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「レジェンド&バタフライ」映画会社の記念映画としては、色々と苦言を吐きたくなる作品

観るか観ないか少し悩んだ。上映時間168分も問題なのだが、大体、私、戦国時代劇というものにほぼ興味がない。とはいえ、大河ドラマなどで観ているからその流れは知っている。いや、知っているからこそ興味がわかないところもあった。そして織田信長が木村拓哉にどうしてもシンクロしないというのがあったりもした。そんな気持ちで行った映画館はファーストデーもあるのだろうが、平日なのに9割方お客さんは入っていた。とはいえ、やはり若い観客はあまり呼んでいないようだった。

東映創立70周年記念映画ということで、製作委員会もほぼ東映グループで固められているようだ。そして、長い映画だしそれなりにお金がかかっているのもわかる。記念映画が時代劇というのは、東映として問題はないと思うが、しかし、役者陣が主演2人以外はショボいとしか言いようがない。まあ、東映ゆかりの人々の多くが鬼籍に入っているのはわかるが、それでもこれはない気がする。東映の匂いがする役者は北大路欣也くらいですものね。そういうところにお金はかけられなかったのか?というか、キムタクありきの安易な企画の映画にしか見えない辛さよ・・。

そして、監督はNHK出身の大友啓史、脚本は今、大河ドラマ「どうする家康」を書いている古沢良太。映画会社の記念映画で生粋の映画畑の監督を使えないのも「何かなー」と思ってしまった。

で、その結果だが、脚本はそれなりにまとまっており168分はそんなに長くは感じなかった。まあ、濃姫と秀吉の結婚から時系列に話が進み、最後は本能寺だというのがわかっていることもあるだろう。だが、観終わった後に映画を観たという重みがないのだ。一言で言えば、すごく大味である。テレビの2時間ドラマの少し良いのを観た感じの程度である。

映画館で観せるダイナミックさがないのだ。桶狭間などの大人数の合戦シーンが出てこないせいもあるだろう。そして、最近の大河ドラマにあるようなCGでのデフォルメみたいな誤魔化しもしていないために、とてもフラットな時代劇になってしまっている。まあ、マキノ雅弘、内田吐夢、加藤泰クラスの時代劇に比べたら話にならないと言っていい。

そして、私は最後まで木村拓哉の信長に違和感しかなかった。確かに婚礼の時の若い姿から、本能寺で死ぬまでそれなりに雰囲気を変えて演じている努力はわかるが、どうも戦国武将の顔になっていない。その周囲もまた同じである。そして、濃姫が何度も言うように、最後までうつけ者でしかない信長ではダメだろうが・・。

まあ、そういう声が上がるのがわかっていたので、この映画、信長と濃姫の恋愛映画という形に持っていきたかったのだろう。それは構成から言ってわかる。そして、木村よりも綾瀬はるかの演技の方が数段力強い。特に初期の戦闘の勢いは濃姫が全て背中を押したような作りになっているためそう見えるのだろう。まあ、戦国時代などフィクションで良いのだが、そのフィクションにそれなりに観客が納得する思想みたいなものがあるべきだと思うのだ。そう考えると、こんなに女が口出しできたとも思えない。ある意味、この気の強い戦国女は東映らしいとも言える。

街を隠れて歩く二人が、乞食のスリにあい、彼らを無礼者として、2人が叩き切るシーンなど意味がわからない。信長も濃姫もこれでは、ただの金持ちのヤンキーだろう、これじゃ。大体、金平糖を盗まれて人を斬るのってダメでしょ。そして、坊主と闘うシーンでは、「坊主がまつりごとに口出すな」という信長の意見は、今の政治にカルトが口出してることのパロディと考えれば面白いとは思ったが、それでも女子供も叩き斬れみたいな野蛮なこと言いわせなくてもいいのではないかと思ったりもした。

そんな感じで作り手が信長や濃姫にどんな意志を込めたいかが全く感じられないためなのだろう、演出の画も一つもいいものがなかった。最初の初夜のプロレスシーンは方向性としては面白いが、もう少し撮り方があるだろうとか思ってしまった。こういうシーンは石井輝男に撮らせたいですよね。そう、東映らしいお下劣さみたいのが全くないのも寂しいですよね。

そして、画が決まらないから、佐藤直紀の音楽も全く映画を盛り上げていない。全編において、映画というものを70年作ってきたという気迫は全く感じない記念映画だったりした。ある意味、これは観る前の予想通りなのだが、昨今の韓国映画のグローバル化など考えると、本当に悲しい限り。こんなもの黒澤明がいた国が作った映画として外国に見せられるものではないと私は思う。

確かに、映画会社のブロックブッキングシステムでの映画制作がなくなって、撮影所さえ経営危機にある今、映画らしいものを作れと言っても無理なのかもしれない。とにかく、映画会社が映画製作者を作れない時代だと言うのが問題なのである。

これはないなと悲しみにふけり、冬の風を受けながら映画館を出た私でした。大体、東映の記念映画をTOHOシネマズで見てるわけで、もはや、そこからわけわからんのですよね。

後、この題名かなりダサいというか内容と合っていないですよね。こう言うセンス自体、何とかならんのか?日本映画よ!


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