吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。…

吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。趣味で撮っている写真も時々アップします。

マガジン

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)

    私が撮った写真あれこれ。なおマガジンのカバー画像は、2023年2~5月に大阪・国立国際美術館で開催された「特集展示:メル・ボックナー」の作品展示の一部を撮影したものです。

  • 本読みの記録(2021-2022)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2021-2022年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2020)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2020年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2023)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2023年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2024)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2024年刊行の書籍。

最近の記事

なでしこ2024

なでしこ2024

マガジン

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)
    6本
  • 本読みの記録(2021-2022)
    8本
  • 本読みの記録(2020)
    3本
  • 本読みの記録(2023)
    36本
  • 本読みの記録(2024)
    4本
  • そして映画はつづく
    77本

記事

    言葉を新しく獲得していく〜『言葉を失ったあとで』

    ◆信田さよ子、上間陽子著『言葉を失ったあとで』 出版社:筑摩書房 発売時期:2021年11月 臨床心理士として、アディクションやDVの問題と向き合ってきた信田さよ子。沖縄で若い女性の調査を続ける教育学者の上間陽子。現場と対峙する二人が語り合う。二人の対話に説得力を感じるのは、いずれも話が具体的で事実や実践の裏付けがあるからでしょう。 開巻早々に語られる信田のエピソードが象徴的。「中立的になろうとして聞いたとき、目の前に座っているひとの口調が明らかに変わった」というのです。

    言葉を新しく獲得していく〜『言葉を失ったあとで』

    ゴリラ研究者が語る人類の未来〜『スマホを捨てたい子どもたち』

    ◆山極寿一著『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』/ 出版社:ポプラ社 発売時期:2020年6月 スマートフォンなしの生活など今では考えられないものになりました。 しかし。「スマホを捨てたいと思う人は?」と問いかけたところ、多くの子どもたちが手を挙げたという挿話をもって本書の記述は始まります。 「生まれたときからインターネットがあり、スマホを身近に使って、ゲームや仲間との会話を楽しんでいるように見える若い世代も、スマホを持て余しつつあるのではないか

    ゴリラ研究者が語る人類の未来〜『スマホを捨てたい子どもたち』

    コロナ禍から見えてきたこと〜『家族と厄災』

    ◆信田さよ子著『家族と厄災』 出版社:生きのびるブックス 発売時期:2023年9月 家族とりわけ親子関係の特権化・聖域化の弊害をみてきた臨床心理士がコロナ禍で加速した女性たちの問題を可視化する。本書のコンセプトは明快です。 三密回避やフィジカル・ディスタンスの推奨で多くの人は外出自粛を余儀なくされました。その結果、どうなったか。当然ながら家事や育児などの負担が平時に比べ増加したのですが、家族で最も弱い立場に置かれた女性たちにケアの役割が集中したのです。その間、女性の自殺者

    コロナ禍から見えてきたこと〜『家族と厄災』

    昭和の文学史を飾る大論争!?〜『大江健三郎 江藤淳 全対話』

    ◆大江健三郎、江藤淳著『大江健三郎 江藤淳 全対話』 出版社:中央公論新社 発売時期:2024年2月 大江健三郎と江藤淳の登場は、戦後の文学史の上で “事件” と呼ぶにふさわしい。かつて磯田光一はそのように書きました。本書はその二人による対談集です。1960年から70年の間に行われた対談四篇を収めています。 二人の対話は時に険悪なまでに対立します。 安保闘争をめぐって行われた1960年の〈安保改定 われら若者は何をなすべきか〉では、政治的立場を異にする二人の対論は当然な

    昭和の文学史を飾る大論争!?〜『大江健三郎 江藤淳 全対話』

    男の論理を解体する〜『ケアの倫理』

    ◆岡野八代著『ケアの倫理 ──フェミニズムの政治思想』 出版社:岩波書店 発売時期:2024年1月 人間社会がもっぱら男性支配のもとで形成されてきたのと同じく、西洋哲学をはじめとする人文社会科学もまた男たちが作りあげてきたものです。そこでは長らく女性の声が反映されることはありませんでした。 女性が政治や思想の世界に参入してきたとき、浮上してきたのは「ケアの倫理」です。 「ケアは、家父長制的な社会において、女性らしい倫理として捉えられてしまうが、民主的な社会においては人間的

    男の論理を解体する〜『ケアの倫理』

    近代的人間像を超えた看護師〜『超人ナイチンゲール』

    ◆栗原康著『超人ナイチンゲール』 出版社:医学書院 発売時期:2023年11月 近代看護の母として知られ「クリミアの天使」とも呼ばれたナイチンゲールの評伝です。 ナイチンゲールは16歳の時に神の啓示を聴いたとされています。そこで栗原は神について神秘主義についていろいろと考察を加えているのですが、それはナイチンゲールの生き方に生涯影響を与えた思想だといいます。本書の文脈に即して簡潔にいえば、看護するのにわけなどいらない、はたらくがゆえにはたらく。ナイチンゲールはそのような人

