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『百万円煎餅』(『憂国』より)

『百万円煎餅』(『憂国』より)
三島由紀夫著


主な登場人物

1.健造(けんぞう)
清子の夫。夫婦で本番行為のエロ・ショーをしている。
2.清子(きよこ)
健造の妻。夫婦で本番行為のエロ・ショーをしている。
3.おばさん(おばさん)
本番行為のエロ・ショーの斡旋業をしている。

健造と清子は浅草の新世界ビルで時間を潰している時に"百万円煎餅"を購入した。約束の時間に、彼らはおばさんに会い、彼らの仕事場となる(男女の本番ショー)が予定されている邸宅に行った。仕事を終えた後、造は高額の御祝儀を破りたい気分になったが、清子が代わりに湿った百万円煎餅を差し出した。健造はそれを引き裂こうとしたのだけど、煎餅は、柔らかくて、引き裂くことができなかった、という話。

一番のポイントは、

『掌に余る大きな百万円煎餅を彼は両手で引き破ろうと身構えた。手に煎餅の甘い肌が、粘ついた。買ってからずいぶん時が、経ったので、すっかり湿った煎餅は、引き破ろうとするそばから、柔らかくくねって、くねればくねるほど強靭な抵抗が加わり、健造はどうにもそれを引き破るこもができなかった。』ということなのだと思う。これは、どういう意味なのか?

人生や目標の達成に向かっていると、コントロールできる要素と、そうでない要素が存在すること。努力や意図は重要なのだけど、時には予期せぬ要素が介入し、思い通りに進まないこともある。また、この出来事は人間の儚さや脆さも象徴している。力強く見えるものでも、時間や状況の変化によって影響を受け、壊れることがある。私たちの力や存在は一時的であり、変化と不確実性に常にさらされていることを想起せる。さらに、湿った煎餅がやわらかくて破れないというイメージは、柔軟性や順応性の重要性を示唆している。固定的な考え方や強い意志だけでなく、状況に応じて柔軟に対処し、変化に適応することが必要な場合もあるということ。

ちなみに、三島由紀夫本人の解説によると、

『小説「百万円煎餅」は、要するに、お座敷でエロ・ショーを見せるのが商売の若夫婦が、その実、今時めづらしい堅実な市民的な生活意識を持つてゐるといふ皮肉を利かせた短編であるが、あとでさる通人から、実際に、さういふ商売の夫婦の生活は実に堅実なものである、といふ話をきき、想像と現実の一致におどろいた。』

le banquet

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