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数学なんて「言うてそんなもん」

やあ、我が可愛い甥っ子よ。
俺だ。悪いおじさんだ。
乳幼児の面倒なんぞ見たことが無かったので知らんかったが
八ヶ月不安ってのがあるそうじゃないか。分かる、分かるぞ。
おじさんも将来の先行きに不安しか感じない。
不安である事は生きている証左だ。多いに慄くがいい。

そうそう。ついこの間、思い出した事があってな。
甥っ子ちゃんは賢いので同じ轍を踏む事は無いとは思うが、
他山の石として聞いておいて欲しい。

おじさんは文系だ。
しかし文系と言うよりも理系、主に数学に
おいてけぼりを食らったと言うだけの話だ。

おじさんが小学生の頃、算数はまだついていけていた。
分数あたりから若干遅れ初めていたが、
それでも恥をかかなくて済む程度の物だった。
決定的になったのは、中学生に上がってすぐ、
数学の授業が始まったド頭。
方程式が出てきた時だった。

算数というのは、分かりやすく教わる。
たかし君のお兄さんが時速10キロで家を出て、
たかしくんが1時間後にお兄さんを時速20キロで追った場合
お兄さんが家を出てから何時間後に追いつくでしょう?
そんな感じで答えを求めさせる。
しかし中学からの数学は、そんな問題ではない。
xがどうだのyがどうだのと言う式がバンと出る。
そしてこう言う訳だ。この方程式を解きなさい、と。

算数の問題に慣れていると、数学の訳の分からなさに戸惑う。
頭で式のイメージが出来ないのだ。
りんごとみかんを買いに行ったり、
時間差で誰かを追いかけたり、
ケーキを等分するたかしくんは中学数学にはいないのだ。
マイナスにマイナスをかけたらプラスになる理由も
当然の権利ですとばかりに放置され、教わらない。
よくわからない式をよくわからないまま解く。
そのわけのわからなさに、おじさんはくじけた。

甥っ子ちゃんは賢い子だろうから、そうならないかも知れない。
だが、もしかしたら躓いているかも知れない。
だから、この年になって分かった事を、君に伝えよう。
答えはたった一つのシンプルな物だ。
「言うて数学はそんなもん」だ。

ぷよぷよと言うゲームを知っているかね。
画面上部からぷよと呼ばれる不定形の化け物がペアで降ってくる。
それを画面下部に積み重ね、4つ集まると消える性質を利用し、
連鎖を組み上げ、敵に消えにくいおじゃまぷよを送り込む。
画面上部までぷよが積み重なったら負け。そういうテレビゲームだ。

では、ぷよはなぜ4つ集めたら消えるのか?
それは「オワニモ」と言う魔術によって消滅するからだ。
この「オワニモ」と言う魔術は、同種・同色の魔物を四体集めると
時空の彼方に消し去ると言う魔術だ。
しかし、そんな同種同色の魔物がホイホイと現れる訳がない。
そのホイホイと現れるわけがない前提を覆したのが「ぷよぷよ地獄」だ。
ぷよぷよ地獄の条件下において、同種・同色の魔物が集まるのは
高い確率で起こり得る。
よって、「オワニモ」を使ってぷよを消し、連鎖を起こして敵を倒す。
これが「ぷよが4つ揃うと消える」理由だ。

同じく、パズルゲームにテトリスと言う物がある。
これは上部から4つで1ピースとなるブロックが落ちてくる。
プレイヤーはこのブロック、「テトリミノ」を回転して下部に落とす。
そしてテトリミノが集まり、横に一列埋まると消える。
対戦型のテトリスでは敵に消えにくい列を送り込む。
これがテトリスのルールだ。

では、なぜテトリミノが一列揃うと消えるのか?
それは「横一列揃うと消える」ルールだからだ。
素早く綺麗に積んで、横一列揃ったら消える。
いっぱい綺麗に積んで、来たミノで一気に並べたら消える。
消えたら気持ちええやろ? そんな所だ。
別に消える理由や、消さなければならない理由を教えてくれる訳じゃない。
ルールが提示され、こちらはルールに従う。
ただただ、それだけの事だ。

話を算数と数学に戻そう。
式を活用するための具体例を用意する算数。
具体例も無しに式を解かせる数学。
これはつまり、ぷよぷよとテトリスに似ている。
ぷよが消える理由を用意しているぷよぷよ。
テトリミノが消える理由を用意していないテトリス。
だがどちらもパズルゲームとして最高に面白い。本質は変わらない。

数学と算数の温度差はあれど、やっている事は変わらない。
公式に基づいて式を展開し、答えを求める。
ルールに従ってクリアを目指す。解けたら気持ちええやろ?
数学はそういう物だ。本質は変わらないのだ。
おじさんがようやくそこに気がついた時には、
取り返しがつかないくらい年を取っていた。

我が愛する甥っ子ちゃんよ。
こういう事は今後もたくさんあるだろう。
理解度のためについていた補助輪を外された時の
突き放された感覚に戸惑う事もあるだろう。
そう言う時こそしっかり見る事だ。
本質が何かを理解するために、確認するんだ。
それが出来れば、おじさんくらいの年に分かるだろう。

世の中は大体「言うてそんなもん」だとね。

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