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ウインクがしたい。

ブリティッシュはやたらウインクをする。
別れ際「じゃあね」って言った時や、レストランで「会計お願い」って言った時、料理を運んできた店員に向かって「ありがとう」って言ったタイミングなど。目が合うたびしてくる人もいる。
ロンドンに来た当初、ウエイトレスのアルバイトをしていたときは特に、老若男女問わず何度となくウインクをされた。きっとおそらく、日本人でいう会釈のカジュアル版だと思っている。
間近で交わすウインクなんて、日本にいればすることも、ましてやされることも、アイドルの自撮り写真くらいでしかほぼ経験しない。

だが、これが思いのほか、ふいに受けたときの破壊力たるや毎度結構キュンとする。
私もいつかしてみたい…さらりと見ず知らずの人間をキュンとさせてみたいもんだ…なんて鼻の下を伸ばしながら思った。


最近、アルバイトを変えた。
新しいバイト先は、日本製品を販売しているお店ということもあり圧倒的にお客さんのアジア人率が増え、その上レジ打ちぐらいの一瞬の接客なため、お客さんにウインクをされる機会が前職に比べて皆無になった。

先日、初老の男性と英国女性の2人組が買い物に来た。おそらく男性は40代くらいだろうか。佇まいや女性への気の遣い方に母国の勘が働き、彼が日本人であることを察した。
なんとなく、言葉選びから、現地のテンションでスマートに女性をエスコートしたい感じが伝わってきた。きっと彼がこれまでに出会ったブリティッシュ男性たちの所作やセリフを真似しているのだろう。一生懸命に、女性が買おうとして持っていたものを奢る形で会計をしていた。

レジを終え、私が商品を渡したところで「Thank you so much.」と伝えると、ふと男性が去り際に私に向かってウインクをした。私がこれまでキュンとしてきた、にこやかにさらりと交わすブリティッシュのウインクではなく、片目の上と下のまぶた同士をギュッと合わせていた。
なぜだかわからんが、ゾッとした。

他国の習慣を真似すると、たまに痛さと表裏一体になってしまうことがある。そして人による。社会に揉まれ心が薄汚れている私には、おじさんが背伸びをしているように見えた。さっきまで男性呼びだったのに自然とおじさん呼びになっている始末だ。私はそのおじさんのウインクを見た瞬間、今後他人にウインクをするのはよそうと誓ってしまった。

でもたまに、そういうふうに雑念がなく表現している人を見るとうらやましいとも思う。私のように自意識や雑念が多いと瞬発力が弱くなるし、ロンドンでは、瞬発力が結構モノを言うからだ。大都市だからというのもあり、あらゆる場所が基本的に予約制かつ即完もあたりまえ。また仕事やコネを探しているときはタイミングやスピード感が次のアクションへの鍵となる。

自意識の痛覚を鈍くすることは生きやすさにもつながる気がする。



※こっから閲覧注意

ロンドンの街に来て一番に気になったのは鳥の量。そしてサイズがデカい。態度もデカい。人間から餌がもらえることを知っているので近寄っても避けない。むしろ人間のほうが避けてる。ロンドンの鳥のように図々しくなりたい。

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