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「空の大怪獣ラドン」4Kで見事に甦る怪獣映画のお手本

昨年はこの頃「モスラ」の4K版を観て、やはり古いものを今の技術でデジタル修復することは意味があると感じた。そして、今年は「空の大怪獣ラドン」の4K修復版の公開。先週は「午前十時の映画祭」なのに8時20分開始とかなっていたので気後れしたが、今日から一週間は10時始まりになり、無理なことをせずに見ることができた。そして、この日本映画最初のカラー怪獣映画は、その作りには圧倒されることを確認できた。VFXとかCGとか言われるものがない時代、フィルムにこれを焼き付ける力は本当に凄い技術である。円谷英二と本田猪四郎監督のコンビは、この仕事をいくつもやり続けたわけで、それは今でも、いや、今だからこそ驚かされる。

この映画、私が最初に見たのは、多分お正月のテレビである。子供の頃は年末年始はテレビで劇映画がいっぱいかかるので嬉しかった。特に怪獣映画は視聴率もとれたのだろう、そういうところで映画を観ていろんなことを学んだ気がする。そして、それは白黒テレビだった。それでも、メガヌロンの気持ち悪さと、このラドンが福岡の街を破壊する様は凄い印象に残ったと言っていい。

そして、その後文芸坐の大きなスクリーンで退色もしていないカラーのちゃんとしたバージョンを見ている。この時も、やはり凄い映画だなと感心した記憶がある。ある意味、ゴジラよりも完成度が高いし、話もシンプルで迫力もある映画だと思う。そして、今見ても、これをどうやって作ってたのかと考えてみることで、凄い映像制作の勉強になる映画だと思う。映画館の観客は、平日の朝ということもあり、老練な男たちが多かった。もっと、若い人に見てもらいたいですよね。そういう意味では、「午前十時の映画祭」一日2回くらいの上映にして盛り上げてほしい気はする。あと、もっと大きなスクリーンで見たい。この映画などはIMAXの画面で見てみたい人は多いと思う。イベント的にそういうことできないのですかね?

ということで、映画を見返していくと、九州の炭鉱の話である。炭鉱という産業がない今では考えられない設定と言っていい。昔はよく、こういう炭鉱やトンネル工事で怪獣が出るという設定はあったと思う。「ウルトラQ」の初回「ゴメスを倒せ」もトンネル工事現場の話ですよね。そういう男臭い現場に怪獣は出るのだ。また、舞台が阿蘇山というのもダイナミックな感じがする。設定がしっかりしてるので、世界に没入できる映画だ。そして、そこに最初に現れるのがメガヌロンという怪獣。これが結構気持ち悪い。白川由美と佐原健二がいる家に突然現れるグロテスクな姿は子供の時にすごく怖い印象を受けた覚えがある。そう、白川由美とメガヌロンがセットで記憶に残っていたりする。これ、トンボの幼虫なのだが、この成虫が見てみたいという好奇心は今もやまないところがある。この怪獣はラドンの餌になるという設定で出てくるのだが、怪獣映画での名脇役の一つである。しかし、ラドンが出てくるところで、メガヌロンがすこぶる小さくなる。いや、この時点でラドンの大きさにびっくりするようにできているのだ。ただ、このヤゴの怪獣、後半に一切出てこないのは、ちょっと物足りない。

そして、メガヌロン退治が始まり、佐原健二が行方不明になったところで、突然、メイン怪獣のラドンが出てくるわけだ。こういう真打ちを焦らせながら使う感じは、初期の怪獣映画によくあるやり方で、それだけ、恐怖を煽る感じにはなっている。「JAWS」なんかも、こういう怪獣映画がお手本になってますよね、きっと。

そして、ラドンの孵化のシーンは、「モスラ」のそれと同様になかなか見応えがある。あとで、この卵の殻を調べるシーンがあるが、大きな電子計算機での解析が時代を感じさせる。

ラドンが速く飛び、大きいことは、最初に自衛隊の戦闘機とあいまみれることで観客は理解させられる。そして、中国、フィリピン、沖縄とアジア圏の空を飛んでいくという、なかなかセンセーショナルな怪獣なわけだ。今、作ったら、やはり世界中をラドンを襲うみたいな話になるのだろうか?

この活動範囲が広いところは、ゴジラと大きく異なるところ。だから、飛んでいる時には手をさせないし、街のなかに止まったら、もはや街は一瞬で壊滅状態。博多の中心街がやられるシーンと、西海橋が壊されるシーンはなかなか壮観である。飛んでるラドンは着ぐるみではないが、なかなか細かい動きをさせているところが、躍動的で良い。4Kでピアノ線が見えるところが無くなるのかと思ったら、そういうところは残してあった。あくまでも、傷と色調の補正に力を入れている感じ。そう、当時の総天然色映画は、赤が強いがそういう色調も残してある。私自身、この頃のカラーの色味がすごく好きである。

最後は、阿蘇にあるラドンの巣に自衛隊が攻撃して、阿蘇が噴火し、その中にラドンが燃え尽きていくという、なかなか美しいラストが待っている。このラストシーン、特撮の撮影の中で怪我の功名のように、最後にラドンが浮き上がるようなシーンになったと聞いたことがあったが、今のCGで作るSFでは作りえない動きということでしょうね。それだけ、ラドンの死は生々しい。

当時の評価はどうだったのでしょうかね?まあ、映画の中では邪道の領域だったのでしょうから、評論家に絶賛みたいなことはなかったのでしょうが、・・・。作られて66年、リストアされたとはいえ、いまだに映画館でこの迫力に興奮できる映画と考えれば、やはり日本映画の金字塔でしょうね。90分弱、満喫できました。

そして、調べてみるとこの映画、1956年の12月26日封切である。お正月映画だったのですね。本当に、こういう映画は当時の映画館で見てみたいものですな。


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