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「春に散る」また一つ、ボクシング映画の傑作が生まれた・・。

7月、8月と私は映画館に行かなかった。観たいと思う映画があまりにもなく、他の色々がそれなりに動いていたり、テレビドラマを見るのに忙しかったのもある。というか、たまにそういう時は前からあって、1年間くらいその場に行かなくても平気な映画ファンではあるのだ。そう、ある意味、映画に対して他人より多くの金を使ってると思われる私でさえそうなのだ。ビデオで簡単に映画が見られる時代、映画館に客を連れてくるのは大変な話だということです。

で、この映画は、予告編を観た時から観ようと思っていた。好きなボクシング題材。そして、監督は、私が今、日本で映画作りが一番上手い人だと思っている瀬々敬久。主演は、これも私好みの、佐藤浩一と横浜流星のダブル主演。原作は「一瞬の夏」の沢木耕太郎。もう、ワクワクが詰まってる映画である。そして、その事前のワクワクは、二倍以上になってスクリーンから弾けてきた。

昨年の日本映画で「ケイコ目を澄ませて」という映画が映画賞界隈を賑わしたが、私はあまりピンと来なかった。ボクシング映画というよりは障害者映画だったし、全体的に貧乏くさい映画としか感じなかったからだ。そして、この映画も、舞台は下町。ボクシングを辞めた人間がリセットしてやり直す話だし、周囲に貧乏臭も病気臭も一杯の題材だ。だが、こういうライバルに向かって、栄光に向かって走っていく映画は好きだ。公開前に、横浜がボクシングのプロテストに合格した話が流れたが、他の出演者も含め試合のシーンはなかなか迫力もあり、心が震えた。そう、ボクシング映画はクライマックスの試合のシーンで観客が何を感じるかが勝負だと私は思う。

冒頭、酒場のシーンから始まる。ここから枯れた男の話だということがわかる。そして、その枯れた男が、一度辞めたボクシングに復帰したい男を育てることになる。瀬々監督の映画は説明臭くないところが良いし、それでいて、必要な情報はしっかり入れてる感じが絶妙。そして、いつものことながら、出演者の顔が全て良い。人を撮らせたら本当にうまいというか、どんな脇役も印象に残る感じは、何故なのか?現場の空気感が作るものなのでしょうね。全編にそれを感じた。佐藤と横浜の演技はいうことなし、最後に桜の下で寝ている佐藤の画でタイトルも素敵であった。

ボクシングジムのオーナー役の山口智子。佐藤と横浜のボクシングに批判的でもあったが、最後の試合でのエキサイトな演技は最高だった。こういう役が本当に似合う人だ。もっと、役者の仕事をしていただきたい。

試合シーンは、相手役になる、坂東龍汰や窪田正孝も、かなりボクシングは練習したようで、切れ味はなかなかだったし、殴られて顔が潰れてく感じも良く、終わった後で讃えあうシーンがしっかりセリフいりで入ってるのはすごく良かった。これをみて、ボクシングをやりたくなる映画になっているのだ。

横浜のお母さんが誰かと思ったら、坂井真紀。こういう枯れた女の演技ができるようになったのだと驚いたが、この人そういう意味では、これから、役の幅を広げていきそうだ。

私はそんなに買っていない橋本環奈。ここでは、至って地味な佐藤の姪の役であるが、こういう地味な役の方が上手い感じがする。彼女はヒロインとしては弱いと感じる私だが、今回の橋本は傍で邪魔にならずに存在感を示していた。「何故ボクシングをするの?」と聞くところなど、「あしたのジョー」の紀ちゃんを思い出させる感じであった。

そう、私の世代なら、誰でもがこの映画を「あしたのジョー」と重ねる向きも多いだろう。原作の沢木耕太郎も、そういう臭いが出したかったのではないか?最後に横浜の目が見えなくなる感じもそれを思い出した。そう、日本のボクシング映画は、これからもずっとその臭いを消すことは難しいだろう。だが、そんな日本のボクシング映画が私は好きだ。

この映画の感想を言うなら、「また、一本、日本映画史上に、素晴らしきボクシング映画が生まれた」という一言でいいと思う。

久しぶりの映画館、良き映画を見られたことに感謝!


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