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生きるとは短歌をつくること〜『キリンの子 鳥居歌集』

◆鳥居著『キリンの子 鳥居歌集』
出版社:KADOKAWA
発売時期:2016年2月

Amazonの「短歌」カテゴリーで現在ベストセラー1位となっている歌集です。義務教育すら満足に受けることができなかったという経歴から、大人になった今でもセーラー服を着ているといったことが前面に出されて、いささかセンセーショナルな売り方をされている感なきにしもあらずですが、歌の内容は壮絶というほかありません。ここに収められた短歌を読むと、言葉にすがるようにして何とか生きている人もいるのだ、ということを思い知ります。

著者の鳥居は、小学校5年生のとき、目の前で母親に自殺され、その後は養護施設での虐待、ホームレス生活などを体験。文字を覚えるのも短歌に関してもほぼ独学で学んだとプロフィール欄にはあります。自殺をはかったこともあるようで、そのことをうたった短歌もいくつか収められています。

別のライターが書いた半生記と同時発売されたようですが、あえてそちらの方は読んでいません。みずからの手で五句三一音に刻みつけた言葉の力を感受すればそれで充分ではないかと私は思ったのです。

亡母との思い出にふれた歌は、美しく切なく哀しい。祖母との思い出もまた。「短歌に出会って人生に居場所を見いだせた」というキャッチコピーもまんざら誇張ではないでしょう。

目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ
雑草の葉の部分だけむしりつつ祖母の畑に見上げるトマト
母の死で薬を知ったしかし今生き抜くために同じ薬のむ
デモ隊にまぎれて進む女生徒がうすく引きゆく林檎の香り
あたらしいノートの初めの一頁まだぎこちない文字を並べる

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