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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2019年1月の記事一覧

東京落語の精髄を語る〜『名人』

◆小林信彦著『名人 志ん生、そして志ん朝』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2018年10月 古今亭志ん生、そして志ん朝。昭和を代表する噺家の「名人」親子です。本書は二人を愛する作家の小林信彦のエッセイを集めたもの。後半に夏目漱石の『吾輩は猫である』を落語的観点から読解する文章を収めているのも一興です。 小林自身は東京の下町に生まれ育ち、東京弁を話す家族に囲まれて過ごしたらしい。幼少時のそのような体験は落語愛の形成には決定的なものであったと思われます。志ん生に思いを馳せ、

美しい国をこれ以上壊さぬように〜『日本の美徳』

◆瀬戸内寂聴、ドナルド・キーン著『日本の美徳』 出版社:中央公論新社 発売時期:2018年7月 御年96歳。同い年の二人が大いに語り合います。『源氏物語』について。長寿の秘訣について。昭和の文豪たちについて。日本の美徳について。 『源氏物語』は二人にとって重要な古典文学。キーンはアーサー・ウエーリの英訳版『源氏物語』を読むことで日本への関心を高めました。物語のなかでは対立が暴力に及ぶことはなかったし、戦もなかった。主人公の光源氏は腕力が強いわけでもなければ、歴戦の戦士でも

映画や文学をとおして学ぶ法の原理〜『誰のために法は生まれた』

◆木庭顕著『誰のために法は生まれた』 出版社:朝日出版社 発売時期:2018年7月 法とはそもそも何でしょうか。何のために誰のために生まれたのでしょうか。本書ではその問題について根源的に考えます。ローマ法を専門に研究している木庭顕が桐蔭学園中学校・高校で行った特別授業を書籍化しました。 もっとも本書で検討される概念としての法は、専門家にとってはともかく、一般読者にとっては必ずしもなじみやすいものではありません。現実社会の法体系のようなものを意味するのではないらしいのです。

音楽史を彩るパガニーニの存在感〜『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト』

◆浦久俊彦著『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』 出版社:新潮社 発売時期:2018年7月 ニコロ・パガニーニ。18世紀の末から19世紀にかけて活躍したヴァイオリニストであり作曲家。超絶技巧でヨーロッパ中を狂乱させ「悪魔に魂を売り渡した」とまで言われた奇才。ステージでの特異なパフォーマンスもあってか、毀誉褒貶が激しく、真偽定かならぬ伝説にも事欠きません。研究者泣かせの人物ともいえそうです。本書は日本語で書かれた初めてといってもいいパガニーニの評伝です。 パガニ