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京都エッセイ 閑話休題 バスには車酔いがつきまとう

 これは京都だけの話ではなく、昔からバスに乗るのが嫌いだった。バス、だけではなく、家の車、電車、新幹線、乗り物全般が苦手だが、その中でもっとも苦手なのがバスである。

 理由は簡単、ほぼ100%酔うからだ。

 家の車が90%(回避&対策方法あり)電車が50%、新幹線が30%と、常に酔う可能性と隣り合わせで生きている。

 理由は簡単、三半規管が人より弱いそうだ。

 いつくるか分からない上下左右の揺れに振り回されると鼻の奥、鼻を指で押し込んでも届かないところにガソリンやオイルのような、ともかく人間が出せる液体ではないものが溜まって、頭全体が重くなる。それが、揺れによって鼻内部のいろんなところに当たる。人間が出せる液体ではないものが触れていない部分など鼻の中にはないのではないかという気分になったが、最後、車酔いの完成だ。

 吐けないのがつらい。バスの中で人の目があるというのもあるが、そもそも吐くレベルまで気持ち悪くはならないのだ。いっそ吐いてしまえば楽なのにと思う。

 京都は公共機関でバスしか通ってないような場所があるため、避けられないことが少なからずあって、本当に辛かった。

 免許をとったことで車の話をすることが増えた。その際にこの話をするのだが、誰にも受け入れてもらえない。職場の人間はよく、自分が運転したら酔わないよなどというが、残念ながら酔う。パーセントこそ、3分の1程度に減少するが、天気が乱れたり、体調が悪いときはこちらもほとんど100%酔う。

 思えば車酔いが激しいというだけでたくさん苦しい思いをしてきた。

 引越しのバイトではトラックの真ん中の席に座らされ、窓は遠いし、そもそも開けてくれないし、両隣がタバコを吸うしで最悪だった。

 今なら両手をWの形にして顔をパンチしても許されるのではないかと思ったが、移動中のたあいない話や、交差点で人に道をゆずるやさしさや、お昼休憩のときに見せてくれた笑顔の妻子を見て、殺すのは保留にしておいてやった。

 が、お昼ご飯が必ずといっていいほど焼肉で、タバコは平然と吸うし、真ん中の席でめっちゃ揺らされるしで、一ヶ月とたたずに引越しのバイトはやめてしまった。その負の歴史が、就職活動に影を落としたのは言うまでもない。

 修学旅行は最前列で先生の隣、運転手さんの近くに座らされ、みんな友達とわいわいしては怒られるというイベントを何度も楽しんでいたのに、自分は先生と距離が近いことで怒号を間近で聞くハメになるし、そのたびに運転手さんから生徒代表だろ、なんとかしろと言わんばかりに睨まれる。ほとんど喋っていないし、クラスの代表でもないのに。

 田舎に住んでいたのもあって、毎日のお出かけも大変だった。スーパーまで二十分、本屋まで五十分、映画館に行くなら三時間耐えなくてはならない。

 父親の趣味でバンドマンのライブ鑑賞に連れて行かされるときも三時間かけて都会まで行った。高速道路は風で揺れるし、トンネルに入るときの段差で跳ねるし、舗装がバキバキのところと新しいところの差が激しくて揺れる。滑り防止でラインが引いてあるところなんかは足元がずっとブルブル揺れてて、それは本当に吐きそうになる。

 くわえて父の好きなパンクバンドやメタルミュージックのドラムとベースの振動。

 少しでも不機嫌そうになると十倍は不機嫌になる父親のために、酔いに耐えながら好きでもない曲をノリノリで好きだと言うフリをしたり、吐きたいのに吐けないのを我慢して口ずさんだりするのはもっと苦痛だった。

 病は気から、とはよくいったもので何回かパーキングエリアで吐いたことがある。さすがに息子の体調が悪いときの父親は不機嫌にこそならないものの、喋らない息子の代わりに音楽のボリュームを上げることで社内の空白を埋めようとするので、さらに吐きそうになる。

 車内で吐いたら殺される、その気持ちだけでなんとか三時間を乗り切った。常に残りの時間を気にしながらのドライブは永遠にも感じられた。

 地元を離れて京都に来ると、移動のほとんどが電車か自転車になったおかげで数年は平気だった。たまにバスに乗ることがあっても、京都駅までで一時間弱、友人と話したり、自分の好きな音楽を聴いたり、映像を見ていれば、たとえ酔ってもなんとかなるから平気だ。友人とのお出かけなら話していたら気が紛れる。天気が悪い日は自転車で行けばいいのだ。

 しかし悲劇が訪れる。自転車は壊れる。修理業者から貸してもらった自転車の鍵を紛失し、足を奪われてしまった私は、仕事や遊びに行くときにはバスを使うことが増えた。

 体調が悪い日のバスは最悪だ。唯一の回避方法が、座席が進行方向ではなく、窓の方向に向いている優先座席に座ることだ。ここに座ると、酔いづらく、酔っても軽度ですむ。

 しかし問題は人の目だ。優先座席に若者が座っている、それは席がたとえ空いていたとしても、埋まっていたとしても地獄である。

 なんで空いているのに別の席に座らないんだろう。

 なんでこんなに満員なのに老人や女性に譲ってあげないのだろう。

 そんな視線が酔いと合わさって身体に刺さる刺さる。

 たしかに私は男だ。若者だ。
 先日職場で受けさせられた身体測定で、医者に痩せろと言われた。身長も高い。大柄な男だ。だが、大柄な男だって、体調不良のときだってある。バスに乗るときにいたってはそのせいで体調不良になる。
 
 そんな目を向けるなら、変わりなさいって悪態をつくなら立ってやるよ。あなたの大事なバッグにリバースして、微笑んでやる。だからいったじゃないかって。

 想像力を持ちましょうねって。

 さて、台風のシーズンが迫っている。ほぼ毎日天気は荒れるのは確実。自転車は壊れたまま。

 なにが言いたいかは聡明な読者ならもうわかるだろう。

 車よいがひどい人間VS

 市バスWITH悪い天気&悪天候によって増大した客(友情出演)

 との戦いが始まろうとしているのだ。

 想像するだけで、鼻の奥のガソリンの湖が揺れた気がした。

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