止まったのが、上品な黒い下着を付けてユーカリの葉っぱを背中に持った美しい女性の後ろ姿の写真。Tiger Lily Tokyoというランジェリーのセレクトショップのツイートである。オリジナル商品の紹介のようだ。

その黒いランジェリーはブラとショーツ2枚のセット。フルバックという普通のスタイルのショーツと、ソングと呼ばれるいわゆるTバック。ブラはノンワイヤーブラで、サイズはM/Lの2種類だった。「知的で可憐な女性をイメージ」と書き添えられたそのランジェリーは「Audrey オードリー」と名付けられていた。なるほど、確かにこの商品のイメージはグラマラスな女優やセクシーなモデルではない。きりっとした太眉に強い意志を秘めたような黒い瞳のオードリー・ヘップバーンだ。

実はこのTiger Lily Tokyoというショップを立ち上げた九冨さんという女性とは一度お会いしたことがある。渋谷で友人と飲んだ時に紹介され、初対面だったがワインを何本か開け、上機嫌におしゃべりしながらセンター街を歩いた。「私、Tiger Lily Tokyoっていう下着のショップをやってるんです。強い女の人をイメージしたお店で」と彼女は言った。タイガー・リリーはピーターパンに出てくるネイティブ・アメリカンの酋長の娘の名前だ。フック船長の脅しにも屈しない果敢な性格で「強い女」の代名詞。ブランドのコンセプトが一発で分かる良いネーミングだなと思った。

ひと目で気に入ったそのランジェリーの購入ボタンを押した。9,400円。安くはないがワコールやトリンプでブラとショーツ2枚買うのとそう変わらない価格だろう。

下着というものに、私はそこそこお金をかけてきたと思う。
きっかけは社会人になりたての頃。マルイに入っていたワコールで、初めてちゃんと試着をしてブラジャーを買ったときだ。
「ちょっとお胸失礼しまーす」と販売員のお姉さんが白い手袋をした手で私のささやか過ぎるバストを鷲掴みにし、寄せて、固定する。すると、今まで見たこともない谷間が出来ていた。ぱーんと丸く張った胸。谷間は作れる。その事実を知った私はワコールのブラジャーばかり買うようになった。それまでは上下セットで1,380円みたいな高校生が買うようなブラジャーしか付けたことがなかったのに。(全然関係ないけど映画「パラサイト」で妹ギジョンが車のシートの下に隠したパンティをキム社長に「安いパンツ」って言われたシーン、なんか切なかったな)

別の意味でもお金をかけてきた。アダルトショップで売っているようなセクシーな下着である。本来であれば一番守るべきであろう部分に何故か穴が空いているようなものも買った。下着なんてセックスが始まれば相手は3秒と見ちゃいない。洋服ごとスポーンと脱がされて全く認識してもらえないことすらある。それでもデートの前はクローゼットを長めながら「あれ、前に会ったときどれ付けてたっけ…前回と同じだと恥ずかしいな…」などとウダウダ考えるものである。

しかし、そういえば最近は新しい下着を買っていなかった。悔しいかな、お披露目の機会がとんと減ってしまったからというのは否めない。おそらく一軍と呼べる下着は今、クローゼットに2〜3組もないだろう。それらもちょっとタグが色褪せてきている。最後に買ったの、いつだっけ。

一方で、ここ最近の私が積極的に購入していたのは流行りのナイトブラだ。寝ているときに胸を優しくサポートすることで、将来の下垂や型崩れを防ぐことができるという。意外とこれ、程よい締め付けが心地良い。

そして寝る時に下に履いているのは「ふんどしパンツ」だ。ふんどし+パンティで「フンティ」と呼ばれることもある。ウエストや足の付根を締め付けないようゴムの入っていないゆるゆるの下着である。紐で結ぶタイプのものもあり、見た目は確かにふんどし。これを履いた姿は人様には見せられたものじゃない。しかしとても快適なのでもはや手放せなくなっている。

谷間を作るブラからナイトブラへ。大事なとこに穴が空いたパンティからふんどしへ。私のランジェリーを選ぶ基準が変わってきている。
そんな昨今、運命的に手にしたのが今回の「オードリー」である。

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ショップの名前が入った小さな白い段ボール箱は注文の2日後に届いた。
小さなお店だ、オーナーご自身がひとつひとつ梱包しているのかもしれない。商品は薄いピンク色の不織布に優しく包まれていた。取り出すと、柔らかく繊細な感触。通販で買った服を開封する時は胸が高鳴るが、下着となるとまた違ったときめきが沸き起こる。

試着はお風呂上がりにしよう。最初はきれいに洗った体につけたい。

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お風呂上がりはいつもボディクリームを塗りたくるところだが、余計な油分もつけたくなくて、タオルで拭いただけのさらっとした肌にショーツを履いた。まずはフルバックのほうから。想像通りだ、私の大きいお尻は黒いレースをぱしっと張らせてきれいに見せる。白い肌と黒いレースのコントラストが綺麗。ちょうど仙骨のあたりのくぼみの部分は逆三角形に空いていて、それも我ながらセクシーだと思う。

もう一つのTバックを手にとった。軽い。これは布というより紐。実は私、Tバックが苦手である。あの食い込む感じと、どう考えてもお尻丸出しであることが落ち着かない。繊細すぎて引きちぎれるんじゃないかというくらいの布をおそるおそる両手で広げ足を入れて履いた。うひゃひゃ!食い込む!やっぱお尻丸出し!紐!これは紐!!誰もみてないけれど、なんか恥ずかしい!「Tバックを履いている自分」に耐えられなくて5秒で脱いだ。うん、これはいつかまた挑戦しよう。

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そしてノンワイヤーのブラジャーである。普通のワイヤー入りのブラジャーと違って見た目も感触も「くたんっ」としている。カップも付いているが薄くて柔らかい。ストラップに腕を通し、背中のホックを留めた。すると、正面のバストが、ほどよく自然なバランスでふわっと寄せられた。周りの肉をかき集めてカップの中で無理やり押し上げて谷間を作るタイプではなく、優しく寄せるだけ。谷間というほどのものでもない、うっすらと影ができる程度のバストメイクである。つけ心地ももちろん良い。
多くの人が目指しているであろう丸いフォルムのいわゆる「マシュマロバスト」ではない。しかし、シャープな黒い布のラインと鎖骨で作られた逆三角形の胸元は私の気分を最高に上げた。カッコいい。このブラを付けている私、カッコいい。

よくよく考えれば、オードリー・ヘップバーンやタイガー・リリーの名前を冠するものを身につけるなんて大それたことだ。そんなに私は強くもないし立派でもない。でも、このブラジャーは私に力を与えてくれる気がした。強い私がこのブラを付けるんじゃない。強くありたいと願う私が、この下着を付けることで、この下着にふさわしい女性になろうという気持ちになれるのだ。

Tiger Lily Tokyoの九冨さんから、twitterのDMにメッセージが来ていた。
コロナで百貨店のショップが閉まり落ち込んでいたが、私の注文を見て嬉しくなり頑張ろうと思えたとのこと。よかった。これからも素敵な下着を生み出し続けて欲しい。

この騒動が落ち着いたら、このブラとショーツでお出かけしよう。
タイガー・リリーを気取って歩いて行こう。


まぁでもその前に…
うちでセックスしてぇなー…



Tiger Lily Tokyo 九冨りえさんのおしゃれなnote・サイト・Instagramです↓





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