見出し画像

『Cheap Coffee』著者Karlさんと話した、小規模コーヒー生産者の未来のこと

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERS代表の松村です。

先週、コーヒースタンド[cube]を臨時休業しまして、都内にて『Cheap Coffee』著者のKarl Wienholdさんにお会いしてきました。

東京 日本橋 GOOD COFFEE FARMS cafe&barにて

彼が書いた『Cheap Coffee』は現在英語版をはじめドイツ語版、韓国語版が出版されており、今回は日本語版の出版に向けた打ち合わせで日本へ訪れたのこと。

ある日、日本に滞在するからぜひ会おうというメッセージが届き、忙しいだろうにも関わらず予定を合わせてくれ、奇跡的に直接会うことが叶いました。

急なお休みでご不便をおかけしてしまいましたが、今後の僕のコーヒーの人生にとって大きな糧となるような、とても貴重な時間を過ごすことができました。

初めて会った瞬間から感じた、本に綴られた文章からイメージした人柄がそのままで現れているような、とても優しい方でした。

彼はコーヒーの経済システムの問題や小規模農家の負担、本で読んだ事実など、まだ日本ではよく知られていないさまざまな情報や知識を僕に共有してくれたので、今回その内容の一部をまとめつつ、短い時間の中2人で話した”コーヒー産業の未来のこと”についてまとめたいと思います。


1)『Cheap Coffee』著者Karl Wienhold氏

Karlさんはこれまで国際資本経済専門の経営コンサルタントとして従事し、国際貿易と競争戦略の分野に注力したのち、2013年コロンビアにてコーヒー農業組合 『cedro alto』 を設立。

植民地時代から続く、いわゆる”搾取的”な国際経済の取引の構造について深く理解し、現在もコロンビアで小規模コーヒー農家が国際市場の取引に積極的に参加できる仕組みが整うよう活動しています。

cheap coffeeには、コーヒー産業が世界的に発展し続ける、その背景に潜む生産者間の資本的な格差、利益を上げ続ける企業がいる一方で、貧困のサイクルから抜け出せない小規模農園など、コーヒー業界が抱えているあらゆる問題についてまとめられています。

普段僕がnoteの方で書いている記事のいくつかには、彼から共有された情報や本に書かれている内容を参考にして発信しております。今回直接話した際も、文面で読み取る以上のものを伺うことができました。

2)”安いコーヒー”の何が悪い?

ーーー誰だってお得なことは好きだ。 限りある資源を運用する誰もが、その資源を可能な限り拡充しようとする動機を持っている。
できることなら、生活をするために必要なものを買い、次に自分が欲しいものを買う。 必要なものに使うお金を減らせば、好きなものに使えるお金が増える。 コーヒーが好きな人もいれば、必要な人もいる。
しかし、安くて本当に良いものはどうだろうか?

(中略)

ーーー2018年の実話だが、とある仲介業者がコロンビアのウィラの小規模コーヒー農家から87点の生豆を1ポンドあたり1.60ドルで取引していた。(87点のカップスコアではかなり安い金額)
しかし、他のウィラの生産者が同等のスコア、カップクオリティ、生産リスクのコーヒーに2.5ドル以上を請求し、取引を行なっていた。
なぜそのようなケースが起きてしまったのかというと、市場にアクセスできない生産者が不利な立場にいることを利用され”悪い取引”をし、市場の様子を把握している他の生産者が適切な交渉を踏まえた上で”良い取引”をする余裕があったからである。
安いコーヒーが好きで、それがまずくても、あるいは半分焦げた米やひよこ豆であっても気にしないのであれば、そうすればいい。
しかし、もしコーヒーが美味しくて安いのであれば、それはおそらく生産者が騙されたからだろう。
他人の不幸から自分が利益を得たり、自分の不幸から他人が利益を得たりしないようにするにはどうすればいいのか? それが本書のテーマである。

Cheap Coffee/P4 CONTEXTより一部抜粋、翻訳

本の冒頭に書かれていた、コーヒー取引の格差的な背景。僕の中では特にこの文節の印象が強く残っていました。

日本では特に安くて高品質なものが「良いもの」として流通されていますが、コーヒーをはじめチョコレート、衣服などは全て生産各国の「人の手」によって作られています。

このようなコモディティ商品は消費者の手に渡るまでに多くの人、業者が関わっています。実際、我々消費者はそのプロセスを隅々まで追跡(トレース)できないのが現状となっております。

