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QuestReading[1] ワーグナーのすべて

編集工学研究所のワークショップで出会った本のQuestReading

書名:ワーグナーのすべて
著者:堀内修
出版社:平凡社新書
出版年:2013年

 ワーグナーという人物について、名前は聞いたことがあったがどんな人物かを知る機会はなかった。
 『ワーグナーのすべて』というタイトルや目次から、ワーグナーがどんな人物だったか、伝記を軸とした内容をイメージしたが、実際に論じているのはワーグナーの人物像ではなく、「ワーグナーの作品・上演」についてだった。
 しかしながら、この<人物像ではなく「作品・上演」ついて語られる>というのが、『ワーグナーのすべて』を表す大きな特徴ともいえる。

 ワーグナーは、数多くのオペラ作品を世に輩出している。そして、その作品は個性的であり、様々な仕掛けに満ちている。中には、観客の拍手を禁止しているものもある。
 そんなワーグナーの作品は、上演されるたびに形を変えていく。正しくは、形を変えることができるので、観客は、指揮者、歌い手、演出家を注目し、その違う色合いを楽しむことができる。

 つまりこの本は、「ワーグナー」を何か古典的で安定的なオペラの基礎を作った人物と賞讃するための本ではなく、彼が作った没後140年を経ても常に新鮮さが生まれる仕掛け、そのすべてを知って欲しいための本になっている。

 この話を聞いて連想したのが、落語の『中村仲蔵』。
 毎年、赤坂ACTシアターで立川志の輔さんが『仮名手本忠臣蔵』の解説とあわせて演じており、この春に見てきたばかりだ。
 『中村仲蔵』という落語は、庶民に人気のあった忠臣蔵を歌舞伎の演目として上演される際、叩き上げの名優「中村仲蔵」が定九郎という端役に押しやられてしまう話。中村仲蔵は、そんな局面で、悩みに悩み、それまでの演者が演じてきた定九郎とは、まったく違う演じ方をする。
 その初日をみた観客は、見たことのない演出と中村仲蔵の迫真さに声を失い、ただただ感激をする。それから世間の評判を呼び、二日目からは満員御礼。そして、その端役は役者にとって人気役へとも変わっていくという話。

 落語やオペラは、博物館に飾られているのではなく、上演されたものが作品となり、ひとつとして同じものはない。そして、その同じものではないことを仕掛けた第一人者が、どうやら「ワーグナー」なのではと思う。形が変わることで、その価値がより大きくなるのだと思う。

 この本を読んだらオペラを見たいと思うのではと読み始めたが、「ニーベルング」など見慣れないカタカナ言葉ばかりがあふれ、当面、オペラを積極的に見にいくことはなさそうだ。

 それでも、何か演じる作品を作ろうとしている人には、お勧めしたい一冊である。

免責:
本を精読しているわけではありませんので、すべての内容が正確とは限りません。詳細は、実際の本でご確認ください。

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