らまん

咀嚼反芻。

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  • 金木犀の木の下で

    金木犀の木の下で餅を焼く男の詩集

  • 写真と詩

    映るもの、響くもの。

最近の記事

無題

空の旅に出かけよう そう決めてから歳月が経った そこに湧き起こる二人のビジョンを待つのをやめた 何もないこの空間で 芽が出て育つのを待っている どんな果実だろう 世界に植え付けられた種に実るのは 根を張り始めた愛 対立を決めた幾つかの憎しみ ここにはすでに揃っている 世界を照らす光になるための栄養が 十分に

    • さか井にて

      朝、穏やかな波の上で行き交う船たち 彼らは何を思うだろう おかえり、いってらっしゃい そんな安易な言葉だろうか ある日、この穏やかな波は表情を変えた 彼らは知っていたはずだ この大量の水が姿形を変えうることを しかし、それが街を飲み込む姿を航海ごとに意識していただろうか 彼らは今何を思うだろう 今日の波は穏やかだ いつ全てを奪われるともわからない 今を生きろよ 明日が突然来なくなるとしても 彼らは海に出る 彼らが捕った美しい魚介類を私は食す さて

      • ぐんぐん

        進めることがある 野を駆け町抜け灯台へ 渡った先には何がある あなたにしか見えないもの 身なりを整え飛び込めば 明日の光が見えてくる 竜宮城には行けたのかい 過去の少女が問いかける そんなものはなくたって 生きられてしまうのが僕達さ まだまだ進む 犬に縄つけ木の実を拾い 出会ってしまった 彼ら彼女ら ギターを携え岩登る 道がないなら作ればいい 明るく立った火柱に 集まるものは羽虫かな 刹那の感動 街行く外道 絡まり合った染色体 膨らみ切った受精卵 腐敗の

        • はずれた道にて

          だから私は言ったんだ それは本当にあなたが進む道なのかと あの時、私は絶望していた 自分の能力の欠如に 自分の計画の甘さに 自分の覚悟の不在に いや、絶望していることに気がつく間も無く 言い訳を始めていた そうして、 今できることで 最大に心を躍らせる事柄に 身を投じた 私はそこで何者かが問う声を 聞いた それは逃避ではないのかと 語りかける能面 心躍る方へ進むことは 決して逃避ではないと その声を振り切った それまで抱いてきた目標を 手放すことになるとは知らずに

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        • 金木犀の木の下で
          21本
        • 写真と詩
          33本

        記事

          カラスの巡回

          鳥でもなく 花でもなく 酸素でもなく 虫でもなく 土でもなく 二酸化炭素でもなく 山でもなく 海でもなく あなたでもなく ギターでもなく 車でもなく 山嵐でもなく 炎でもなく 蝋燭でもない そんな私 どれでもないことでわかる私 どれでもないことが少し悲しい私 どれも知りたい私 知っていることのどれでもないことでわかる私 知っていることの外に私はいるだろうか 知っていることの中に私はいないだろう 知っていることの間に私がいるみたいだ 私は緩衝材 私は潤滑油 いや、どれ

          カラスの巡回

          蛆虫

          対話し続けると決めたんだ。 解決し続けると決めたんだ。 自他との対話をやめた時、彼は何者でもなかった。 ただ物質を人体の形に留めるだけの構造体。 実に唯物的で物質的な思想の中にあった。 己の中で複雑に絡み合いながら乱回転する糸たち。 あの感覚は染色体が増殖する過程を想起させる。 きっとあれらは過去の柵と現在の彼との差異から湧き出た蛆虫。 焼いて食うなり、具に摘み取るなり、好きにすればいい。 あいつらは差異から湧き出す。 過去と現在、現在と未来。 柵を捨て、未来の梯子に

          車に乗って

          車に乗ってどこまでも。 車に乗ってどこまでも行ける気がしていた。 車に積んだベーコンには蛆が湧き、じゃがいもはボコボコに痛めつけられていた。 火を興して、湯を沸かす。 そのうちに誰かがテントを建てている。 向こうからは雄叫び。 すごい枝振りの倒木が運ばれてきた。 喜んで火に焚べる。 沸いた湯でパスタを茹でる。 今日はベーコンとじゃがいものトマトソースだ。 もちろんニンニクとオリーブオイルは欠かさない。 野生児たちの生きる知恵は無限大の可能性を秘めている。 そこには不可能な

