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患者さんを捉える  -ACL再建術後の動作時膝痛-

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
20代男性。7ヶ月前に右ACL再建術(半腱様筋腱と薄筋腱を使用)を施行する。
その後、1ヶ月間は松葉杖による部分荷重であった。
その間、理学療法で大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋を強化していた。

1ヶ月が過ぎ、全荷重可能になって職場復帰した。

復帰後は、下肢筋強化として、スクワット、二―ベントウォークを行っていた。

二―ベントウォーク


それから4ヶ月ほどして右膝に痛みが出現してきた。

部位は右膝前面の膝蓋腱奥で、膝蓋腱を挟んで内外側に起こる。
痛みはズキンとした痛みである。

痛部位部位


痛みはある動作で出現する。

痛みが出現する動作は、しゃがみ込み、階段昇降、右下肢を軸にした方向転換である。
いずれの動作も同じ部位、同じ質の痛みが出現する。

しゃがみ込み

写真の肢位で痛みが出現する

右下肢を軸にした方向転換

動きの途中まで右の足関節と下腿を動かさず身体を右回転させていた。
方向転換途中に痛みで膝折れが起こることがある。

右下肢軸の方向転換


座位では下腿を外旋肢位にする。
これが本人には楽な肢位である。
この肢位は術後からである。

       左
座位における右下腿の外旋肢位


評価では、右脛骨が左に比べて前方に偏位していた。


※ 以下のQ&Aを見る前に、興味があり、お時間が許せば、上記の情報からご自身なりの明確化した答えとアプローチ(EXは1つ)を導き出してみてください?







Q) どのように考えるか?

A) ある特定の動作で生じる痛みから、この時に何らかのメカニカルストレスが生じている。
メカニカルストレスを取ってあげれば痛みは消失する。

各動作で起こる痛みは、同じ箇所、同じ質である。(痛みの大きさはストレスの度合いで変わる。)
よって、ストレスの要因を見極めるには、これら動作の共通点を見出す。

また、痛みを生じさせている組織をある程度知ることは、原因を確定する根拠になる。

Q) 痛みを生じさせている組織は何か?

A) 部位から膝蓋下脂肪体、半月板、ACLなどが考えられる。

部位は右膝前面の膝蓋腱奥で、膝蓋腱を挟んで内外側に起こる。
痛みはズキンとした痛みである。


林 典雄 他著:運動器疾患の機能解剖に基づく評価と解釈 下肢編より引用

Q) どの組織か?

A) この段階ではわからない。
ただ、これら組織の特性を念頭に動作の共通点を見ていく。

Q) どんな共通点があるか?

A) しゃがみ込みと階段昇降に共通すのは、大腿四頭筋の活動が大きいことである。

症例は退院後、スクワット、二―ベントウォークと、大腿四頭筋を強化する運動を中心に行なっていた。
その活動により脛骨が大腿四頭筋に引っ張られ、前方に偏位したことが考えられる。


評価では、右脛骨が左に比べて前方に変位していた。

Q) ここから痛み組織が特定できるか?

A) 大腿四頭筋の過活動により脛骨は前方移動を強いる。
この時、ACLには伸張ストレスがかかる。

林 典雄 他著:運動器疾患の機能解剖に基づく評価と解釈 下肢編より引用

Q) 膝蓋下脂肪体は?

A) 膝蓋下脂肪体は膝蓋腱と半月板をつなぎ、半月板を前方に引っ張る。
脛骨が前方移動すると半月板も前方移動するため、膝腱腱と半月板の距離は縮まり膝蓋下脂肪体は緩む可能性が高い。

Q) 痛みを発する他の動作もACLへのストレスが原因と言えるか?

A) 方向転換であるが、動きの途中まで足関節と下腿を動かさず身体を右回転させていた。

右下肢軸の方向転換

この時、下腿が動かず大腿が外旋に動くので相対的に膝関節は内旋に動く。

膝関節内旋でACLは伸張・捻転のストレスがかかる。

内旋                        外旋
I.A.Kapandji 著:カパンディ関節の生理学 Ⅱ下肢 より引用  

これは、術後の座位で右下腿を外旋させると楽であることが、ACLへのストレスを減らすためであると説明できる。

       左

Q) アプローチは?

A) ACLへのストレスは脛骨の前方偏位なので、脛骨を後方に移動させてACLを緩ませる。

Q) 方法は?

A) 右ハムストリングスの緊張を高める。

座位で踵を床に押しつけ、膝関節屈曲筋の等尺性収縮を実施


Q) 結果は?

A) アプローチ前に比べてスムースにしゃがみ込めるようになった。


結果が出たのでEXとして継続することにした。

1ヶ月後、動作時痛は消失した。

今回の症例の訴で、痛みは方向転換で最も症状が強いことから、ACLは下腿内旋により多くのストレスを受ける。

多くのACL損傷も、その定である。

逆に、下腿内旋抑制組織が脆弱であることがわかる。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。


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