    近代的人間像を超えた看護師〜『超人ナイチンゲール』

    自由と平等の葛藤を友愛が調停する!?〜『街場の米中論』

    ◆内田樹著『街場の米中論』 出版社:東洋経済新報社 発売時期:2023年12月 このところ内田樹が熱心に論じている米中関係に関する本。といっても大半は米国論です。本人もあとがきで釈明しているとおり既刊書で書いてきたことと重複する箇所が多く、内田の愛読者には「またやってるな」という感想以上のものはないかもしれません。 カール・マルクスとエイブラハム・リンカーンが同時代人であり、二人の間に交流があったことに言及している箇所などは興味深いものの、それも内田があちこちで書いてきた

    自由と平等の葛藤を友愛が調停する!?〜『街場の米中論』

    主体なき国家のなかで生きてゆく〜『新しい戦前』

    ◆内田樹、白井聡著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2023年8月 内田樹と白井聡の対談集としては『日本戦後史論』『属国民主主義論』につづく三冊目にあたります。対米従属の道を邁進する戦後日本の政治のあり方を憂慮するという問題意識は『日本戦後史論』から一貫しているものです。というわけで、二人の発言や著作に親しんできた読者にとっては、本書に展開される議論にさして新味は感じられないかもしれません。 話題は多岐にわたります。台湾有事と日米

    主体なき国家のなかで生きてゆく〜『新しい戦前』

    夏裘冬扇〜『歴史は予言する』

    ◆片山杜秀著『歴史は予言する』 出版社:新潮社 発売時期:2023年12月 週刊新潮に「夏裘冬扇」というタイトルで連載したコラムを収録した新書です。「夏裘冬扇」とは柿本人麻呂の歌から採ったもので、「仙人は夏にも冬にも獣の厚い皮のコートと扇子の両方を持っている」という意味らしい。浮世離れした仙人のように、斜め目線で妄言を述べるとの趣旨だそう。 今を思いながら遠い昔を描くという前口上にもあるように歴史的な視点を織り込みながら現在を語るのが本書の基本スタンス。「歴史は予言する」

    夏裘冬扇〜『歴史は予言する』

    クロモモ最後の句集〜『八月』

    ◆黒田杏子著『八月』 出版社:KADOKAWA 発売時期:2023年8月 博報堂を定年まで勤め上げた俳人の最後の句集。杏子が主宰していた結社「藍生」の有志によって死後刊行されたものです。交流のあった俳人や文学者にちなんだ句が随所に出てきます。師事していた山口青邨をはじめ金子兜太や瀬戸内寂聴といった人たちです。 瀬戸内寂聴が、黒田杏子の句から「私はいくつも短編小説になる核をもらった」と述べているように、互いに刺激しあいながらそれぞれの道を歩んでいたことがうかがえます。また永

    クロモモ最後の句集〜『八月』

    差別と戦った女性からの「平和の手紙」〜『ルビーの一歩』

    ◆ルビー・ブリッジズ著『ルビーの一歩 私たちすべての問題』(千葉茂樹訳) 出版社:あすなろ書房 発売時期:2024年1月 著者は1960年、白人専用の小学校に全米初の黒人生徒として入学した女性。大人たちが激しく抗議するなか、毎日四人の連邦保安官に守られて通学しました。勇気をもって人種差別撤廃への第一歩を踏み出し、その後、公民権活動家となって活躍しているルビー二冊目の本。巻頭で、この「平和の手紙」を米国下院議員で公民権運動の象徴的存在だったジョン・ルイスに捧げると言明していま

    差別と戦った女性からの「平和の手紙」〜『ルビーの一歩』

    在宅ひとり死は可能か!?〜『おひとりさまの逆襲』

    ◆上野千鶴子、小島美里著『おひとりさまの逆襲 「物わかりのよい老人」になんかならない』 出版社:ビジネス社 発売時期:2023年5月 社会学者と介護事業27年の現場のプロが熱く語り合う。二人の意見は時に対立もみられますが、大枠においては認識が一致していて、読み応えのある白熱のトークが展開されています。 上野千鶴子は2012年に『在宅ひとり死のススメ』で、おひとりさまでも最期まで在宅で過ごせるようになるためにはどうすればよいかを利用者の立場から論じました。それに対して「そん

    在宅ひとり死は可能か!?〜『おひとりさまの逆襲』