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「砕け散るところを見せてあげる」私たちもパラレルワールドの立ち位置を間違えれば玻璃の世界に陥る現代を描く快作

この作品を快作というと、「お前は変態か?」という方もいるかもしれない。映像のまとめ方は綺麗なのだが、ラストに至る話はとても痛くてたまらなくダークである。そして、この話の中で生きることにつながっている要素は、まだまだ開いたばかりの愛情だけである。ラストの着地の仕方は、まさに愛のUFOに乗ってきたみたいなところだった。SABU監督の現在位置がこういう世界なのだろうか?

私は知らなかったが、原作は竹宮ゆゆこという方のベストセラーらしい。そして、それを映画化した監督はSABU。独自の色がある人だが、個人的にはあまり映画の相性はよくない。でも、今回はなかなかの力作で、こういう観念的な世界をなかなかエグ味を忘れずに綺麗に描いているなと思った。そして、今、世の中の混乱や政治や社会の幼稚性みたいなものがMAXになろうとしている中で、タイムリーに私の胸を打ってきた。

まず、主役の中川大志と石井杏奈は熱演であった。監督の映画らしく、中川は、何度か思いっきり走っているし、石井はこんなに表情を出さず暗い役は初めてであろう。こういう役がしっかり演じられる人なのだと思った。今後に期待。ラスト近く、二人が川を目指して自転車に乗っていくシーンは、SABU監督だから撮れる触感のものに出来上がっていた。

映画の流れとしては、最初の石井扮する玻璃に対するいじめが度を越している。まあ、怪我を負わすものはないとはいえ、この状況を教師が見て見ぬふりをする学校とは、終わっている。でも、そういう場所が全くないとはいえないのが今の時代なのかもしれない。デフォルメにも見えないのが怖い。そう、玻璃は現代社会にある孤独そのものだ。出口がない孤独。

そして、中川はそれをみて一人熱くなって関心を寄せる役。彼は救世主として現れる感じ。救世主は思いっきり走ってやってくる。そう、彼こそ突然現れたヒーローだ。流されやすい日本人のコミュニティの中にはこういう人はすこぶる少ない。特に昨今は、政府や大企業も自己保身しか考えていない人が動かしていて、幼稚ないじめみたいのが平気で横行している。私もフリーランスなのに、ひどいことを言う組織の長もいたりする。もはや日本全体が病気にかかっている。本当に、利権や金儲けしか考えていない輩はくそくらえなのだ。体裁整えているやつを私は最近全く信じられないし、面白みを感じなかったりする。ここで中川や石井に異星人として存在する堤真一はまさに、そういう現代の澱みである。そこに人格などない気がする。

この映画は、そんな現代社会をデフォルメして描き、最後にそんな世界から抜けて、幸せな世界を生きようよと言っているようにエンディングを迎える。最後に出てくる原田知世の笑顔がこの映画が求めているものなのだろう。

とてもバイオレンスな話が続いた後で、映像的に精神世界に落とし込み、LOVE & PEACEを訴える映画であった。ラストのショットをみて、そういう人と人との邂逅は、不思議であり、必然なことだとも思ったりする。

確かに、好き嫌いがはっきりする映画なのかもしれない。私はと言えば、とても愛らしい映画に感じた。


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