花浜紫檀

はなはましたん|わたしの美しい手紙調

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最近の記事

ひよこ人間

 わたしは四人家族のなかでいちばん口が悪い。心の中にギャルではなく暴力団の方がいらっしゃるのではないかと疑うくらい口が悪い。  これはおそらく幼少期からの反骨精神によるものだ。小動物みたい・小さい・ちゃんと食べてね・小さい・いたの気付かなかった・小さいと褒められたりいじられたりして、ありがとうございますと思いながらも反骨精神はすくすく育ってしまい、家族一番の口の悪さを誇る。  女性をお前と呼ぶ男の人が非難されているところを目撃すると、自分が叱られているみたいで逃げたくなる。

    • ラッキーガール

       初めてあなたの部屋を訪れたときに聞いた「嫌じゃない?」という声の、淡く繊細で透き通ったヴェールのような優しさは今でも私の頭の中で響き続けている。  恋人関係を結ぶということの意味合いや責任を深く思考してから交際に発展するカップルは、果たしてどれくらいいるのだろう。運命として惹かれ合い、自分たちこそが運命だと疑わないことの何がいけないのだろう。ヴェールは永遠の象徴だった。  今年の一月、友人と二人で偶然通りかかった神社でお参りをし、そこでおみくじを引いたことを思い出す。恋愛

      • colony vol.7 -exhibition- 出展作品

        まえがき 『colony vol.7 』-exhibition- 出展作家のひとり、花浜紫檀です。 はなはましたんと読みます。 2020年から短歌を詠んでおり、インターネットで発表したり、雑誌や新聞の投稿欄に掲載していただいたりしています。 今回は、短歌を手書きの手紙形式で、それぞれ10首ずつ、計20首展示しました。 短歌の定義は簡単にいうと「季語がなくてもよい、57577の調べに合わせた言葉」なのですが、近年は自由詩のようなもっと自由な韻律の口語短歌も増えています。

        • 『PERFECT DAYS』感想

          PERFECT DAYS鑑賞済ともだち全員と語りたいのですが、なかなかPERFECT DAYSの話にならないので、自分のノートに手書きで書いていた箇条書き(書が多すぎる)をそのまま羅列します。 以下、超絶ネタバレを含みます。ご注意ください。 ・平山さんがベンチでニコの顔写真を撮ったけどその写真が映画内に出てこなかったところが一番好き ・平山さんの過去がほとんど明示されない、あくまで現在(いま)に登場せざるを得ない過去だけ ・子どものお母さんにウェットティッシュで拭かれ

        ひよこ人間

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        • 短歌連作
          1本

        記事

          13月

          ・言葉を尽くせば尽くした分だけ伝わるというのは傲慢な思い込み ・手に入った瞬間から失うときのことばかり考える ・想像力には限界があるから、生物学上の女性にしかわからない苦しみ、男性にしかわからない苦しみがあるし、もっと言うと誰かの苦しみはその誰か本人にしかわからない。だから安心する言葉を掛けてくれる人はすごい。私は広い想像力が圧倒的に足りない ・くやしい、死にたい、逃げているだけだと思われてもいい、でもどう思われているのかこわい、見捨てないでほしい ・文字のやりとりの

          手紙未満

          地下鉄の改札前でモンスターの緑缶を片手に、少し気まずそうに微笑んでいるきみを何度も思い出します。心配で駆け付けたわたしは、そのまま抱きしめるか迷い、やっぱり抱きしめられず、きみの目をまっすぐに見つめるだけで精一杯でした。あの時、わたしに抱きしめる勇気があれば、抱きしめる勇気のある人間だったら、今もきみのそばにいられたのかなあと考えてしまいます。 夜は眠れていますか。悪夢は見ていませんか。紫檀ちゃんの隣で寝たら悪夢を見なかったと言っていた夜を覚えていますか。 わたしは、毎日のよ

          新宿

          昼間の地下のライブハウスから地上へ出る。 日差しの照り返しを感じながらアスファルトを歩いていると、アゲハ蝶が潰れて死んでいた。あえて見るようにして歩いた。カナブンも潰れて死んでいた。あえて見るようにして歩いた。お姉さんめっちゃかわいいっすね、どこ行くんすか。やけに耳障りで、自分が話しかけられていることに数秒遅れて気がつく。軽い会釈で無視し、そのまま離れた。離れる際、二人の息はぴったりだった。 最近はごめんなさいと思うことが増えた。思っていれば許されるような気がしている自分に

          月の名前

           月が真っ赤なので知らないおじいさんにこれはストロベリームーンですか?と尋ねたら「○○ムーンだよ」と、現実では存在しない月の名前を教えてもらう夢を見た。示唆的な夢はあまり好きじゃない。月の名前は思い出せないけれど、3文字だったような気がする。会いたいと思ってごめんなさい。夏は夜が短くてよかった。いつか月の名前を思い出せたら、あなたにだけ教えます。  おやすみなさい、眠れなくても

