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「神は見返りを求める」現代のデタラメな社会の中に神は存在するのか?と鋭く背中を突き刺す傑作!

昨年の「空白」で私を異次元に引き込んだ吉田圭輔監督。その新作が今かかっていると昨日気付いて観に行く。だいたい、主演が、ムロツヨシと岸井ゆきのって、気になって仕方なかったのだ。結論からいうと、またまた傑作だった。昨日観た「ベイビー・ブローカー」なんかに比べても、社会風刺のパワーが格段に強烈だった。そう、そう、今の日本、こういう裏切り、悪口、罵り合いみたいのことが、リアルでも、ここにあるようにネットでも溢れかえっている。そんな、世の中の空気感を見事に映像で繋いで、観客に「帰るときに刺されないようにね」と言っているような作品だった。再度言う、傑作である。

ということで、ここから先は、観てから読んだほうがいい。まず、傑作を堪能したい方は特に。ネタバレしないと感想書けないので、あしからず。

そう、冒頭は、拙い映像しかとれず、字幕も入れられないYouTuberの岸井ゆきのにムロツヨシが、力を貸してあげるところからはじまる。なかなか、柔らかいほんわかムービーじゃないかと思いながら見出す。スマホの録画画面に、ゆるい映像が、「この映画大丈夫か?」と私に思わすのだが、これが、徐々に感情が壊れていって、過激に変容していくとは、誰も予期しないだろう。

大体、岸井が、下着姿で、ムロに、見返りを身体で返そうとする辺りから、ギアが変わっていくのだが、その岸井、その後でボディーペインティングのために裸になったり、なかなか体当たり?だが、このシーンが現在のYouTuberの品のなさみたいのをデフォルメしてるわけで、彼らの描き方自体が、今の世の中の軽薄さなのだろう。最初に出てくる違うYouTuberがラストのムロに対しての鉄槌みたいなものを与えるのだが、散々ムロを馬鹿にした彼らがそれをやるのではないところが、現在の日本の病みたいなものを強調してる感じでお見事!

あと、センスがないと言われたYouTubeがデザイナーが入った途端にポップになっていくのも、さすが本職は、そういう差異もちゃんと出せるのねとなかなか面白かった。ある意味、この映画が、YouTube編集講座みたいにもなってるのだ。

そして、ムロと岸井に他人が言った悪口を言いふらす若葉竜也の描き方も秀逸。こう言う輩が世の中には多くはびこっているわけで、私も、こう言う人物をリアルに知っている。結局は、他人を馬鹿にすることで、自己承認をするような輩な訳だが、本当に邪魔な人たちである。こう言う人を相手にすると、絶対あなたは不幸になる!気をつけて!

「空白」でも思ったが、監督の描く人物たちにはリアル感がある。そして、その本質は監督の人物に対する観察力なのだろう。世の中の不条理をこう続けて映像に仕上げる技量は凄い!そういえば、この映画とは関係ないが、「空白」で不幸に亡くなる役の伊東蒼が、「恋は光」で笑顔の女子高校生を演じていた。そう、監督の使う役者たちの芝居が素晴らしいのは、そんな演技の振り幅の広さがあるからなのだろう。キャスティングには関心させられる。

ここでも、ムロツヨシと岸井ゆきのの、仲良しから、罵り合い、YouTuberとして対決するまでの、過程での、二人の演技の凄みが堪能できるものになっている。もちろん役者の力なのだが、この流れを作るのが演出力なのでしょうな。

結果的には、喧嘩をしていた二人は、共に神様に見返りどころか、天罰を受けるような状況で終わるのだが、それでも、未来に向けて、どっこい生きてるような大団円は、お見事!今の世の中、何があってもめげないことが大事と言うのも、この映画のテーマなのでしょうね!

ラスト、傘で突き刺された背中に血を流すムロの後ろ姿。カメラのついてない自撮り棒を持って、よく解らぬダンスを踊り続ける。このシーン、 2022年の今だから撮れたと言っていい。今年の日本映画を象徴する名シーンだと思う。

まあ、この先数年後に、昔のYouTuberってこんなだったよねと、この映画が古臭く感じるようになってほしいことを祈ると共に、よくぞ、時代の映画を撮ってくれたと、監督にエールを送ります!最後にもう一回言います。傑作です!


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