ウンコのおじさん_Fotor

今こそ「体験デザイナー」の出番なのだ!〜『ウンコのおじさん』

◆宮台真司、岡崎勝、尹雄大著『子育て指南書 ウンコのおじさん』
出版社:ジャパンマシニスト社
発売時期:2017年12月

子育て指南書と銘打たれてはいますが、書かれていることはもっと広くて深い。単なる子育てのノウハウ伝授にとどまらない、広義の世直しの書ともいえる内容です。

本書ではまず親たちにコントロールされた子どもたちの存在、いやそのような関係性に警鐘を鳴らします。コントロールされてきた娘が、母親となって、自分の娘をコントロールする。いわば「病理の伝承」が生じているのです。

コントロールする/されるという関係が全面化すると「相手の悦びが自分の喜びになるから、それが動機づけになって行動する」という構えが失われます。親の歪んだ〈妄想〉によって育てられた子どもたちが増えれば、大人になったとき、社会がデタラメになります。そうしたデタラメな社会は制度の手直しでは治すことができません。

では、本書にいう「ウンコのおじさん」とはいかなる存在なのでしょうか。
その正体はようやく半分くらい読んだところで輪郭をあらわします。子どもたちの通学路で地面にウンコの絵を書いているヘンなおじさん。……それらしく敷衍すれば「いろいろな方角から親子関係のノイズになる力を働かせる」存在のことです。
「そうした力が働かないと、たとえ親が子どもをコントロールしようと思っていなくても、〈妄想の玉突き〉が生まれ、子どもがコントロールされてしまうのです」。

損得よりも正しさ。カネよりも愛。

けれどもいまの社会は「正しさ」への動機づけが枯渇し、他者をコントロールしたり支配したりするための損得、そのような計算のもとに知識が使われます。正しさへの動機づけは知識の伝達では調達できません。「体験による学び」で成長するほかないというのが本書の考えです。それは今や人為的に設計するほかありません。かくしてウンコのおじさんこと「体験デザイナー」の出番となるのです。

自分が子どものころに体験したワンダーランドを再現する。たとえば一緒に昆虫たちを観察する。セミの羽化を観察するだけでも、生命への畏怖を感じることができるでしょう。理科系の好奇心と文科系の探究心を刺激する。「数日後には、すてきな絵画や、絵入りの観察記録や、作文ができ上がっています」。

コストパフォーマンスだのリスクマネジメントだの損得勘定を持ち込むのは教育の劣化をもたらすだけ。繰り返せば、子育て指南書の体裁をとりながら同時に射程の広い社会批評にもなっているのが本書の醍醐味です。勉強田吾作(ガリ勉)の官僚を批判し、デタラメな社会を糾弾する。体験せよ。自分が体験デザイナーになれないのなら、他を探して委ねよ。本書の提言は明快そのものです。

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