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英国にみる「政府の失敗」とその改革〜『議院内閣制』

◆高安健将著『議院内閣制──変貌する英国モデル』
出版社:中央公論新社
発売時期:2018年1月

日本の統治機構が英国の議院内閣制をモデルとしてきたことはよく知られています。また1990年代に行なわれた政治改革ももっぱら英国に範を求めたものでした。そればかりか英国の議院内閣制は日本だけでなく各国から理想的な政治モデルと見られてきました。

では、実際に英国の議院内閣制は日本が見習うべき模範的なものとして機能してきたのでしょうか。当然といえば当然ですが、万能的な政治システムなどこの世には存在しません。制度が宿命的に孕みもつ欠陥がありました。簡潔にいえば「英国の議院内閣制のもとでは、総選挙での敗北や議会による不信任決議が、政権の全面否定を意味し、きわめて強力なコントロールとなる一方で、個々の政策判断についてのコントロールの術は不足していた」といいます。

そうした制度のもとで政治が一定の成果を得るためにはそれなりの条件があったということです。二大政党制が機能して政党間競争が行われ、それを受けた政治エリートたちが自己抑制することによって初めて政策のパフォーマンスも向上するというわけです。

逆にいえば、二大政党制が空洞化し政治エリートへの信頼が低下した場合には、強すぎる政府をコントロールすることが喫緊の課題となります。実際、英国ではそうした国民の不満を背景にして、近年、国家構造改革を推進し、議院内閣制を変貌させる道を選びました。

その改革の具体的な中身として、特別委員会などの議会改革、スコットランドやウェールズへの権限委譲改革、法典化改革、司法改革などが挙げられています。

一連の国家構造改革は、英国の議院内閣制が拠って立ってきた、政治エリートに対する信頼を基礎とした多数代表的で集権的なシステムとは異なる論理を内包している。それは、政治不信を前提に、一般の法律とは異なる上位の法をもち、権力を分散させ、透明性と手続きの明確化を志向する改革となっている。(p249)

本書ではそのような改革を(多数支配的デモクラシーと対比させて)マディソン主義的デモクラシーと表現して一定の評価を与えています。

日本では、90年代の政治改革においては集権化を伴ういくつもの改革が行なわれました。そうした「政治改革」の結果、政権交代も一時的に実現しましたが、民主党政権が倒れた後は、やはり内閣や政権与党の強権化が過大になり批判を浴びるようになってきました。その意味では英国と共通する問題を抱えるようになったのです。

日本の統治機構は、もちろん英国の議院内閣制とは異なります。大きな違いは同じように二院制を採ってはいても、日本の場合は内閣を作りだす機能を直接に有しない参議院もまた選挙によって議員を選出している点です。さらには日本国憲法に基づく立憲主義、司法、地方分権なども想起されましょう。英国とは違い「日本は、制度的に権力分立制をもともと憲法に組み込んでいた」といえます。むろん、それを活かすも殺すも「適切な政党間競争」や「政権交代の可能性」次第といえるのですが。

いずれにせよ、英国がすすめてきた一連の国家構造改革をコピーせよというわけではないし、すべきでもありません。
「モデル探しをするのでも、真似るのでもなく、自省の材料を求めること」と著者は冒頭に述べています。まさにそのような作業に向けたものとして本書の考察は意義深いものといえるでしょう。 


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