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「水は海に向かって流れる」広瀬すずのひねくれた感情の表現がなかなか刺さる佳作

決して、傑作とはいえない映画だ。だが、なかなか愛らしい広瀬すず主演ならではの映画と言っていいだろう。ラストの告白に対する広瀬の表情も良かった。前田哲監督は「そしてバトンは渡された」でも感じたことだが、女優を美しく撮れる監督である。ただ、演出的にもう一つ押しが足りないようなのが勿体無い。

日本映画好きの発言でしかないが、広瀬すずの演技する姿が、昔の大映映画の女優さんみたいな感じだなと思った。若尾文子や山本富士子、京マチ子の部類だ。野添ひとみ的なエッセンスも配合されている。そして、そう思ったら、彼女を今は亡き増村保造監督に撮ってもらったらどんなに映えるだろうかと思ったりした。まあ、今はそんなねちっこい演出をする方もいないし無理な話なのだが、そのくらい広瀬すずという女優がとてもエレガントで切れ味が良くなってきたと思えた映画だったのだ。

原作は田島列島のコミック。コミック原作らしく、出てくる人々のキャラがなかなか出来上がってるし、多分、コミックにある構図なのだろうと思わせるものもいくつもある。とはいえ、映画は会話で話を見せていく形なのが少し残念。もう少し説明くささを除いて行ったらかなりの傑作になり得たかも知れない。

話は、母親の不倫で心を閉ざしてしまった主人公の広瀬すずと、たまたまその不倫の相手だった父親の息子である大西利空が、シェアハウスでたまたま同居人になるという話。年上の広瀬の性格が気になり、追ううちに好きになっている大西。まあ、よくわからない恋愛のありかたをなかなか素敵に描いてラストに持って行っているとは思った。

そんな大西を好きになる同級生の當間あみが、なかなか可愛い。彼が自分に心がないと分かった時に彼女が叫ぶ「ハート泥棒!」という言葉、なかなかズキュンときた。というか、當間あみの気持ちを知らぬうちにフるとかどんな鈍感男子なのだ?そんな、當間は可愛いいのだが、広瀬すずも出始めの時はこんな感じだったかなと思うと、10代から20代前半で女というものは本当に変化する。そう、考えれば、當間もあと10年でどう変わるか楽しみだ。陸上部でグラウンドを走る姿などもなかなか凛々しくて良かった。テレビでフェンシングをやる姿も印象的でしたものね。スポーツ選手役は結構いけると思うのだが・・。

この映画は、広瀬すずの、煮え切らない、いや、タイトルからしたら流れていかない心象風景が映像にうまく埋め込まれている映画だ。広瀬は、少しいかつい表情から、すごく色っぽい表情まで、さまざまに変化できる女優である。そこをなかなかうまく繋いで、主人公を立体的に表現できていたと思う。最後に、シェアハウスから去って自分で人生を再出発しようと考える広瀬に元に、愛の告白をする大西。多分、うまくいかないから、映像はここでぷっつり切られる。それが、青春映画らしく、余韻も残さない的なのは好きだったりもする。

なんか、雰囲気が神木隆之介っぽい高良健吾や、怪しい占い師の戸塚純貴も邪魔にならず、北村有起哉、生瀬勝久、勝村政信など、若者を見守るというか、振り回すおじさんたちも隠し味として好演しておりました。

なんか、この映画の広瀬すずの演技を見て、彼女、この先どういう感じの女優に化けていくのかさらに楽しみにはなりました。広瀬すずファンは必見の映画ではあります。



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