となりのイスラム

神とともにあることによって自由を得る〜『となりのイスラム』

◆内藤正典著『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』
出版社:ミシマ社
発売時期:2016年7月

日本では、イスラムに関する情報はキリスト教社会のそれと比べると格段に少ないように思います。もちろんイスラム教徒の人口が少ないことも反映しているのでしょうが、それだけに彼らに対する印象はステレオタイプにおさまる傾向がないとはいえません。
また、最近はイスラムが暴力やテロリズムとの関連で論じられることが多くなり、ややもするとイスラムに対するネガティブなイメージが流布しがちです。

本書は、イスラム世界と西欧世界とが水と油であることを前提として、そのうえでいかに共生していくかを考えていきます。もちろんその前段階としてイスラムに関する基礎的な情報が具体的に解説されています。

近代以降の西洋社会が、神から離れ、人間が独自に合理的に思考することで自由を得ていくと考えたこととはまったく反対に、イスラムは「神とともにあることによって自由を得る」と考えます。

そのような信仰スタイルは、特定の宗教を信仰しているわけではない私には今ひとつピンとこないものですが、いったん私たち日本人の考え方を脇において、彼らのことを少しでも知ろうとすることは意義深いことに違いありません。やがて世界は三人に一人がイスラム教徒という時代が到来するといわれているのですから。

私がとくに興味深く感じたのは、イスラムの「商人のための宗教」としての側面を力説するくだりです。

 商売は良いときもあれば悪いときもある。ここが大事なところですが、うまくいって儲けたからといって自分の才覚で儲かったと思うな、というわけです。(p66)

儲けてもいいけど貧しい人のことを忘れんなよとクギを刺すイスラム的な謙虚な考え方は、著者も言うように、世界中を覆うようになった新自由主義にもとづく自己責任を重んじる生き方を相対化するうえでとても示唆に富んでいるのではないかと思います。 

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