          車に乗って

          覇道

          覇気を感じる。 芽吹きを、生きる力を、連綿と続く空間に立ち現れる刹那の輝きを感じる。 嫉妬、尊敬。 理解、分析。 既知、疑問。 引きこもっていた頃、彼は何者でもなかった。 能動的にも受動的にも刺激の少ない生活の中で芽生えた感情。 書きたい。 自身の考えと対象者の考えを見比べたい。 そこに現れた境界線が彼になり、世界と関わる窓口になった。 そこから身を乗り出して世界を覗き込んだ。 途端に嵐がやってきた。 嵐が去るまで窓を眺めていた。 嵐は去らない。 彼は嵐の中の泳ぎ

          報酬

          彼らは争っている。 お互いの要求を体現するために、 あらゆる場面で争っている。 彼は知っている、 打ち倒すべき者は己自身で、 強く紳士的であれば、 あらゆる場面で争いを鎮め、 相互の要求を体現しうることを。 彼はそれをDNAの二重螺旋をモデルに語る。 彼はグアニンで、彼女はシトシンなのだ。 二人の間の三つの水素結合の間には、 分子間力が働いていて、 その間の距離がゼロになることはない。 それでも求め合い、 変化し合う二人の間には、 新たな結合が紡がれ続け、 ねじれた

          群青

          群青色の香り 三角に差し込む光を眺める 服を着たあの人はもうあの笑顔を見せることはない 湿った体温を拭い また細胞の声に耳を傾けていく 服を着た私の肌は少し毛羽立っていて 眠気の残った脳には知性が宿らない 蝶が舞い降りるのは一方の肩で 一方には翼は生えない

          氷花

          氷の上の一本道に 花を添えてくれたあなた きっとあなたが私に見ている温かさは あなた由来のもの 私の氷を差し出す番が来てしまった 機は熟した途端に枯れ果てて 次の芽が出てきてしまう

          海を飛ぶ

          海では泳げばいいじゃない 空では飛べばいいじゃない 陸では走ればいいじゃない そういって私の努力を 否定してくるの 奈落の底に叩き落としておいて 優しい言葉もかけずに 甘い汁を垂らしてくる わかってるわ 夜は寝る時間だし 太陽が向こうにあるかこっちにあるか それだけ もっと遠くでは 太陽より大きな球が燃えていて 私たちはそれを見ないふりしてる ただここにあるだけなのに 全ては連なっていて その中で私の大事なものを 大事なものだけを掴んでいればいいのよね 他は全部どう

          海を飛ぶ

          勇者

          勇者が一度しか死を経験しないなら それはやはり肉体的な死であるとするのが凡人である 賢者は 勇者すら精神的な死を乗り越えて それ以後決して折れぬ心を手に入れたと解釈する 勇者の身体は朽ちてなお 民の心に生き続けるのである

          祭りが終わった後 僕たちは繋がった 祭りのうちは 僕たちはお互いの構造を確かめ合っていた 祭りが終わって ゆっくり距離を隔てていくうちに 坩堝から樹脂を引っ張り出すみたいに ゆっくり何かが結晶化されていって 僕の構造と君の構造の一端が 繋がったのだと思う 僕はこれをなんと呼ぶか知っていて 彼女が同じものを感じていることを信じていた 簡単に冷やされて折れてしまうそれを 僕はできるだけ暖かく柔らかく残しておきたい 釣り糸を結ぶときのあの味わいのように 丹精に そしてま

          あちらでもなく こちらでもないもの 数直線上に表された質量を持たない点は メタファーの重なりによって定義されるらしい そこにはまだ何もなくて でも交わす言葉で見出された 面と面の間 線と線の交差 まだ質量を持たぬその領域に ベクトルを向け 同じ点を眺めていることを確かめ合いながら エネルギーを注げば カオスから湧き出すものもあるだろう あなたの輪郭と 私の輪郭が重なり合い 変化し合いながら それでも変わらぬ何かを見出していく 真理があると信じて その一点のみが揺るぎ

          金木犀の木の下で

          春ですね 今日もわたくしは 桜の木の下で餅を焼いています 自分の腹を満たそうと ひたすらに餅を焼く練習をしています けれどたまに 自分では食べきれない あるいは 自分の口には合わない餅が焼けることがある それらを喜んで食べてくれる人がいて 今日も私の周りは賑やかです ふと振り返ると 桜が泣いているのです あまりにもよく人が通るようになったから 根っこが痛んで仕方がないんでしょう それでわたくしは 生焼けの餅を残して また他の場所で餅を焼き始めるのです 今日は二

          金木犀の木の下で