          2023.07.19

           あなたのおかげで、感情が言葉を追い越して、追い越して、それを必死に掴みとろうとする感覚を思い出しました。感情もあなたも、手に入ったらおしまいだと思いました。どうか夏バテには気をつけて。あなたと、いまあなたのそばにいる人が世界で一番しあわせになれますように。わたしは世界で二番目にしあわせでした。  甘い煙を吐き出しながら

          大阪と名古屋

          はるばる大阪まで好きなバンドのライブを観に行き、ライブ後の疲れた身体で松屋に入ると店員さん同士が初対面の挨拶を交わしていた。はじめまして。○○と申します。よろしくお願いします。2人が同時にぺこぺこお辞儀をしている。何気ないけれど人生の本質のようなシーンだと思い、それがなぜだか嬉しかった。 大阪にもわたしのように靴ひもを結び直したり、ペットボトルのキャップを落としそうになったりする人がきっといる。旅先では生活を俯瞰できる。新幹線のちいさな窓から、高速で過ぎ去っていくどこかの住

          大阪と名古屋

          オーキッドピンク

          人からの好意を受け取ると、とびきり嬉しい気持ちと同時に後ろめたくなって、わたしはそんな大それた人間じゃないと逆説的に自分を否定されたような気持ちになる。もちろん、否定なんかされていない。大好きな人に大好きと言われる、そんな流れ星のようなまっすぐなきらめきが、わたしのフィルターを通り過ぎると埃だらけの隕石になる。 それでもわたしは、大好きな人に大好きな気持ちを何度でも伝える。伝えないと伝わらないから。高所恐怖症の人を気球に乗せ、花瓶のない家に大きな花束を贈り、ブラックコーヒー

          オーキッドピンク

          ラッキーストライク

          疲れたって言わないひとが褒められていると「疲れた」って言っちゃだめなんだって思う。そんなことないよね。疲れたって言わないひとも、それに気付けるひとも、疲れたって言えるひともわたしも、そのままでいいんだよね。いいって言ってよ。 あったかい耳栓して眠くなるやつ、ドラッグストアで買うか迷って買わなかった。 * ムーンダストとガーベラを用意してくれた人に「紫檀ちゃんは実物より文章のほうが張り詰めている」と言われた。嬉しかった。今はまだ夜になりたい。

          ラッキーストライク

          Flash night

          ・1日に2回も忘れ物をした。1回目は新横浜、2回目は名古屋。 ・忘れ物承り所はとてもひっそりとした小部屋で、美術館やライブハウスよりも非日常的な空間に感じた。部屋のなかには常に4人くらい忘れ物を探している人がいる。1人減ってもまたすぐ誰かが現れる。新幹線でシュガータイムを読んでいたから、小川洋子の小説みたいだと少しわくわくしてしまった。忘れ物は見つからなかった。 ・初めて東京以外で観る好きなバンドは眩しくてかっこよくて、なにもかもここに置いていきたい気持ちになった。大体い

          カレーとカプチーノ

          コミュニティが色々あるとして、時と場合によりその色々に溶け込めるグラデーション人間になりたいと思っていたら帰り道がわからなくなった。皆が家に着く頃、自分は迷子で、他人の家のカレーの匂いに懐かしさと不安を覚え泣きそうになる。短歌は寂しがり屋に向いているが、究極の寂しがり屋には向いていない。 彷徨っているうちに喫茶店を見つけたので入ることにした。カプチーノを注文すると柑橘系の、なにかよくわからない物体がお行儀よく載っていた。 カプチーノを飲みながら、最近行った展覧会のことを思い

          カレーとカプチーノ

          memento

          ・おいしいパン屋さんのパン、だとおいしいはパン屋さんにかかっているように感じる。おいしいスーパーのパン、だとおいしいはパンにかかっているように感じる ・最近よく夢にディズニーランドが出てくる ・早く教習所に行かないと。その前にコンタクトレンズと眼鏡を新調しないと ・卒業できるのか不安 ・短歌をつくる資格を剥奪されてもおかしくないくらい酷いことを大事な人に言ってしまう悪い癖があるみたいで、私は死んだら地獄に落ちます ・ブルーの空想採集帳に何を書くか迷っていたけれど書き

          憧憬と箱庭

          第1志望の高校受験会場で「ごめん、シャー芯貸してくれない……?」と言われた。ふんわりした長い髪の可愛い女の子だ。大事な受験でシャー芯が無くなるなんて相当焦っていたと思う。受験生が沢山いるなかで、わたしを選んで話しかけてくれたことが少し嬉しい。すぐに渡して、一緒に通えたらいいなあと思いながら試験を解いた。 結果は不合格だった。 第1志望校で直接受け取った封筒の感触や、合格者と不合格者で別れる順路をまだ覚えている。忘れたいような、忘れたらいけないような変なかんじのまま。 併願

          憧憬と箱庭