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SF『マルチバース調整庁SM管理局』(5)

(第4話から続く。末尾にマガジンリンク)

あっという間に15分で、惑星Xの宴会場内のスナックぺこりんのカラオケルームに、マルチバース調整庁SM管理局の緊急の危機管理室が設営された。

持ち込まれた3台の量子コンピューターには生成系AIアシストのChotGPTが装備され動いている。壁の大きなカラオケ画面に、自宅でバスローブでくつろぐ管理局長の姿が映し出される。

合計4つある眉間に皺を寄せたSM管理局長が、五つの目を見開いて言う。

「残念だが、新人歓迎会もこれでお開きだな。しかし、またこのペアか。アルゴリズムが今世では接触無きよう隔離したんじゃなかったのか?ちょっと、ChotGPT、経緯サマリーを」

ChotGPTが音声で答える。

「SMアルゴリズムが、偶然同じ日本人としましたが、ヘテロセクシュアルな女性二人にして、日本人以外の配偶者と会うようにプログラムして、欧州と南米に隔離させました」

「それがなぜわざわざ会いに行くことになったんだ?」

「裕子の載せた短歌、葉子が引用した詩、それらが封印された過去の記憶を呼び起こさせたようです。過去の記憶の封印プロセスは完璧でこれは想定外でした。呼び起こすプロセスは未だ不明です」

「局長、申し訳ありません。このペアのバグだけで、アルゴリズムのバージョンアップへと動くべきでした」まだスパンコールの派手なドレスの恰好の係長が神妙に付け加える。

「あの、すみません。基本的なことかと思うのですが、なぜ、このソウルメイトのペアが今世で会ってしまうことがシステムの危機になるんでしょうか」新人Mは恐る恐る発言してみる。

「簡単だ。運命の相手が明らかになると、そして輪廻転生などその仕組みがあるというのが明らかになると、人間というのは集団としては生きていく目的を失う。かつて、バース1億2043番でそれは起こったのだが、自殺が急増して結果そのバースの地球は滅びた。今世がもうだめだとわかると、TVゲームみたいに、すぐにリセットして次へ進もうとする。それがエスカレートすると、表現が悪いがマスタベーションを覚えた猿のように止められなくなって自殺が多発してしまいに人口が激減する」

「局長、敢えて言いますと、このペアが特殊なんです。システム全体はうまく管理されています。この今世で裕子のほうがMがいつも強すぎて、ごく普通のSのほうを引き寄せてしまうんです。異常です。強烈な磁力、それも邪悪な牽引力を持ったのがこの裕子なんです」係長が言う。

「ジュリエットの時もそうでした。とても良識があって、自分の由緒あるキャピレット家のしきたりもよく考えていた良家の令嬢が、あんなことになるなんて、やはりあの人のMの牽引力が強すぎるんです」

「たしかに特殊ケースかもな。ただ、これを食い止めないと類似ケースが覚醒していってビックデータ化して、地球人がSMアルゴリズムを解明してしまうリスクがある」

「これは、SM管理法第8394条のアバター介入の事例としてよろしいでしょうか?私がかつてロレンス牧師というカトリックの神父になって介入したように?」係長が言う。

「アバターか。。。」局長は画面の中で沈黙する。そして言う、「江戸時代のお七のケースでも発動させて、この新人M君の前任者がとんでもないことになったばかりじゃないか」

「たしかにあれはお七の狂気に打ち負かされた失敗例でした」

そのやりとりを妨げるようにMは手を挙げて言う。

「あのー、すみません。話についていけてないんですが」

「SとかMとか、この局は調整庁のSoulmate管理局ですよね?SとMって、SoulとMateがいるわけですか?」

局長がちょっと驚いた顔をして言う。

「あ、君はまだ知らなかったか。。。実は、ソウルメイト管理局というのは設立当時の名称で、SM管理局と省略した経緯は、地球人の自然なソウルメイト・ペアというのは突き詰めると、支配傾向のあるSと依存傾向のあるMがお互い惹かれあうという、サド・マゾ関係が基本としてある関係だというのがわかってきて、局内では地球のある番号台のバースに設定される、SMペアの管理をする仕事というのが基本方針となっているのだが」

「え、SM?地球人同士が縛ったり、蝋燭たらしたりするやつですか?!」

「そうそう。この裕子はたちの悪い「反転のM」なのよ。そしてロミオというか葉子のほうは「ストレートなS」。裕子の強烈な牽引力にいつも引かれていくのよ」係長は言う。

「SMにはね、おおまかに、ストレートと反転の2つがあるの」係長は続ける。

「普段の生活で自信がなかったり依存的な傾向を持つ人が、性的な場面でそれがそのままMとして出るストレートなMの場合と、普段は社会的には影響力や支配力を持つ人や自立的な人が、性的な場面ではいじめられたがるという反転のMがあるの。

いつもきちんとして真面目でリーダーシップがある人ほど、性的な場面では支配されいじめられるのを好む。それが反転のM。

Sのほうも同じ。ストレートなS傾向の場合はそもそも我が強い人が相手をいじめて相手の性的興奮も煽ることを目的としていることが多いのだけれど、反転のSの場合は、自らのコンプレックスや劣等感などをなぞるために相手を虐げることが多いの」

「えぇ!SoulmateがSMペアだったとは。。。美しいソウルメイトの出会い話が。。。」Mは5つの目を見開いてただただ驚いている。

係長は続ける。

「ジュリエット、a.k.a. お七、a.k.a. 小野裕子は、強い反転のMなの。かなり手ごわいわよ。アバター介入で、かなり強いストレートなSを投入して、葉子への牽引力をブロックする必要がある。ちょっと、ChotGPT、このシチュエーションで、効果的な介入案は?」

「裕子はすでにダブリンからヒースローへのフライトなので、ロンドンでアバターを投入してアルゼンチンまでの間での介入がよいと思われます。イギリスとアルゼンチン、映画俳優級の性的魅力、裕子のジェンダーは今世では女性の自認で女性が恋愛対象のようですから、この映画女優はどうでしょうか?」とChotGPTはある女優の映像を画面に映す。

それは、その頃、ネット配信のTVシリーズで、チェスの天才少女の話の主役をつとめた、アーニャ・ジョイス・シモンシーニという女優だった。

「彼女は、アルゼンチン生まれ、父親のイギリス国籍ですが、英語もスペイン語も堪能で、強引なキャラクターも演ずることができ、レズビアン的、中性的な魅力もあって、裕子の好みと思われます」ChotGPTが言う。

係長もその映像をみて言う。

「そうね。この子、笑うと可愛い笑窪ができる。ちょうどいいかもね。アバターもえくぼー、なんちゃって」

しーん。危機管理室に沈黙が広がる。

「係長、それは昭和のジョークというやつですか?それで、そのアバター介入のオーバーロード側の人選は?」

「それはMさん、あなたしかいない。適任だと思うわ。がんばって」

「え?どちらかというと私は個性というか地球人的ジェンダー自認にあてはめると雌よりも雄に近いんですが。。。」Mはとまどう。

「いいのよ。あなたならできる。私はどちらかというと地球人的には女性に近いジェンダー自認だったけど、ハゲのカトリック牧師になってロメオとジュリエットに介入したの。あなただってこなせるわよ」

その頃、小野裕子は、ロンドンのヒースロー空港から、与那原葉子の待つブエノスアイレスのエセイサ空港へのアルゼンチン航空便を待っていた。 (続く)

(タイトル画は、ターミナルで検索してでてきたなかから、かっこよいのを拝借)

https://note.com/rubato_sing/m/m7132c815102c


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