そのような状況を打破するために「スペシャルティコーヒー」の文化が広まりましたが、何年も前から続いてきた歴史的な背景と、現代の国際経済の取引システムを前では、小規模生産者の抱える負のサイクルが未だに続いてしまっているのが現状です。

・・・

僕自身noteを始めた時、日本にはこういう「生産取引の背景」について発信されている情報があまりにも少なすぎることを感じ、情報を集め記事にして共有してくうちに、日本のコーヒー市場に対する危機感を抱くようになってきました。

もしかしたら知らないうちに、売り手も買い手も、サプライチェーンを通じて誰かの不正に手を貸しているのかもしれません。

もっと悪いことは、”背景を知らないまま、その商品を楽しみに売買している”事態が今市場で起きてしまっていることなのです。

Karlさんは本に、このように続きを書いています。

あなたが罪悪感を感じたり、過去に良かれと思ってやったことや考えたことの悪影響を示したりするかもしれない。 ここに含まれるトピックを調べている間、確かに私は何度かそう感じた。 しかし、これまでの無知を悔やむのは時間とエネルギーの無駄である。
もしそうなったら、唯一の解決策は、学び、成長し、改善し、修正することである。

Cheap Coffee/P5 CONTEXTより一部抜粋、翻訳

3)Karlさんと話した未来のこと

noteで記事にまとめ、こつこつと情報を発信していても、いちロースターの発信力は日本のコーヒーマーケットの特色から見ると糠に釘を打つようなものでした。

この活動への応援、嬉しい声が届く一方、日本のコーヒーシーンの発展に水を差す様な見られ方をされると本末転倒だよな…というイメージが頭の片隅に佇み、もう少し自分の発信に自信があればという思いがありました。

その中で、この日彼はこう言葉をかけてくれました。

”世界で流通するコーヒーの70%は、5haに満たない小規模農園が生産している。生産各国でも、小さな力が、自分達の生活を安定させるため、そしてこの産業をより良くするために、一生懸命声をあげているんだ。他の国でも同じさ。この小さな活動がやがて未来を変える力になって、産業はより良い方向へ向かっていくはずだよ。”

彼がコーヒー市場における資本経済の構造に疑問を持ち、経済について独学で学び、コーヒー業界にとって財産となる本を出版したように。

日本のいちコーヒーロースターとして起こすべきアクションを起こし、日本のマーケットに呼びかけなくてはならないのだと、強く思いました。

・・・

コーヒーギアの開発や精製プロセスのアップデートばかりに投資が集中する一方、限られた設備でコーヒーを生産し続け、得た利益のほとんどを融資の返済に充てながら生計を立てている小資本のコーヒー農家にはなぜ資金が充分に向けられていないのだろうか?

資本経済に隠れたコーヒー市場の抱える問題。他の国と比べ、日本にその情報が極端に届いていないのはなぜか?

革新的な技術や希少性が求められる市場の構造を作り上げているのは誰か?

成田へ帰るまでの間、今後僕自身が日本のコーヒー市場に「投げかけなくてはならない事」ばかりが頭の中で溢れていました。

日本語訳の書籍は GIESEN JAPAN から、来年3月出版予定だそうです。

もちろん、ROUTEMAP COFFEEでも取り扱う予定です。

ROUTEMAP COFFEE ROASTERS
松村 恵佑

.
.
.

小規模スペシャルティコーヒーショップ【ROUTEMAP COFFEE ROASTERS】
地元千葉県での焙煎所の開業を目指しながら、
千葉市稲毛区にてコーヒースタンド[cube]からみなさまへ
美味しいコーヒーをお届けしています。

コーヒー豆のオンラインストアはこちら💁‍♂️
コーヒー豆の卸販売、事業サポートも承っております💁‍♀️
その他各SNSアカウントにて店舗情報の発信をしております。
ぜひフォローの方よろしくお願いします💁‍♂️💁‍♀️
《Instagram》
《Facebook》
《Twitter》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?